ハリギリ

ハリギリ(針桐[5]学名: Kalopanax septemlobus)は、ウコギ科ハリギリ属落葉高木。別名、センノキ(栓の木)、ミヤコダラテングウチワヤマギリなどがある。肥沃な土地に自生することから、開拓時代は農地開墾の適地の目印とした[5]。材はケヤキに似た年輪模様が美しく、建築材や家具材としても貴重である。若芽は山菜としての利用もある。

ハリギリ
7-8月、枝先に多数の散形花序を出す
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : バラ亜綱 Rosidae
: セリ目 Apiales
: ウコギ科 Araliaceae
: ハリギリ属 Kalopanax
: ハリギリ K. septemlobus
学名
Kalopanax septemlobus (Thunb.) Koidz. (1925)[1]
シノニム
和名
ハリギリ(針桐)

名称

和名「ハリギリ」は、若い枝に大型の鋭いトゲがあることに由来し、葉がキリに似るため「針のある桐」の意味である[6][7][8]。「キリ」については、材質がキリに似ているというところから来たものだという説もある[9]

ハリギリにはいくつか別名があり、センノキ[1][10]、ミヤコダラ[1]でもよばれる。ニセゲヤキという別名があり、ハリギリとケヤキは板にしたときに年輪模様が似ているため名付けられたとされる[5]。また芽が山菜として有名なタラノキに似ていることから、ハリギリの別名には「タラ」がついたものが多く、アクダラ、オオダラ、アホダラなどの異名もある[5]。山菜としての地方名にオオバラ(中部地方)などがある。大きなサイズのカエデと見まごうほどの大きな葉は天狗の羽団扇にも例えられ、地域によってはテングノハウチワやテングッパという呼び名もある[9]。宮城県の地方名でセノキという呼び名がある[11]

アイヌ語では「アユㇱニ(ayusni)」と呼ばれる[12][13]。これは「アイウㇱニ(ay-us-ni)」(とげ・多くある・木)という意でついた名である[13][9]

分布・生育地

日本朝鮮半島中国の原産[14]。日本全土(特には北海道)、千島列島、朝鮮半島・中国に分布する[5]。平地から山地(深山、高山)まで分布し[15]雑木林[8]、肥沃な土地に自生する[5]

形態・生態

落葉広葉樹高木で、幹は直立し、高さ10 - 20メートル (m) 、大きいものは30 mになる[15]。幹は直径1メートル (m) にも達する[15][5]。成木は大きな枝が比較的まばらに張り出し、枝先は棒状になる[16]。若木は、枝や樹幹に太くて鋭いとげがあるが[5]、老木になるに従い鋭さを失いトゲはなくなる[7][17]。幹の樹皮は褐色から黒褐色で[6][15]、粗くて深く縦に裂け目が入りコルク質で厚く、この樹木を特徴づける[8][16]。枝は灰色を帯びる[15]。一年枝は、太くて皮目がありトゲがまばらに生えるが、トゲがないものもある[17]

互生し、枝先に集まってつく[5]葉柄は長さ7 - 30センチメートル (cm) 、葉身は円形で掌状で5 - 9裂し、カエデのような姿で径10 - 30 cmと大きく[15]天狗団扇のような形をしている。そこから「テングウチワ」と呼ばれることもある。葉の切れ込みは浅いものからヤツデのように深いものまで変化がある[7]葉縁には細かい鋸歯がある[6][18]。秋には黄褐色に紅葉する[5]。薄い黄色に黄葉するが、緑色が抜けきらない場合や、すぐ褐色になることが多く地味である[10]。条件によっては紅葉の仕方は変化し、一枚の葉の中に紫褐色や褐色が混じったり、緑色や他の色が葉脈に沿って残ったりと、様々な柄が見られる[19]

花期は7 - 8月[5]。枝の先に花柄が傘状に伸びて散状花序をつくり、淡黄色から黄緑色の小花が多数つく[6][15][8]。花はかなり細かい印象で、径5ミリメートル (mm) ほどで、たくさん咲いている様は目立って見える[11]。果期は10月で、直径5 mmほどの丸い果実がたくさん集まってつき、黄葉するころに藍黒色に熟す[5][11]。果実は冬でも残り、のちに果序の柄だけが散形状に枝に残る[17]

冬芽は卵形から円錐形で長さ5 - 10 mm[16]、暗紫褐色、無毛でつやがあり、芽鱗2 - 3枚に包まれる[17]。枝の頂につく冬芽(頂芽)は大きく、側芽は枝に互生してあまり大きくない[7][17]。葉痕はV字形で、維管束痕が多数つく[17]。春になると太い幹からも葉が芽吹いてくる[17]

利用

若芽は食用、根や樹皮は漢方薬になる[5]。食用について古くは、中国・の時代に書かれた飢饉の際に救荒食物として利用できる植物を解説した本草書『救荒本草』(1406年)に記載がみられる[16]。材は木目が美しく、建築材や家具材、器具、彫刻など幅広く利用される[6]

食用

朝鮮料理のハリギリの芽の料理

春に芽吹いたばかりの新芽は、同じウコギ科のタラノキコシアブラウドなどと同様に山菜として食用にされる[14]。採取時期はふつう5 - 6月ごろ、暖地が4月ごろ、平地では3月ごろから、高地では5月、高山では7月ごろまでが適期とされ、若芽をつけ根からもぎ取って採取し、食べるときははかまを取り去る[15][8]。林内のものは樹高が高く、採取がむずかしい[15]

見た目は「たらの芽」としてよく知られる近縁のタラノキの芽やコシアブラに良く似るが、苦味やえぐみとして感じられるあくがやや強く、灰汁抜きを必要とする[5][14]。そのためタラの芽と区別して食用にしない地方もあり、たとえば長崎方言では「イヌダラ」と呼んでタラノキと区別される。アクが強い山菜であるが、揚げると気にならなくなる[20]。かつてはタラの芽の代用のように扱われていたが、脚光を浴びてタラの芽とは別の風合いがあるとして好まれているという[7]。また、採取する時期によってアクの強弱はかなり異なる[20]

灰汁抜きは、熱湯に塩を入れて茹であげてから水にさらす[14]。灰汁抜き後は調理するが、強いクセのため、ごま・クルミ・酢味噌の和え物など味の濃いものに合い、汁の実などにして食べられる[5][14]。生のまま、天ぷら煮付けにしても食べられる[14]。天ぷらにすると、タラノキほどではないがタラの芽に似たほどよい香りとアクがあり、遜色がない味があるとも評されている[7][8]

木材利用

木材としては「センノキ」、あるいは「栓(せん)」と呼ばれるが名前の由来についてはよくわかっていない[7][11]。木肌が深く裂け、黒ずんだ褐色の木から取れる「オニセン」(鬼栓)と、木肌がなめらかな木から取れる「ヌカセン」(糠栓)、白っぽい材が多い中でも特に赤みを帯びているのを「アカセン」(赤セン)とよぶ[11]。鬼栓は加工には向かず、沈木に用いられる。一方、糠栓の材は軽く軟らかく加工がしやすいため、建築、家具[7]楽器エレキギター材や和太鼓材)、仏壇下駄賽銭箱に広く使われる。耐朽性はやや低い。環孔材で肌目は粗いが板目面の光沢と年輪が美しく海外でも人気がある。材の色は白く、ホワイトアッシュに似ていることからジャパニーズ・アッシュという名称で呼ばれることもある。材の白さを活かして、薄く削って合板の表面材としても使われる[5]

材は柾が通っていて美しく、漆を塗るとケヤキに似た木目を持つことから欅の代用品としても使用される[11]。この場合は着色した上で新欅欅調と表記されることもある。年輪に沿って大きな道管が円形に並ぶ典型的な環孔材であり、ハリギリは道管の直径が170 - 350マイクロメートル (μm)とケヤキやヤマザクラのそれよりも直径が一際大きく、1列に並んで年輪がはっきりと出るのが特徴である[5]。材の美しさから、木彫りの伝統工芸品に利用されることも多い[5]

北海道には大きな木が多く、明治末には下駄材として本州に出荷された[11]。現在でも国内産の栓の9割は北海道産である。

アイヌの文化においても、カツラなどとともに丸木舟の主要な材のひとつとして北海道全域で用いられ[12]、このほか木鉢や臼、杵、箕が作られた[13][11]

アイヌの口頭伝承

北海道日高地方沙流川流域のアイヌの口頭伝承で、ハリギリの丸木舟(アユㇱニチㇷ゚)に関する禁忌を扱ったものがある[21][12]。話の内容は採録された時代などにより差異があるが、以下に概要を示すものは、1996年(平成8年)3月25日に平取町のアイヌ、上田トシから聞き取り採録された「カツラの舟とハリギリの舟のけんか」と題された昔話である[21]。概要は以下の通り。

ある男がランコチㇷ゚(カツラの丸木舟)とアユㇱニチㇷ゚を作ったものの、いつしか軽く扱いやすいランコチㇷ゚ばかりを使っていた。

いつしか夜に川の方で物音がするようになった。ある晩、男はランコチㇷ゚とアユㇱニチㇷ゚が人間のように立ち上がり跳ね上がる様子を目撃する。その後、夢にランコチㇷ゚の女のカムイ(神)が現れ、ランコチㇷ゚のカムイに嫉妬したアユㇱニチㇷ゚の男のカムイが、夜になるとランコチㇷ゚のカムイを虐める旨、アユㇱニチㇷ゚のカムイが悪い心を持っている旨を話し、故にアユㇱニは舟から倒木、木片に至るまで燃やさなければ村に危害を与える、と伝えた。
男はそれを父親に伝えたところ父親は「チㇷ゚を燃やせ」と言ったため、男はアユㇱニのチㇷ゚や木片を残らず燃やした。その後父親は「その煙がどこへ向かったかを見ておくように」と言った。煙は海へ向かったことから、父親は「決して海で漁をしないように」と忠告した[21]

しかししばらく経ち、男は禁忌を破り別の男と漁に出た。すると、舟のようなものにたくさん棘が出た姿の化け物が現れた[21]。男らはタコのカムイ(神)と海波のカムイに助けを求め、村まで帰ることこそできたが、髪や髭が抜け落ち、全身が腫れ上がり肉も腐り、化け物のような姿となってしまった[21]。その後、村を通りかかった男が化け物のような姿になった男に訪ねたところ、ことの顛末とアユㇱニで舟をつくらないほうがよいことを話した[21]

しかし本田(1998)は、実際には道内各地でハリギリ製の丸木舟が出土、あるいは現存していることを踏まえ、かつては丸木舟の用材を特定の樹種に限定するようなことは行われておらず、むしろスギなどが自生しない北海道内における丸木舟制作においては主要な材としての地位を占めていたと考察している[12]

加えて、本田(1998)では物語自体の変容についても考察している。上田のほか1936年(昭和11年)、1963年(昭和38年)の記録を確認したところ、1936年の記録では女神は「作った以上、わたしと同じ程度に、そちらも使ってやったらよかったのに」と述べたうえで「センノキほど憑き神(カシ・カムイ)の悪い木はない」としていたが、その後の記録では、悪いのはハリギリの憑き神ではなくハリギリそれ自体、とされ強調されていった[12]。また、1936年の記録ではハリギリの舟を作ることを禁忌する内容はない[12]

以上より本田(1998)では、本来この物語は「人間が道具としてなにかを作った以上は、その道具が役割を全うできるようにきちんと使わねばならない」ということが主題であり、カツラと対立させる樹木はハリギリ以外でも良かったのであるが[注釈 1]、ハリギリの鋭利な刺、それで傷を作ってしまうと時として体中がはれ上がってしまうことが強く意識されるようになった結果、ハリギリの舟を禁忌とする物語に置き換り、沙流川流域のアイヌの生活、ひいては近年の情報の流れの中で他地域のアイヌの生活にも影響を与えるようになったと推察している[12]。また、本田の私見として、本来各地で用途や河川の様相によって見合った樹種が決められていた丸木舟についての伝承が変容し、ハリギリの舟のタブー視、他の樹種の神聖視が進んでいることを指摘している[12]

なお、現在では再びハリギリを用いた丸木舟の復元も行われている。例えば2020年(令和2年)4月に白老町にオープンする国立アイヌ民族博物館・国立民族共生公園(ウポポイ)での丸木舟と板綴舟(イタオマチㇷ゚)制作・展示にあたっては、東京大学附属北海道演習林から、ハリギリが提供されている[22]

脚注

注釈

  1. 実際、他地域における類似の伝承(美幌の菊池クラの「丸木舟の争い」)においては、カツラの舟に、旭川地域などで材として多く用いられていたヤチダモの舟が嫉妬する内容であり、結末も、単に主人公がヤチダモの舟を焼き、二度とヤチダモで作ることはなかった、というものである[12]

出典

  1. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Kalopanax septemlobus (Thunb.) Koidz. ハリギリ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  2. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Kalopanax pictus (Thunb.) Nakai, excl. typo ハリギリ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  3. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Kalopanax pictus (Thunb.) Nakai var. lutchuensis auct. non (Nakai) Nemoto ハリギリ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  4. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Eleutherococcus septemlobus (Thunb.) Mabb. ハリギリ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  5. 田中潔 2011, p. 51.
  6. 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 221.
  7. 吉村衞 2007, p. 80.
  8. 篠原準八 2008, p. 80.
  9. 辻井達一 1995, p. 260.
  10. 林将之 2008, p. 70.
  11. 辻井達一 1995, p. 263.
  12. 本田優子 (1998-03). “ハリギリの丸木舟 民族誌資料/考古資料/口承文芸資料にもとづく一考察” (PDF). 北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要 (4): pp.15-27. doi:10.11501/4428327. ISSN 1341-2558. http://ainu-center.hm.pref.hokkaido.lg.jp/kankou/kiyou/pdf/kiyou04-02.pdf 2019年5月1日閲覧。.
  13. 日本語名:ハリギリ、センノキ アイヌ語名:アユシニ”. アイヌ民族文化財団. 2022年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月20日閲覧。
  14. 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 155.
  15. 高橋秀男監修 2003, p. 164.
  16. 辻井達一 1995, p. 262.
  17. 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 36
  18. 林将之 2008, p. 701.
  19. 亀田龍吉 2014, p. 112.
  20. 篠原準八 2008, p. 81.
  21. 一般財団法人 アイヌ民族博物館 編『アイヌ民族博物館 民話ライブラリ2 上田トシの民話 2』(PDF)一般財団法人 アイヌ民族博物館、2015年2月28日、101-130頁https://ainugo.nam.go.jp/siror/contents/lib_pdf/C207.pdf
  22. 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林: 科学の森ニュース85号 (PDF). 東京大学 (2019年3月10日). 2019年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月1日閲覧。

参考文献

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、155頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日。ISBN 978-4-418-14424-2。
  • 篠原準八『食べごろ 摘み草図鑑:採取時期・採取部位・調理方法がわかる』講談社、2008年10月8日、80 - 81頁。ISBN 978-4-06-214355-4。
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、36頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、164頁。ISBN 4-05-401881-5。
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、51頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、260 - 263頁。ISBN 4-12-101238-0。
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8。
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、221頁。ISBN 4-522-21557-6。
  • 吉村衞『おいしく食べる山野草』主婦と生活社、2007年4月23日、80頁。ISBN 978-4-391-13415-5。
  • 佐竹義輔ほか編『日本の野生植物 木本Ⅱ』平凡社、1989年2月。ISBN 4582535054。

関連項目

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