タルビス

タルビスTarbisuアッカド語:Tarbiṣu)は、古代メソポタミア地方の古代都市(紀元前722年から紀元前612年)。新アッシリア帝国の王位継承者の宮殿があった。センナケリブエサルハドンアッシュルバニパルが王太子時代にここで学び、王位継承に備えた。紀元前614年または613年、新アッシリア帝国が滅ぼされる一連の戦いの中でメディア軍に占領されてからは衰退した。

タルビス

Tell Sharif-Khan
遺跡
古代メソポタミアの地図。タルビスはティグリス川沿い、ニネヴェのすぐ上流に位置する。
古代メソポタミアの地図。タルビスはティグリス川沿い、ニネヴェのすぐ上流に位置する。
タルビスの位置(イラク内)
タルビス
タルビス
イラク内の位置
座標:北緯36度24分54秒 東経43度07分11秒
イラクの旗 イラク
ニーナワー県

ニネヴェの北約5キロメートル[1]、現在のイラクニーナワー県北部にその遺跡テル・シェリフ・カーン(Tell Sherif Khan)がある[2]


歴史

タルビスは小さな町だったが、センナケリブ王によってアッシリア帝国の首都が近くのニネヴェに移されたことで変わった。2つの宮殿が建てられた。1つはセンナケリブの息子のエサルハドン王が、王太子のアッシュルバニパルのために建てたものである。宮殿の敷地内には2つの神殿があり、1つはネルガル神殿でセンナケリブによって建設され、もうひとつはアッシュルバニパルによって追加された。ニネヴェの市壁の北西にある門の1つはネルガルにちなんで名付けられ[3]、その門からタルビスまでの道はセンナケリブによって完全に石で舗装されていた。

タルビスはアッシリアのサルゴン王朝時代に特別な役割を果たした。ここに置かれた宮殿は「継承の家」(アッカド語でBītredûti[2] [4]、つまり、アッシリアの王位継承者が国家を統治するまでの準備を行う複合施設だった[5]。ここで継承者は徐々に王国の実務を学びつつ、政軍両方の重要な役割を果たすようになっていった。タルビスの「継承の家」には、センナケリブ(紀元前704年-紀元前681年)が王位に就く前に住んでいたことが知られている[4]

王位継承者としての彼の仕事には情報機関、つまり、州や国境地域から情報を収集して、それを父親のサルゴン2世(紀元前722年〜紀元前705年)に伝えることで、王が正しい判断を下せるようにすることが含まれていた[6]。センナケリブの息子であるエサルハドンは、「継承の家」で生まれ育った[4]。アッシリアの王位に就き、後継者にアッシュルバニパル(紀元前669〜627年)を選出した後、エサルハドンはタルビスの宮殿の改築と拡大を命じた。

我はエサルハドン、偉大な王、力ある王、世界の王、アッシリアの王、バビロンの支配者、シュメールとアッカドの王、下エジプトと上エジプトとクシュの諸王の王。このタルビス市の宮殿、すなわちアッシュルバニパルの邸、玉座の継承者のための継承の家を造営し、完成させた。[7]


アッシュルバニパル自身は、彼の碑文の1つで、王位継承者として、継承の家で包括的な教育を受けたことを強調している。

我は喜懼とともに荘厳なる継承の家に入った。祖にして我が父の父たるセンナケリブの設けた王室の中核。王子としてそして王としての力を練成した場所。祖にして我が父エサルハドンが生まれ育ち、アッシリアを覆う王権を練成し、すべての君公を従え、家族を育み、一族を盛栄させた場所。そして我アッシュルバニパルがナブー神の叡智を得て、あらゆる宗匠に師事して書を学び、矢を射る術を、騎馬と戦車を操る術を学んだ場所。[8]

「継承の家」とは別に、タルビスにはセンナケリブによって建立されたエメスラム神殿(シュメール語:é.mes.lam, tłum。「幽界の戦士の家」)つまりネルガルのための神殿もあった[9]

タルビスはバビロンナボポラッサル治世の12年目(紀元前614/613年)、キュアクサレス2世の率いるメディア王国軍によって占領された[10]。アッシリア帝国の滅亡後は衰退した。

考古学

ニネヴェ城壁図。ネルガル門は北壁の西寄りの場所にある

その遺跡であるテル・シェリフ・カーンは、1850年に大英博物館に支援されたオースティン・ヘンリー・レヤードによって初めて調査され、次に1852年にヘンリー・ローリンソンによって調査された[1]

当時の発見物の中に、アッシリア王エサルハドン(紀元前680年~669年)の碑文が刻まれた2枚の石板があり、その解読でこの場所をタルビス市と同定することができた [1][11]

1968年、モスル大学のイラクの考古学者チームがアメル・スレイマンの指導下にこの場所の発掘を開始した。アメル・スレイマンは、エサルハドンの碑文で、「継承の家」(アッカド語bīt redûti)として使われた宮殿の遺構を発見し、その大部分を調査した[7]

関連項目

脚注

  1. Russell 1999, p. 151.
  2. Iraq Significant Site 099 – Tell Sherif Khan (ancient: Tarbisu)”. アメリカ国防総省. 2020年10月23日閲覧。
    (『イラクの主な古代遺跡 099 テル・シェリフ・カーン(古代のタルビス)』)
  3. Elayi 2018, p. 188.
  4. Boardman et al. 1992, p. 140.
  5. Joannes 2007, p. 184.
  6. Joannes 2007, p. 57.
  7. Russell 1999, p. 152.
  8. Melville 2006, p. 363.
  9. George 1993, p. 127.
  10. ABC 3 (Fall of Nineveh Chronicle) - Livius (英語). Livius.org. 2020年10月24日閲覧。
    (『ABC3 ニネヴェ陥落の年代記』上記ページの和訳
  11. レイヤードは遺跡のある村の名を「Shereef-Khan」、発掘対象の名を「Tarbisi」と記している。なお、ネルガル神殿については「太陽神の神殿」「マーズか何か他のアッシリアの神」と煉瓦から読み取っていたが、大佐が「ネプチューンノアではないか」と言っていたとも記している。
    Sir Austen Henry Layard (1853) (英語). Discoveries in the Ruins of Nineveh and Babylon: With Travels in Armenia, Kurdistan and the Desert: Being the Result of a Second Expedition Undertaken for the Trustees of the British Museum. J. Murray. pp. 598-599. https://books.google.co.jp/books?id=1KITAAAAYAAJ 2020年10月29日閲覧。
    (『ニネヴェとバビロンの遺構における発見:アルメニア、クルディスタンと砂漠の旅を含む:大英博物館理事のために実施された第2次遠征の成果』(オースティン・ヘンリー・レイヤード、1853年)p.598~599)

参考文献

  • Russell, John Malcolm (1999) (英語). The Writing on the Wall: Studies in the Architectural Context of Late Assyrian Palace Inscriptions. Mesopotamian civilizations 第 9 巻. Eisenbrauns. ISBN 9780931464959. ISSN 1059-7867. https://books.google.co.jp/books?id=W9JWPGbAc3cC 2020年10月29日閲覧。
    (『壁に刻まれた文書:後期アッシリア宮殿の碑文について、建築上の文脈の研究』(メソポタミア文明シリーズ第9巻)(著:ジョン・マルコム・ラッセル、1999年、アイゼンブラウン社(米国)))
  • A Sulaiman, Discovery of the Assyrian City of Tarbisu, Adab al-Rafidain, vol. 2, pp. 15–49, 1971 (Arabic)
    (『アダブ・アル・ラフィディン』(イラクの高等教育・科学研究省の発行誌)第2号(1971年)p.15~49に収録されている『アッシリアの都市タルビスの発見』(著:スライマン)(アラビア語))
  • John E. Curtis and Albert Kirk Grayson (1982). “Some Inscribed Objects from Sherif Khan in the British Museum” (英語). Iraq (British Institute for the Study of Iraq) 44 (1): 87-94. doi:10.2307/4200153. https://www.cambridge.org/core/journals/iraq/article/some-inscribed-objects-from-sherif-khan-in-the-british-museum1/04686D0606B4BC2D1C8A7A90A4548653 2020年10月29日閲覧。.
    (ケンブリッジ大学年報「イラク」第44号(1982年)第1分冊p87~94に収録されている『大英博物館に収蔵されている、シェリフ・カーンで発掘された碑文つきの遺物』(著:ジョン・E・カーティス、アルバート・カーク・グレイソン))
  • Boardman, John; Edwards, I. E. S.; Sollberger, E.; Hammond, N. G. L. (1992-01-16) (英語). The Cambridge Ancient History: The Assyrian and Babylonian Empires and other states of the Near East, from the eighth to the sixth centuries B.C.. 3. Cambridge University Press. ISBN 9780521227179. https://books.google.co.jp/books?id=2IHbzQEACAAJ 2020年10月29日閲覧。
    (『ケンブリッジ古代史』第3巻第2部「アッシリアとバビロニア帝国と近東諸国家 紀元前8~6世紀」(編:ジョン・ボードマンほか、ケンブリッジ大学出版、1992年)
  • Joannes, Francis (2007) (ポーランド語). Historia Mezopotamii w I tysiacleciu przed Chrystusem. Poznanskie. ISBN 9788371774041
    (『紀元前一千年紀のメソポタミアの歴史』(著:フランシス・ヨアネス、2007年、ポズナンスキー社(ポーランド)))
  • Melville, Sarah C. (2006-07-21). “Ashurbanipal”. In Mark W. Chavalas (英語). Ancient Near East: Historical Sources in Translation. Blackwell Sourcebooks in Ancient History. Wiley. pp. 360-368. ISBN 9780631235804
    (『古代近東:歴史史料翻訳』(ブラックウェル古代歴史史料シリーズ)(編:マーク・W・チャヴァラス、2006年、ワイリー・ブラックウェル社(米国))p.360~368に収録されている『アッシュルバニパル』(著:サラ・C・メルヴィル))
  • Elayi, Josette (2018-09-14) (英語). Sennacherib, King of Assyria. Archaeology and Biblical Studies. SBL Press. ISBN 9780884143185. https://books.google.co.jp/books?id=OVNtDwAAQBAJ&lpg=PA188&dq=Tarbisu%E3%80%80nergal%20gate&hl=ja&pg=PA188#v=onepage&q=Tarbisu%E3%80%80nergal%20gate&f=false 2020年10月29日閲覧。
    (『アッシリア王センナケリブ』(著:ジョゼット・Elayi、2018年、聖書文学学会(米国)))
  • George, Andrew R. (1993) (英語). House Most High: The Temples of Ancient Mesopotamia. Mesopotamian civilizations. Eisenbrauns. p. 127. ISBN 9780931464805. ISSN 1059-7867. https://books.google.co.jp/books?hl=ja&id=ztdiAAAAMAAJ&focus=searchwithinvolume&q=+E-meslam 2020年10月29日閲覧。
    (『最も高い家:古代メソポタミアの神殿』(著:アンドリュー・R・ジョージ、1993年、アイゼンブラウン社(米国)))

関連書籍 

  • Jean-Jacques Glassner (2004). Benjamin Read Foster. ed (英語). Mesopotamian Chronicles. Writings from the ancient world. Society of Biblical Lit. ISBN 9781589830905. https://books.google.co.jp/books?id=1i5b6STWnroC 2020年10月29日閲覧。 (メソポタミアの粘土板などから得られた文章の集成。本文中では直接参照されていない)
    (『メソポタミア年代記:古代世界の記述』(著:ジャン・ジャック・グラスナー、ベンジャミン・リード・フォスター、2004年、聖書文学協会))

外部リンク

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.