アウエル小体
アウエル小体とは、白血病性の骨髄芽球または前骨髄球の細胞質にみられることがある、赤紫色の針状ないし棒状の封入体である。


概要
アウエル小体((英)Auer rod、Auer body)とは、急性骨髄性白血病(AML)や急性前骨髄球性白血病(APL)などで、骨髄芽球または前骨髄球の細胞質にみられる、針状ないし棒状の結晶様の封入体であり、アズール好性で赤紫色に染まる。
アウエル小体はペルオキシダーゼ陽性であり、アズール顆粒(一次顆粒)が、正常に成熟できずに融合したものと考えられている[1]。
アウエル小体は細胞質内に一つのことも、複数みられることもある。細胞質内に多数のアウエル小体を認める場合は、そのような細胞をファゴット細胞(英)faggot cell[※ 1])と呼ぶ。ファゴット細胞は、ほとんどの場合、急性前骨髄球性白血病(APL)でみられる。
アウエル小体は、米国の医学者、ジョン・アウエル(John Auer)にちなんで命名されている。アウエルは1903年に白血病細胞に針状ないし棒状のアズール好性の細胞質封入体を見出した。
関連する病態
アウエル小体がみられる病態
アウエル小体は、急性骨髄性白血病などの腫瘍細胞にみられるものであり、正常な細胞には存在しない。 骨髄芽球や前骨髄球の段階でみられるのが通常であるが、まれに、腫瘍細胞から分化した成熟した好中球にみられることもある。
急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病(AML)の多くのタイプで見られるが、特に多いのは、急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類:M3)で、 ファゴット細胞(束状のアウエル小体をもつ細胞)が見られることがある。
急性単球性白血病(FAB分類:M5)でもアウエル小体はみられることがある。
ただし、急性骨髄性白血病の最未分化型(FAB分類:M0)や急性巨核芽球性白血病(FAB分類:M7)ではアウエル小体はほとんどみられない[1]。
| 急性白血病FAB分類 | メイ・ギムザ染色でアウエル小体を認めた率 ([2]より改変) |
|---|---|
| M1 急性未分化型骨髄芽球性白血病 | 12 / 22 (54.5 %) |
| M2 急性分化型骨髄芽球性白血病 | 14 / 22 (63.6%) |
| M3 急性前骨髄球性白血病 | 11 / 12 (91.7%) |
| M4 急性骨髄単球性白血病 | 1 / 11 (9.1 %) |
| M5 急性単球性白血病 | 0 / 3 |
| M6 赤白血病 | 0 / 2 |
その他の骨髄性白血病
慢性骨髄単球性白血病(CMML)などでもアウエル小体が見られる場合がある[1]。
臨床的意義
診断
アウエル小体は健常人ではみられない所見であり、アウエル小体の存在は急性骨髄性白血病(AML)を示唆する。
急性白血病では、リンパ系と骨髄系で治療法が全く異なるので、両系統の鑑別がきわめて重要であるが、芽球細胞にアウエル小体がみられたときは、骨髄系(急性骨髄性白血病、AML)と考えられる。また、アウエル小体の束(ファゴット細胞)がみられた場合は、基本的に、急性前骨髄球性白血病(APL)と考えられる。
脚注
- ファゴット(faggot)とは、棒の束の意味。
- 骨髄腫の産生する単クローン性の免疫グロブリンの軽鎖はκ(カッパ)型とλ(ラムダ)型のいずれかである。
- アウエル小体の存在は、腫瘍細胞の分化度が高い(正常な細胞に近い)ことを意味するためと解される。
出典
- Sehgal, Tushar; Sharma, Prashant (2023). “Auer rods and faggot cells: A review of the history, significance and mimics of two morphological curiosities of enduring relevance”. European Journal of Haematology 110 (1): 14-23. doi:10.1111/ejh.13872.
- 中村忍, 中西二, 吉田喬, 大竹茂樹, 伊藤恵子, 小林和美, 松田保「急性白血病FAB分類の問題点 特にリンパ球系白血病細胞と骨髄系白血病細胞の鑑別について」『日本臨床細胞学会雑誌』第25巻第6号、日本臨床細胞学会、1986年、1003-1009頁、doi:10.5795/jjscc.25.1003、ISSN 0387-1193、CRID 1390282679669509504。
- 米国血液学会イメージバンク(英語) Pseudo-Auer rods in a myeloma patient 1
- 米国血液学会イメージバンク(英語) Lymphoma with Auer Rods
- Mohammadnia Avval, Maryam; Kumar, Perikala Vijayananda; Dehghani, Fereydoon (2020). “Multiple Auer Rods in Fine-Needle Aspiration Smears of Medullary Thyroid Carcinoma: An Unusual Finding”. International Medical Case Reports Journal (Taylor & Francis): 85-88. doi:10.2147/IMCRJ.S244905. PMC 7071880. PMID 32210641.
- 中島秀明「18.骨髄異形成症候群の分子病態と治療」『日本内科学会雑誌』第109巻第9号、日本内科学会、2020年9月、1983-1991頁、doi:10.2169/naika.109.1983、ISSN 00215384、NAID 130008087254。
