ニセアカシア

ニセアカシア学名: Robinia pseudoacacia)は北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木である。植物学上の標準和名はハリエンジュ(針槐)[2][3]。日本には1873年に渡来した。蜜源植物として重要で、街路樹、公園樹、砂防・土止め用の植栽、材は器具用等に用いられる。季語は夏である。

ニセアカシア
ニセアカシア
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: マメ目 Fabales
: マメ科 Fabaceae
亜科 : マメ亜科 Faboideae
: ハリエンジュ属 Robinia
: ハリエンジュ
R. pseudoacacia
学名
Robinia pseudoacacia L. (1753)[1]
和名
ハリエンジュ(針槐)、
ニセアカシア
英名
Locust tree
ニセアカシア(ハリエンジュ、中国語名:刺槐)の茎に生えるトゲ

名称

一般的によく使われる名称[注 1]であるニセアカシアは、種小名pseudoacacia (「pseudo(ブシュウド)=よく似た・偽の・まがい物の acacia=アカシア」)をラテン語から直訳したものである[4]アカシアは熱帯に分布するのマメ科植物であるが、ニセアカシアは葉の形がこれに似ているということから「偽の」という名前がつけられている[4]。属名の Robinia(ロビニア)はフランスの植物学者ロビンの名に由来し、このことからフランスではロビニエの名のほうが通っている[4]

和名ハリエンジュは、古くから珍重されるエンジュに似た葉をつけるが、枝の付け根に針棘が発達することから名付けられた[5][3](右の写真)。この和名は植物学者の松村任三が命名したもので、植物学上ではこの名が比較的多く使われている[6]北海道では「アカシア」とよび親しまれているが、これは誤称である[2]。日本では1878年(明治11年)に、この樹に「明石屋」という字をあてて紹介されている[7]

英名のBlack locustはイナゴマメ(Locust bean)に似るとしてついた。イギリスでは False Acacia(フォールス・アカシア)で、「偽アカシア」の意味である[6]アメリカでは Locust (ローカス)、あるいは Black Locust(ブラック・ローカスト)とよばれる[6]。ニセアカシアは先駆植物(パイオニア植物)のひとつでもあるが、英語で Pioneer tree(パイオニア・ツリー)という名も持っており[6]、アメリカ西部開拓時代に、新しい町が生まれるたびにニセアカシアが植えられたことによる[6]

中国では洋槐という字があてられており、中国に多い槐樹に対する区分である[6]。また、徳国槐という字もあてられていて、これはドイツ(徳国)が租借していたチンタオ(青島)に大規模に植えられたことからきている[6]。 ニセアカシア(ハリエンジュ)の花言葉は、「慕情」とされる[3]

分布・生育地

北アメリカ原産(ペンシルバニアオハイオイリノイバージニア州を中心とする一帯[7])で、ヨーロッパや日本など世界各地に移植され、山野などに野生化している[2][8]。根粒菌が窒素固定するため、痩せた土地でもよく生育する特徴を持つ[3]

ニセアカシアは日本での分布も広く、並木)では北海道札幌市中心部の北1条通りで6月に開花する「アカシア並木」[9]東京都稲城市多摩川原橋[10]から是政橋にかけての多摩川右岸で4月末から5月初旬に開花する「アカシア通り・アカシア林&散策路」[11]などがよく知られる。アジアでは、中国遼寧省大連ロシア日本領有時代から多く植栽され、市中心部の「アカシヤの大連」とも称される「アカシア大通り」(槐花大道)では毎年アカシア祭り(大連国際槐花節)が開催され[12]、市郊外でアカシアの花の蜂蜜も豊富に採れる[13]

特徴

落葉広葉樹高木[3]で樹高は20 - 25メートル (m) になる[7]。樹皮は灰褐色で、成木は縦に割れ目が入る[14]。若木の幹にはトゲが残り[14]、太くなるとトゲはなくなる[7]。枝は折れやすく、一年枝は陵があり無毛で、葉痕の両脇に1対のトゲがあるが、トゲがない枝をつける木もある[14]。若い幹と枝にトゲがあるのは、原産地に生息するヤギに対するものだという説がある[7]

は、奇数羽状複葉互生[3]、全体の長さは12 - 25センチメートル (cm) [2]小葉は薄く3 - 9対あり、楕円形で長さ2 - 5 cm[2]葉柄の基部に1対の鋭いトゲ(托葉に由来)がある[3]

花期は初夏(5 - 6月)[3]で、本年枝の葉腋から白色の総状花序を出して蝶形花を下垂する[2]。花序の長さは10 - 15センチメートル (cm) ほどあり、甘い芳香のある長さ18 - 20ミリメートル (mm) の白い蝶形のが多数ついて咲かせる[2][注 2]。花の甘い香りに誘われて、アブハナバチミツバチが集まる[15]

果期は10月で[3]果実豆果で、花の後に平たい5 - 10 cmほどの鞘ができ[2]、中に4 - 7個の種子ができる[5]。形はのそれだが莢に比べ粒はキャロブに似て小さい。

冬芽は隠芽で、葉痕の中に隠れている[14]。枝先には仮頂芽がつき、側芽が互生する[14]。葉痕は丸みのある三角形で、維管束痕が3個ある[14]。春になると葉痕が3つに割れて、中にある冬芽から葉痕を突き破って芽吹いてくる[14]

きれいな花が咲き、観賞用として価値が高いことからもともとは街路樹や公園用として植栽された[16]。土質を選ばず生育でき[5]、繁殖力が強く、根から根萌芽が多数出ることや、切り株からの萌芽力が極めて高いことなどで難駆除雑木、侵略的外来種として嫌われる。さらに、風で倒れやすい[17]ことなどの課題もある。棘が発達するため扱いづらい点も挙げられるが、棘なしの園芸品種もある。

葉、果実、樹皮には毒性があり、樹皮を食べた馬が中毒症状を起こした例がある[18]

性質としては、どのような土質のところでもよく育つ強靱さを持っており、ほとんど手入れもいらず、伐採されたり折られたりしても何度でも萌芽する強い生命力を持っている[7]。根浅性で強風を受けて根元から倒れるケースがある[15]

有用植物としてのニセアカシア

古木の並ぶ小道

庭木街路樹公園樹として植えられ[2][15]、特に街路樹としての利用が多い[5]。風害を受けて倒れるケースも少なくなく、これは街路樹用途としての最大の欠点とされ、新しい植栽本数は減少する傾向にある[15]。有用樹であり、蜜源植物として、材としても利用価値は高い。葉は飼料になる[15]。材は燃料としても使われるが、堅くて強いためスキー材にも使われた[15]。トゲがあるのが難点であるが、チンタオトゲナシニセアカシアというトゲのない改良品種も作出されている[3]

食用

つぼみや花、若芽は食用になる[2]

  • 北海道では花穂を天ぷらサラダにして食べるほか[5][3]、新芽は和え物や油炒めで食べることができる[19]
  • 花をホワイトリカー等につけ込んでつくるアカシア酒は強い甘い花の香りがする。精神をリラックスさせる効果があると言われる。
  • 花から上質な蜂蜜が採れ、有用な蜜源植物である[3][15]。ニセアカシアを蜜源として利用する地域は東日本に多く、2005年のはちみつ生産量の44%がニセアカシアによる[16]。特に長野県でははちみつの74%がニセアカシアの花を「みつ源」としている[16]

緑化資材

並木や公園に植えられるほかに、乾燥や土壌を選ばない性質を利用して、柄拉致や崖地、海岸などの緑化にも使われる[15]マメ科植物特有の根粒菌との共生のおかげで成長が早く、他の木本類が生育できない痩せた土地や海岸付近の砂地でもよく育つ特徴がある[15]。このため、古くから治山砂防など現場で活用されており、日本のはげ山、荒廃地、鉱山周辺の煙害地などの復旧に大きく貢献してきた[17]クロマツを主林木とする植栽においてニセアカシアは肥料木として混栽されたこともある[20]。旧ドイツが1898年に中国の青島(チンタオ)を租借した際には、海岸防砂林としてニセアカシアを大量に植えた[3]。青島のニセアカシア林は、中国ではもっともよく成功した例にひとつになっていて、ここでは1億5000万本のニセアカシアが植林され、青島は洋槐半島ともよばれたともいわれる[6]

しかし野生化して群生し[14]、本来の植生を乱すなどの理由で緑化資材に外来種を用いることが問題視され、環境省の特別要注意外来植物[21]に指定され、あまり使われなくなった。 根系支持力が高く[22]山地砂防緑化資材として使われたことはあるが、30年を超えると地表近くを這うロープ状の根系が枯死し、根系支持力が衰えるため倒れやすくなる問題がある[17]

北海道では、耕作放棄地炭鉱跡の空き地などの管理放棄された土地がニセアカシアの分布拡大の一因となっている[23]

繁殖力が強いため、ニセアカシアの除去は簡単にはできず、除草剤の適切な処理が最適と考えられている[16]

木材

幹の断面

材の年輪は明瞭[24]で、気乾比重が0.77とミズナラと同程度に重く[25]、日本に産する広葉樹材の中でも強度が高い[16]。こうした特性を考慮した床材も利用されている[16]ただし幹の形が乱れやすいこと、25 - 30年を境に生長は停滞に転じ、ケヤキナラのような大材にならないため建築用材としては顧られてこなかったが、耐久性が高いためかつては線路の枕木、木釘、木炭、船材、スキー板などに使われた。

また樹木の瘤になった部分は特有の木目(杢)が発達し工芸用材として珍重されるが、本種のそれはクワの代用とされ、国内の養蚕の衰微と共にクワの植栽も激減したため、流通している桑瘤の大部分は実際にはニセアカシアだとされる。

薪炭材

生育がきわめて早く痩せ地でも育つこと、材が固くゆっくり燃焼するので火持ちが良いこと、そしてある程度湿っていても燃えることなどの利点があるため、薪炭材としても用いられていた。1950年代まで、一般家庭の暖房や炊事、風呂の焚きつけなどに使う火力は、ほとんどが薪(まき・たきぎ)や炭に依存していたため、ニセアカシアは大変有用な植物であった。北海道に多く植えられたのも、寒冷地の暖房用燃料としての需要が多かったためである。

土木資材

成長が早く、硬度があったことから、大量の坑木[26]を必要とする炭鉱鉱山が存在した地域では重宝された。

外来種問題

国交省千曲川河川事務所が千曲川(信濃川)河川敷のニセアカシア伐採実施時に設置した告知看板。

日本には明治時代初期(1873年)に導入された[27]。日本やヨーロッパの自然環境に定着したニセアカシアは、外来種として多くの問題を発生させている。ニセアカシアが侵入したことで、アカマツクロマツなどのマツ林、ヤナギ林が減少し、海岸域や渓畔域の景観構造を大きく改変させていることが確認されている[28]。ニセアカシアは単独で木本の生物多様性を低下させるだけでなく、好窒素性草本やつる植物をともなって優占し、植生を独自の構成に変えてしまう[28]。また、カワラノギクケショウヤナギなどの希少種の生育を妨害する[29]

これらの悪影響を危惧し、日本生態学会は本種を日本の侵略的外来種ワースト100に選定した。日本では外来生物法の「要注意外来生物リスト」において、「別途総合的な検討を進める緑化植物」の一つに指定されている。「要注意外来生物リスト」は「生態系被害防止外来種リスト」の作成に伴い平成27年3月に廃止された為、現在は後者のリストに記載されている。各地の河川敷などに猛烈な勢いで野生化しており、2007年秋には天竜川千曲川流域の河川敷で伐採作業が行われた[30]。一方で、要注意外来生物に指定された根拠については科学的に証明できないとして反論している報告もある[31]

ニセアカシアとアカシア

明治期に日本に輸入された当初は、このニセアカシアをアカシアと呼んでいた。後に本来のアカシア(ネムノキ亜科アカシア属)の仲間が日本に輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ぶようになった。本来のアカシアの花は放射相称の形状で黄色く、ニセアカシアの白い蝶形花とは全く異なる。しかし、後参のアカシアは「ミモザ」の別名で流通していたり、主に熱帯乾燥地性の樹種で日本の環境にはあまり適さず植栽が盛んでないこともあり、今でも混同されることが多い。

歌謡曲や小説などの中には、「アカシア」の名前が使われていて誤って通用しているが、本来はニセアカシア(ハリエンジュ)のことを指している[3]。 下記はすべてニセアカシアとされる。

画像

脚注

注釈

  1. 和名ハリエンジュに対する別名[2]
  2. 「たそがれの並木をゆけば/アカシアのアカシアの白き花房」松坂真美『アカシアの花」。
  3. 作中では、この樹木がニセアカシアであることにも触れられている。

出典

  1. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Robinia pseudoacacia L. ハリエンジュ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月26日閲覧。
  2. 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 61.
  3. 田中潔 2011, p. 83.
  4. 辻井達一 1995, p. 210.
  5. 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 38.
  6. 辻井達一 1995, p. 211.
  7. 辻井達一 1995, p. 212.
  8. ハリエンジュ 国立環境研究所 侵入生物DB
  9. 【北1条通りのアカシア並木】童謡「この道」の道と言われる通りを歩いてみよう(北海道PRESS)
  10. 南武線矢野口駅下車
  11. アカシア林(miru-navi 東京都&稲城市)
  12. 大連アカシア祭(大連アチコチ、2019年)
  13. 大連のハチミツ(湘南オヤジのブログ、2019年)
  14. 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 195.
  15. 辻井達一 1995, p. 214.
  16. 崎尾均編 ニセアカシアの生態学(2009)
  17. 長野県林業総合センター ミニ技術情報 (PDF)
  18. ニセアカシア 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム]
  19. 水野千代 横倉利江 旬の味覚 山菜料理 ほおずき書籍(1999)
  20. 庄内海岸の国有林”. 林野庁東北森林管理局庄内森林管理署. 2022年4月25日閲覧。
  21. No.186:ハリエンジュ(Robinia pseudoacacia)に関する情報(案) (PDF)
  22. 苅住曻 最新樹木根系図説 誠文堂新光社 (2010)
  23. 北海道の旧産炭地における侵略的外来種ニセアカシアの分布現況とその歴史的背景』 保全生態学研究 12(2), 94-102, 2007-11-30, NAID 110006474145
  24. 木材図鑑 ハリエンジュ(ニセアカシア) - ウェイバックマシン(2017年3月23日アーカイブ分)
  25. 橋爪丈夫「ニセアカシア材の利用」長野県林業総合センター技術情報52(1984)
  26. ニセアカシヤ(針槐:はりえんじゅ)”. 北海道庁 (2018年10月19日). 2020年6月12日閲覧。
  27. 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X。
  28. 前河正昭・中越信和「海岸砂地においてニセアカシア林の分布拡大がもたらす成帯構造と種多様性への影響」『日本生態学会誌』第47巻第2号、1997年、131-143頁。
  29. 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7。
  30. 千曲川河川事務所の取り組み 国土交通省 千曲川河川事務所
  31. 真坂一彦 外来種ニセアカシアを取りまく言説とその科学的根拠、日本森林学会誌95,332-341(2013)

参考文献

  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、195頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、83頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、210 - 214頁。ISBN 4-12-101238-0。
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、61頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、38頁。ISBN 4-522-21557-6。

関連項目

外部リンク


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