ゴア・ガジャ

ゴア・ガジャ: Goa Gajahジャワ語: Guwa Gajah、「〈gajah〉の洞窟〈goa〉[1]」〈: ‘Elephant Cave’[2]〉の意[3]ゴア・ガジャ寺院: Pura Goa Gajah[1])は、インドネシアバリ島中南部の[1]ウブド東郊外に位置する[4]11世紀ヒンドゥー教寺院(プラ、pura[5])である[6]ブドゥルの谷間にある「象の洞窟」とも呼ばれる石窟寺院および長方形の沐浴場からなる[3]

ゴア・ガジャ
Goa Gajah
Guwa Gajah
ゴア・ガジャ寺院「象の洞窟」正面
基本情報
所在地 ブドゥル
座標 南緯8度31分24秒 東経115度17分11秒
宗教 ヒンドゥー教
地区 ギャニャール県ブラバトゥ郡
バリ州
インドネシアの旗 インドネシア
教会的現況 遺跡
完成 11世紀
建築物
正面
横幅 沐浴場 20m(南北)
奥行 沐浴場 7m(東西)

名称

かつて石窟入口の主要彫像がゾウに似るとされたため「象の洞窟」と称されたといわれるほか、寺院内部にあるゾウの頭を持つヒンドゥー教の神ガネーシャの石像にちなんで名付けられたともいわれる[7]。また、バリ島にゾウは生息していなかったが、かつて付近を流れるプタヌ川が「象 (gajah) の川 (lwa)」(‘LwaLwah/LohGajah’) と呼ばれていたことにより名付けられた可能性も考えられる[6]

歴史

発掘中の沐浴場(1954年)
胸元に水差し(噴水)を備えた女神像(アプサラス)がある沐浴場

石窟の由緒は明らかでないが、精神的な瞑想の場所として構築されたものと考えられる[7]。伝承によると、伝説的巨人クボ・イワの爪によって造られたと伝えられるが[8]、石窟内の刻文様式の検証などにより、この聖域はおそらく11世紀のものと考えられ[9]、11世紀前半[3]バリ王国ワルマデワ王朝)の王ウダヤナ(Udayana〈ダルモーダーヤナワルマデーワ〉)とジャワクディリ朝の王女マヘーンドラダッターの間に生まれたクディリ朝のアイルランガ王[10]1001年頃-1049年[11]の時代と考えられている[12]。ヒンドゥー教の聖域としての機能を果たしたが、近くの遺跡および仏教寺院の遺構により、この一帯は初期バリの仏教徒の要地でもあったと考えられる[6]

この場所は、マジャパヒト王国時代の1365年に記された宮廷年代記『ナガラクルタガマ』(ナーガラクルターガマ、: Nāgarakṛtāgama[1])として知られるジャワの詩篇『デーシャワルナナ』(“Desawarnana”、「地方の描写」の意)[13]に言及されている[6]

石窟はオランダ東インド会社: Verenigde Oost-Indische Compagnie、略称: VOC)の職員により初めて報告され[14]1923年オランダの考古学者によって再発見されたが、噴水を備えた長方形の沐浴場はインドネシア独立後の1954年になって発見されたもので[15]1979年にかけて発掘および調査が行なわれた[14]。ゴア・ガジャ遺跡は、1995年国際連合教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産文化遺産)暫定リストに登録されたが[6]2015年には、ほかの11か所とともに削除されている。

構成

「象の洞窟」入口のボーマ
沐浴場の女神像(アプサラス)

石窟寺院は、入口の岩石に刻まれた威嚇するような鬼面により特徴づけられ、その意図は悪霊を追い払うことにあったと考えられる。この主たる形象は地界を守護するボーマ(ボモ、bhoma[1]、〈またはキルティムカ[16]〉)とされるが[3]、耳飾りが見られることから一般にバリに伝わる魔女ランダともいわれる[9]。また周囲には森や動物の意匠などが数多く彫られている[7]

石窟内は、高さ2メートル、平面構造は「T」字形で[9]、右(東)・左(西)にそれぞれ神像を祀る壁龕がある[3]。発見後の1925年に、洞内には何もなかったことが記録されている。その後[17]、右(東)の壁龕にヒンドゥー教のシヴァの三大神(三神一体)を象徴するリンガヨニ(トリリンガ、Trilingga)が祀られ、左(西)の壁龕にはシヴァの息子ガネーシャの坐像が安置されている[18]

「象の洞窟」の前方には、女神ハーリティー: Hārītī、鬼子母神)などいくつかの彫像がある。向かって左端にあるハーリティーの彫像は、結跏趺坐(けっかふざ)で、右手は与願印をなし、左手で1人の幼児を抱いて、左右6人の子供に囲まれた姿を描いている。ハーリティーは、バリにおいてメン・ブラユト (Men Brayut〈Nini Brayut〉) として知られる女神と同一視されている[1]

1950年代に発掘された[19]この複合体の大規模な聖池である沐浴場は、南北20メートル、東西7メートルとなる[20]。東側の壁面には、7つの聖なる川であるガンジス川サラスヴァティー川ヤムナー川ゴーダーヴァリ川インダス川カーヴィリ川ナルマダー川を表す水差しを持つ7体の女神像(アプサラス)があったが、そのうちの1体は崩壊により失われており、6体の彫像が残存する。

脚注

  1. 山口しのぶ「インドネシア、バリ島の寺院における シヴァ=ブッダ観念の表出 - バリ・ヒンドゥー寺院に見られる仏教的要素を中心として」(PDF)『東洋思想文化』第6巻、東洋大学文学部、2019年3月、108(61)-88(81)、ISSN 2188-29912020年5月6日閲覧
  2. Davison, Julian (2003) (英語). Introduction to Balinese Architecture. Periplus Asian Architecture Series. Tuttle Publishing. p. 52. ISBN 0-7946-0071-9
  3. 『インドネシアの事典』 (1991)、158-159頁
  4. 『バリ島ウブド 楽園の散歩道』ダイヤモンド社地球の歩き方 Gem Stone 030〉、2009年、8・77・80-81頁頁。ISBN 978-4-478-07510-4。
  5. 『インドネシアの事典』 (1991)、381頁
  6. Gregory Rodgers (2019年6月26日). Goa Gajah in Bali: The Complete Guide (英語). tripsavvy. dotdash.com. 2020年5月6日閲覧。
  7. Goa Gajah Temple in Bali (英語). Go Guides. Hotels.com. 2020年5月6日閲覧。
  8. Ridout, Lucy; Reader, Lesley (2002). The Rough Guide to Bali & Lombok (4th ed.). Rough Guide. p. 230. ISBN 1-85828-902-5. https://books.google.co.jp/books?id=JlcL6HeY-uAC&pg=PA230&dq=kebo+iwa+goa+gajah&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjOgdqz-5bpAhWTP3AKHf_BBUgQ6AEIJzAA#v=onepage&q&f=false 2020年5月6日閲覧。
  9. artanegara (2018年11月12日). Goa Gajah Beserta Peninggalan di Dalamnya (Bagian.1) (インドネシア語). Indonesiana Platform Kebudayaan. Balai Pelestarian Cagar Budaya Jawa Tengah, Direktorat Jenderal Kebudayaan. 2020年5月6日閲覧。
  10. 『インドネシアの事典』 (1991)、87頁
  11. 『インドネシアの事典』 (1991)、41頁
  12. 伊東照司『インドネシア美術入門』雄山閣、1989年、82頁。ISBN 4-639-00926-7。
  13. 『インドネシアの事典』 (1991)、302頁
  14. Harmonisasi Hindu-Budha di Goa Gajah (インドネシア語). Gema Merdeka. posbali.com. 2020年5月6日閲覧。
  15. Goa Gajah (英語). Lonely Planet. 2020年5月6日閲覧。
  16. フィリップ・ローソン 著、レヌカー・M、永井文、白川厚子 訳『東南アジアの美術』めこん、2004年(原著1967年)、350頁。ISBN 4-8396-0172-0。
  17. 伊東照司『インド東南アジア古寺巡礼』雄山閣出版、1995年、169頁。ISBN 4-639-01311-6。
  18. artanegara (2016年9月22日). Goa Gajah Beserta Peninggalannya (Bagian.2) (インドネシア語). Indonesiana Platform Kebudayaan. Balai Pelestarian Cagar Budaya Jawa Tengah, Direktorat Jenderal Kebudayaan. 2020年5月6日閲覧。
  19. Pringle, Robert (2004). Bali: Indonesia's Hindu Realm. Short History of Asia Series. Allen & Unwin. p. 61. ISBN 1-86508-863-3
  20. 中村浩『ぶらりあるきインドネシアの博物館』芙蓉書房出版、2015年、197頁。ISBN 978-4-8295-0655-4。

参考文献

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