ギシギシ

ギシギシ(羊蹄[8]学名: Rumex japonicus)はタデ科多年草。別名、シノネウマスカンポオカジュンサイなどともよばれる。生薬名および中国植物名は、羊蹄(ヨウテイ)[9]。市街地周辺から山地まで分布し、やや湿ったところに群生する。春から夏に淡緑色の花を房状に咲かせる。食べられる野草としても知られ、ぬめりのある春の若芽を採取して利用される。根は便秘や皮膚炎に薬用される。

ギシギシ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
: ナデシコ目 Caryophyllales
: タデ科 Polygonaceae
: スイバ属 Rumex
: ギシギシ R. japonicus
学名
Rumex japonicus Houtt. (1777)[1]
シノニム
和名
ギシギシ
英名
Japanese dock

名称

和名の由来は諸説あるが、正確な語源は明確ではない[10][11]。京都の方言に由来するという説や、子供たちの遊びで茎をすり合わせてギシギシという音を出していたことからこの名があるという説[10][11]が言われているほか、実が詰まってついていて、穂を振るとギシギシと音を立てるからともいわれる[12]。古い名称は(し)で、根を薬用にしたため「之の根」(シノネ)の別名が生まれている[10]

日本の地方によって、さまざまに呼び名が変わり、イヌスイバ[13]、ウマスカンポ[9][14][8][13]、ウマスイコ[8]、ウマスイバ[8]、ウマスイベ[9]、オカジュンサイ[14][8][13]、オスシグサ[14]、イチシ[15]、ウシグサ[16]、ウシシーシー[15]、ウマスカナ[15]、ウマズイコ[15]、ウマノスカンコ[15]、シブクサ(しぶ草)[15]、シノネ[10][15]ともよばれている。花言葉は「忍耐」「隠れ話」「抜け目のなさ」「朗らか」である[15]

漢名(中国名)で「羊蹄」と書くのは、花の形がに似ているからだとされている[12]

分布・生育地

日本の全土(北海道本州四国九州沖縄[17])、朝鮮半島中国千島列島樺太の市街地周辺から山地に分布する[11][18][19]。やや湿った道ばたや野原、山野、土手、公園や、水辺、湿地、田のあぜなどに群生する[10][19]。低地から海抜1000メートル (m) くらいの高所にかけて、群生することが多い[14]。ギシギシは水脈に沿って群生しやすいため、地下水位を知る指標植物のひとつになっている[8]

小川の土手に生えているギシギシ

形態・生態

草丈は、40 - 130センチメートル (cm) 前後になる[15][19]は黄色く、太くて堅い[8][17]。春から夏に伸びるは直立して高さ1メートル (m) 内外になり、茎の際から束になってが生える[19]。早春に出る根生葉は、長さ10 - 25 cmの長楕円形で長い柄があり、先端が尖って[14]、基部がハート形に丸みを帯びるが[20]、上部の葉は柄が無く幅も狭くなる[21]。葉の縁は大きく波打つ[18]。根生葉は花期にはほとんど枯れる[17]

春から夏にかけ(5 - 8月ころ)、分枝した茎の先に花穂を伸ばし、上部で分枝し多数の円錐花序総状花序とも[8])を出す[10][19]。立ち上がった長い花茎には、節から輪生状に、薄緑色で目立たない小さいを鈴なりにつける[10][16][18]。花は花弁をもたず、6片の(花被片)からなり、それらが2列に並ぶ[18][17]

花が終わると内側の3つの萼が発達し翼片状となって、中央部が次第にこぶ状に膨らんで、3つの稜のある痩果を包み、たくさんつける[16][18][22]。この翼は心形で縁に微細な鋸歯がある[18][22]。こぶ状の膨らみは3個で同じ大きさになる[17]。実は熟すと、緑色から褐色へと変化する[16]。痩果は3稜形で両端が尖っており、茶褐色をしている[22]

花を咲かせるのは初夏であるが、秋には発芽して、茎をのばさずに、地面にへばりつくように株の中心から放射状に多くの葉を広げたロゼット状態の姿で冬の寒さを越す[23]

利用

根は緩下剤や皮膚病の薬になるほか、葉を開く前の若芽は食用になる[17]

薬用

根や根茎には、エモジンチリソファノールなどのアントラキノン誘導体アントロンタンニンが含まれている[10]。アントラキノン誘導体には緩やかに便通をよくする緩下作用があり、緩下薬として古くから知られている[10]。また、タンニンには組織細胞を引き締める収斂作用があり、腫物などの炎症を鎮める消炎薬に用いられている[10]

地上部が枯れ始める10月ごろには根を掘り上げて水洗いして土砂を取り除き、厚さ5cmに刻んで天日干しにしたものが生薬になり、羊蹄根(ようていこん)[8]、もしくは羊蹄と称されている[10][9]

便秘の緩下薬として、羊蹄根1日量3 - 10グラムを約400 - 600ccの水で半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する方法が知られている[10][9]民間薬としては、生の根をすりつぶしていんきんたむしなどの皮膚病や、おでき腫れ物などの患部に直接につける用法が知られている[10][9]。胃腸が冷えやすい人や、妊婦への服用は禁忌とされている[9]

食用

早春の時期(2 - 3月)、葉が開ききる前の鞘に包まれた若芽は日本の東北地方で山菜として食用されており、透明なぬめりがある液体に覆われていて独特の食感があることから方言で「オカジュンサイ」と称されている[10][19][8]。利用する若芽は丸く巻き、薄い皮を被って透明な粘液に包まれているため手でちぎることはできず、ナイフなどを使って採取される[13]

若芽は袋状のさやを取り除いて軽くゆでて水にさらして灰汁を抜き、お浸し和え物煮浸し三杯酢、汁の実などに調理される[10][19][8]。多少のクセがあるため、生の若芽を塩漬けぬかみそ漬けにしても食べる[14][13]シュウ酸を含むため、生食や多食は避けるよう注意喚起されている[13]。近縁種のスイバの若葉は酸味があるが、ギシギシと同様に食用される[10]

近縁種

外見がよく似た仲間にスイバ(タデ科)がある[8]。ギシギシはが黄色いのが特徴で[9]、スイバの葉は細長い三角形で基部が矢じりのようになっているが、ギシギシの葉では基部が丸みを帯びているので区別ができる[8][20]。また、スイバの葉は赤みを帯びていて上部は茎を抱くが、ギシギシの葉は鮮やかな緑色をしていて茎を抱かない点や[15]、スイバの方が草丈80 cmでやや小型であること、花穂が赤味を帯びる点でも区別できる[8]

ギシギシの近縁種に、ユーラシア原産の帰化植物で、葉が細長くて波を打つナガバギシギシヨーロッパ原産で北海道に帰化し、葉が大きくて中脈が赤みを帯びるエゾノギシギシ、明治時代にヨーロッパから帰化したアレチギシギシなどがある[16][12]。葉の縁が波打っているものは、日本へ移入してきた外来種であり[10]、ヨーロッパ原産の帰化雑草である[12][24]

脚注

  1. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex japonicus Houtt. ギシギシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  2. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex japonicus Houtt. var. yezoensis (H.Hara) Ohwi ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  3. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex crispus L. var. japonicus Makino ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  4. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex crispus L. subsp. japonicus (Houtt.) Kitam. ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  5. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex japonicus Houtt. var. sachalinensis (Regel) H.Hara ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  6. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex yezoensis H.Hara ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  7. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Rumex regelii F.Schmidt ギシギシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月14日閲覧。
  8. 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 19.
  9. 貝津好孝 1995.
  10. 田中孝治 1995.
  11. 日野 東 2009, p. 287.
  12. 稲垣栄洋 2018, p. 135.
  13. 金田初代 2010, p. 20.
  14. 奥田重俊監修 講談社編 1996, p. 15.
  15. 稲垣栄洋 2018, p. 134.
  16. 亀田龍吉 2012.
  17. 山田孝彦・山津京子 2013, p. 97.
  18. 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 192.
  19. 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著 2003, p. 14.
  20. 田中修 2007, p. 164.
  21. 長田武正 1981, p. 384.
  22. 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 119.
  23. 田中修 2007, p. 165.
  24. 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 193.

参考文献

  • 稲垣栄洋ワイド判 散歩が楽しくなる 雑草手帳』東京書籍、2018年5月22日、134-135頁。ISBN 978-4-487-81131-1。
  • 奥田重俊監修 講談社編『新装版 山野草を食べる本』講談社、1996年2月10日、15頁。ISBN 4-06-207959-3。
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、183頁。ISBN 4-09-208016-6。
  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、20頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
  • 亀田龍吉『雑草の呼び名辞典』世界文化社、2012年2月20日、60-61頁。ISBN 978-4-418-12400-8。
  • 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、192頁。ISBN 978-4-09-208303-5。
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『増補改訂 草木の 種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2018年9月20日、119頁。ISBN 978-4-416-51874-8。
  • 高野昭人監修 世界文化社編『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、19頁。ISBN 4-418-06111-8。
  • 高橋秀男監修、田中つとむ、松原渓『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、14頁。ISBN 4-05-401881-5。
  • 田中修『雑草のはなし』中央公論新社〈中公新書〉、2007年3月25日。ISBN 978-4-12-101890-8。
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、82頁。ISBN 4-06-195372-9。
  • 長田武正『原色野草観察検索図鑑』保育社、1981年、384頁。ISBN 978-4-586-30058-7。
  • 林 弥栄、平野隆久『野に咲く花』山と渓谷社〈山渓ハンディ図鑑〉、1989年、368頁。ISBN 978-4-635-07001-0。
  • 日野 東『日本の野草・雑草』成美堂出版、2009年、287頁。ISBN 978-4-415-01009-0。
  • 山田孝彦・山津京子『万葉歌とめぐる野歩き植物ガイド』(初版)太郎次郎社エディタス、2013年8月15日、97頁。ISBN 978-4-8118-0762-1。

関連項目

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