インプレゾンビ

インプレゾンビは、X(旧・Twitter)広告収益を得ることを目的とし、インプレッション(閲覧回数)を増加させるための迷惑投稿を行うアカウントの俗称[1][2][3]。ミュートやブロックといった機能を利用しても、また別の投稿に同様のアカウントがゾンビのように湧くことに由来する[4]。リプライ機能を用いるアカウントは「リプライゾンビ」とも称される[5]ほか、インプレッションを増加させるための行為自体は「インプ稼ぎ」(インプレ稼ぎ、インプレッション稼ぎ)と称される[6]

概要

X(旧Twitter)の有料プランで利用可能な収益化機能(後述)を悪用するものである。閲覧数(インプレッション)を増加させる手口としては、以下のようなものがある。

  • 多く閲覧されている他のユーザーの投稿に対し、無関係な返信を行う[5]
  • 多く閲覧されている他のユーザーの投稿や返信を転載するもの[3][7]
  • トレンドに入っているハッシュタグを投稿する[3]

日本語の投稿であっても、実態は海外ユーザーが投稿したものというケースも多い[8][9][7][6]

中にはChatGPTCopilotなどのAPIを利用し、自動化したとみられるアカウントも存在する[10]

収益化機能導入直後は、無意味な文章・絵文字のみを投稿するようなインプレゾンビが大半であった。しかし、2024年1月ごろには、トレンドに入っているハッシュタグ、拡散された日本語ポストのコピー・アンド・ペーストなどを用いたインプレゾンビ(コピペゾンビ)が目立つようになったと指摘されている[3][11]

自動化されている「インプレゾンビ」botの出現トリガー実験によると、「初動の勢い」をとりつくターゲット選択に用いている[2]

背景

Xの「広告収益分配プログラム」

2023年8月より、一定の条件を満たすユーザはX Premium(旧Twitter Blue)に加入することによって、投稿の閲覧回数(インプレッション)に応じて収益を得ることができるようになった[12]。これはX社が広告によって得た収入をXで活動するクリエイターに分配する目的で開始された取り組みである[13]。収益の基準などは非公開ながらも、半年で100ドル前後の収入が得られたと報告するユーザも存在する[12]

なお、収益分配プログラムの開始前も「パクツイ」[注釈 1]によってインプレッションを集めるアカウントはあったが、それらはフォロワー数を増加させて別のサイトへ誘導したり、承認欲求を満たしたりといったものに過ぎなかった[14]

途上国の経済状況

インプ稼ぎのために行われた偽情報の発信源の一つとみられるパキスタンでは、深刻なインフレによる経済状況の悪化が続いており、仕事のない若者がSNSを利用して収益を得ようとする動きがある[6]。より多くのインプレッションを得るために国外の情報や言語も使用する例があるという[6]

NHKの取材によれば、パキスタンではXへの投稿によって日本円にして8000円前後を稼いだ例も報告されている[15]。パキスタンの平均月収は2023年時点で約2万円台と報じられているほか[16]、生活に困窮する世帯では8000円程度という事例もある中[15]、Xから得られる収入は比較的高いものとなっている。

その他

日本のユーザー1人当たりのX利用時間が世界1位であることや[4]、1日4000万人の利用者がいることから[17]、日本人の投稿がターゲットになっているとの指摘がある。

影響

令和6年能登半島地震と羽田空港地上衝突事故

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、救助を求める実際の投稿をコピー・アンド・ペーストしたものが見られた[7][18]NHKの調査によれば、1月5日時点で石川県珠洲市の同じ住所を挙げ、直接関係ない画像・動画を貼り付けた上で救助を求める偽の投稿が30件以上あり、合計で200万回以上閲覧されていた[18]。珠洲市の住所を挙げた投稿に関与したアカウント24件のうち、半数以上が居住地をパキスタンに設定しており、日常的にアラビア語ウルドゥー語で投稿しているものが9件あった[6]読売新聞の調査によれば、能登半島地震を巡り投稿された偽情報の多くは、海外の10か国以上から発信されていた[17]

コピー・アンド・ペーストされた投稿では元の発信者が分かりにくくなったり、既に救助済みの住所が拡散され続けたりするといった混乱が発生した。また、救助要請の文面を改変して、被災者本人かのように振る舞うものもあった[7]

他にも東日本大震災の動画を添付して、能登半島地震による津波であると誤認させる偽情報も投稿されていたり[18][19]、公共の避難情報や、防災情報を配信するアカウントの投稿にもインプレゾンビによるリプライが寄せられた[3]

さらに、能登半島地震の翌日に発生した羽田空港地上衝突事故においても、事故に関連したデマやコピー・アンド・ペースト投稿が多数見られ[1][6]、中には搭乗者による投稿をコピー・アンド・ペーストしたものもあった[20]

チャールズ国王死亡デマ

2024年3月19日に、「速報:チャールズ国王前立腺がんのため75歳で死去。情報筋が報じた」というフェイクニュースが一気に拡散された[21]。これに対し、ITジャーナリストの石川温氏は「X上で今、非常に出現している“インプレゾンビ”という存在が大きい」と指摘し、閲覧数を稼ぐことを目的に、検索に引っかかりやすい単語を羅列していると主張した[21]

花蓮地震 (2024年)

2024年4月3日に台湾東部で花蓮地震 (2024年)が発生し、XなどのSNSでは能登半島地震などこれまでの災害の動画を今回のものだとする誤った情報や偽情報が広がっており、こうした情報を収益を得る目的で投稿する「インプ稼ぎ」も多く見られている。中には、能登半島地震の際に確認された津波の様子や、2年前に台湾で起きた地震の際、地面が揺れる様子を撮影した動画を今回の地震によるものだとする投稿もあり、3日午後5時時点で閲覧回数が170万回以上に上るものもあった[22]

認証済みバッジへの影響

イーロン・マスクのTwitter買収後、以前は認証済みの著名人のみに付与されていた認証済みバッジがTwitter Blue(現在のX Premium)加入者にも表示されるようになった。その後収益化システムの導入によりインプレゾンビが出現し、インプレゾンビに青い認証マークが付与されていることが多いことから、青い認証済みバッジを持つアカウントがインプレゾンビとして認識されるようになった[23][24]。一般のTwitter Blue加入者にも表示されるほか、一定の条件を満たしたアカウントに自動で付与されることもあり[25]、これらのアカウントがインプレゾンビと誤認される問題が発生した[26]

批判と対策

行政や識者からの批判

前述した能登半島地震における誤情報の拡散を受け、日本政府は、災害時における偽情報は迅速かつ円滑な救命・救助活動の妨げになりかねないものとして、主要な事業者に対して、明らかに事実と異なり、社会的に混乱を招くおそれのある情報の削除などを総務省を通じて要請した[18]

林官房長官は2024年1月5日の記者会見で、能登半島地震に関する偽情報の投稿の背景に「多数の閲覧やフォロワーを集めたユーザーが収益を得られる仕組みが関連しているとの意見がある」と語った。また、この問題に対し「国際的な動向や表現の自由を確保する観点も考慮したうえで、幅広い関係者の意見を踏まえて必要な対応を検討」するとした[18]。2024年1月17日に日本政府はX(旧Twitter)などでは、能登半島地震関連情報や救助要請の偽情報拡散が救助活動の妨げになるため、該当投稿の削除をXなど事業者に要請していることを明らかにした。作業チームを立ち上げ、閲覧数やフォロワーの数が収益に繋がる仕組みが偽情報拡散の原因との指摘を踏まえ、偽情報拡散に対する制度面を論じることが決まった[27]

ITジャーナリストの三上洋は、「虚偽の投稿が救助活動を妨害する恐れもあり、人命の掛かった問題。X社は災害を悪用したインプレッション稼ぎができないよう、早急に対策すべきだ」とXの対応を批判した[7]。ジャーナリストの平和博は「本当に必要な情報が届かず、探せない情報空間が濁ってしまう状況が現に起きている」と指摘した[18]

Xによる対策

Xは、災害や戦争に関する投稿などを収益化に利用することを利用規約で禁じている[28]が、特に対策は一切行っておらず、規約が守られていないと指摘されている[18]

他にもXでは偽情報対策として、誤解を招く投稿に匿名で注釈を付けられる「コミュニティノート」が導入されているが、災害時のインプレゾンビに対しては効果が不十分だったとの批判がある[20]

Xの日本法人であるツイッタージャパン代表取締役の松山歩は2024年4月に行われた読売新聞とのインタビューにおいて、本問題の原因にもなっている収益分配プログラムについては「今後も続けていく」としながらも、偽情報に関してはAI(人工知能)やアカウントの削除などを活用しながら、対策を強化することを明らかにしている[29]

日本政府による対策

総務省の有識者会議はSNS事業者を対象に、偽情報の削除件数や監視体制などの調査を始めた。国内では「表現の自由」を尊重する観点から政府の介入には慎重で事業者の自主性に委ねるのが基本的な立場だったが、今回の事態を受け法制化を視野に議論が進められている。削除義務を課すのではなく、事業者に対し偽情報への対応についての報告を義務化することを想定している[30]

有志による対策

インプレゾンビのポストを非表示にできる各種のブラウザ拡張機能も有志によって開発されている[31]。また、スパム報告とブロックするという一連の動作を、ワンクリックで行えるようになるブラウザ拡張機能も開発されているが、インプレゾンビ行為を推奨するX社の非公認ツールのため、拡張機能の利用はアカウント凍結の恐れがあるとも指摘されている[32]

脚注

注釈

  1. 他のアカウントのツイートを、そのまま自分のもののように投稿する行為を指す俗称。ツイートをパクることの略。

出典

  1. FLASH編集部「「人として軽蔑する」広瀬アリスが激怒!デマ&“インプ稼ぎ”ツイート大量発生で巻き起こる「X収益化廃止」論」『FLASH。2024年3月24日閲覧
  2. tks24「X(旧Twitter)で出没する「インプレゾンビ」はどんな条件で出現? 実験結果が話題に」『INTERNET Watch』2023年11月21日。2024年1月4日閲覧
  3. コンタケ「SOS情報をコピペして救助を妨害 能登半島地震でX(Twitter)の“インプレゾンビ”改めて話題に」『ねとらぼ』2024年1月2日。2024年1月4日閲覧
  4. Xに跋扈する「インプレゾンビ」。正体を暴いてみたら…」『RadiChubu(ラジチューブ)』CBCラジオ、2024年2月7日。2024年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月9日閲覧
  5. 岡田有花Xに現れる“ゾンビ”の正体 「リプライゾンビ」「インプレゾンビ」はなぜ、意味のないリプライを繰り返すのか」『ITmedia NEWS』2023年12月1日。2024年1月4日閲覧
  6. 偽の救助要請など能登半島地震の偽情報 海外からの “インプレゾンビ”多く X収益化仕組みが影響か」『NHK NEWS WEB』2024年2月2日。2024年2月2日閲覧
  7. 太田宇律「架空住所から「たすけて」◆救助要請コピペ、Xの仕様変更も背景?」『時事ドットコム』2024年1月2日。2024年2月2日閲覧
  8. 篠原修司「“謎の外国人アカウント”で荒れるリプ欄。イーロン・マスク買収後、変わり果てたTwitterは「終焉」へと向かってしまうのか?」『集英社オンライン』2023年11月24日。2024年1月4日閲覧
  9. 望月悠木「Xでインプレッション稼ぎのリプライが増加 ITジャーナリストに聞く“分配プログラムがもたらした変化”と“今後のSNS勢力図”」『Real Sound|リアルサウンド テック』2023年10月8日。2024年1月5日閲覧
  10. tks24 (2024年1月25日). 他人が契約している生成AIを使えて、さらにインプレゾンビまで撃退できる画期的なハックが話題に”. INTERNET Watch. 2024年2月6日閲覧。
  11. Ikuta Genki「能登地震であふれる「コピペゾンビ」 デマ打ち消す自治体の発信力」『日経ビジネス』2024年1月15日。2024年1月17日閲覧
  12. X(Twitter)収益分配、始まる 半年分で1万円前後? 入金報告するユーザーも登場」『ITmedia NEWS』2023年8月8日。2024年1月7日閲覧
  13. 鈴木悠斗「Twitter、クリエイターが広告収益を得られるプログラムを開始」『PC Watch』2023年7月14日。2024年2月7日閲覧
  14. 高橋暁子「有吉弘行氏の「X」(旧Twitter)に謎外国人コメントが殺到--理由や問題点は」『CNET Japan』2023年9月23日。2024年1月5日閲覧
  15. SNSで横行 “インプレゾンビ”の正体は?投稿者に直撃すると…”. NHK (2024年5月11日). 2024年5月11日閲覧。
  16. 経済不安のパキスタン 仕事を求めて国外へ”. NHK (2023年6月29日). 2024年5月11日閲覧。
  17. 能登半島地震、途上国からSNSに大量偽情報…X利用が1日4000万人の日本向け「インプ狙い」」『読売新聞』2024年3月25日。2024年3月25日閲覧
  18. 地震後 SNSに偽「救助要請」多数 収益目的 “インプ稼ぎ”か」『NHK NEWS WEB』2024年1月5日。2024年1月11日閲覧
  19. 平和博能登半島地震でXトレンド入り、フェイクとコピペの「インプ稼ぎ」とは?」『Yahoo!ニュース』。2024年1月5日閲覧
  20. 能登半島地震でデマあふれる…Xは「ポンコツになった」イーロン・マスク氏への批判高まる 羽田事故でも」『中日スポーツ・東京中日スポーツ』2024年1月3日。2024年1月11日閲覧
  21. “チャールズ国王死亡”デマ拡散の裏に「インプレゾンビ」 報酬目当てに閲覧数稼ぎ(テレビ朝日系(ANN))”. Yahoo!ニュース (2024年3月19日). 2024年3月25日閲覧。
  22. “「インプレゾンビ」「インプ稼ぎ」も 台湾東部の地震 SNSで誤情報や偽情報広がる”. NHK ニュース (2024年4月4日). 2024年4月4日閲覧。
  23. 「Xの青バッジなんていらない!」今や公認の証が“いい迷惑”に…凋落が止まらないワケ”. ダイヤモンド・オンライン (2024年4月12日). 2024年4月22日閲覧。
  24. 「インプレゾンビ」がまき散らす偽情報に注意(マイナビニュース)”. Yahoo!ニュース. 2024年4月22日閲覧。
  25. 勝手に付いたXの「青バッジ」、さっそく非表示にするアカウント続出 「わたしもインプレゾンビに?」「青バッジって伝染るの」”. ITmedia NEWS. 2024年4月22日閲覧。
  26. X、青バッジを“非表示”にする機能を削除へ 一部ユーザーから悲鳴 「俺はゾンビじゃない」”. ITmedia NEWS. 2024年4月22日閲覧。
  27. 能登半島地震 SNSで偽情報 政府 有識者チーム設置し対策検討へ」『NHK NEWS WEB』2024年1月17日。2024年1月17日閲覧
  28. Xにおけるクリエイターの収益化に関する規定”. X. 2024年2月6日閲覧。
  29. 小林泰裕 (2024年4月28日). ツイッタージャパンは「いずれXを含んだ社名に」…日本でエンジニアを「今後かなりの人数採用」”. 読売新聞. 2024年4月30日閲覧。
  30. 能登半島地震のニュースに「日本は美しい」「幸せになって」…インプ稼ぎで「X」にあふれる無意味投稿」『読売新聞』2024年3月25日。2024年3月25日閲覧
  31. 山口真弘「Xのリプライ欄もこれでスッキリ!? 「インプレゾンビ」撃退に役立つChrome拡張機能5選」『マイナビニュース』2024年2月3日。2024年2月4日閲覧
  32. tks24「インプレゾンビを一発で葬る、報告とブロックをまとめて行えるChrome拡張機能が登場」『INTERNET Watch』2024年1月9日。2024年1月14日閲覧

関連項目

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