ハゴロモモ

ハゴロモモ学名: Cabomba caroliniana)は、スイレン目ハゴロモモ科に属するアメリカ大陸原産の多年生水草の1種である。フサジュンサイともよばれる[注 1]アクアリウムでの観賞用として栽培されることが多く、金魚藻と総称される水草の1つであり、またカボンバ[注 2]やグリーンカボンバなどの名称でも流通している[7]。葉はおもに水中にあり(沈水葉)、細かく分岐して扇状(図1)。花期になると小さな浮水葉を生じ、その葉腋から花柄を伸ばして水上に白い花をつける(図1a)。日本では観賞用のものが逸出して1950年頃には野生化し、2020年現在では本州から九州の池沼や水路に広く帰化している。

ハゴロモモ

(上) 1a. 花と浮水葉、沈水葉
(下) 1b. 水中茎と沈水葉
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: ハゴロモモ科 Cabombaceae
: ハゴロモモ属 Cabomba
: ハゴロモモ C. caroliniana
学名
Cabomba caroliniana A.Gray (1837)[1]
シノニム
和名
ハゴロモモ (羽衣藻)[3][4][5]、フサジュンサイ (房蓴菜)[6][注 1]、カボンバ[7][注 2]、グリーンカボンバ[7]
英名
fanwort[8], Carolina fanwort[8], Carolina water-shield[8], fish grass[8], Washington grass[8], green cabomba[9]

ハゴロモモ(羽衣藻)の名はその葉の姿に由来し[4]、1929年に初めて日本に本種を導入した小石川植物園松崎直枝によって命名された[12]。その後、浮葉の形がジュンサイに似ることからから、正宗厳敬によってフサジュンサイ(房蓴菜)の名が提唱された[12]

形態

ハゴロモモは多年生沈水植物である[5][10]地下茎はあまり発達せず、水中茎は根元で多数分枝して株状になり、上部ではあまり分枝しない[8][5][13][14]。茎の直径は2–4ミリメートル (mm) 、長さはさまざまであるが、10メートル (m) に達することもある[8][15]。切り離された水中茎は長期間 (6–8週間) 生存可能であり[8]、また節から根を生じて栄養繁殖単位となる[13]。粘液質を分泌し、水中にある植物体はいくらか粘液質をまとっている[8][15]。沈水葉は対生し、葉柄は長さ 5–20 mm ほど[14] (下図2a, b)。葉身は基部で5–7裂してさらにそれぞれが1–3回二叉分岐し、細長い裂片が扇状に広がり、基部から先端まで長さ1–3.5センチメートル (cm)[5][16][10][17] (下図2a, b)。各裂片の先端はやや鈍頭、顕微鏡で見ると鋸歯がある[5]。芽生えて最初の葉は無分岐で線状であり、その後も分岐が少ない葉を数枚つける[5]。植物体はふつう緑色からオリーブ色であるが、赤褐色になることもある (特に強光下)[15] (下図2c)。常緑性であり冬期にも沈水葉をつけているが、茎頂に葉が密集した越冬芽を形成して水底に沈んでマット状になる[13][17]。また栄養を蓄積した芽が切り離されて殖芽になる[17]。花期には、小さな浮水葉をつける[4][5]。浮水葉は互生し、葉身は狭楕円形から矢じり形、長さ 0.8–1.8 cm、楯状であり葉柄は葉身の裏面中央付近につく[5][16][10] (上図1a, 下図2a, 2b)。

2a. ハゴロモモ: 右は雌しべ
2b. ハゴロモモの沈水葉は対生している
2c. 水中のハゴロモモ

日本では花期は7–10月、浮水葉の葉腋から生じた花茎の先端にを1個つけ、水上で直径 6–15 mm ほどの花が開花する[4][5][10][13][15] (下図2d, e)。花被片は白色 (または黄色、紫色[18]) で基部が黄色を帯び、3枚ずつ2輪にならぶ[10][5] (下図2e)。内花被片の基部には1対の蜜腺がある[4]雄蕊 (雄しべ) はふつう6個、ときに3個 (内花被片と対生)[5][10]雌蕊 (雌しべ) は3個 (まれに2個、4個など)[5][15] (上図2a)。雌性先熟であり、開花1日目は雌しべが、2日目には雄しべが成熟する[10][5][13]果実は非裂開果であり、長さ4-7 mm[18]種子は楕円形で 1.5–3 × 1–1.5 mm、表面に多数のいぼ状突起がある[5][14][15]。ふつうハエ目の昆虫によって送粉されるが、自家受粉によって種子を形成することもある[8][18]。また栄養繁殖を頻繁に行う[18]染色体数は 2n = 39, 78, 104 であり、基本数は x = 13 であると考えられている[15][19]

2d. 水上で開花している群生したハゴロモモ
2e. ハゴロモモの花と浮水葉

分布・生態

3. ハゴロモモの生育環境(アメリカ合衆国

ハゴロモモの本来の分布域は北米南東部や南米南部であるが、北米西部、日本など東アジア東南アジアインドオーストラリアヨーロッパなど世界各地に広く帰化している[8][20]。北米やアジアでは養殖され、世界中に輸出されている[8]

日本では1929年小石川植物園に観賞用として導入され、1950年には東京近郊で野生化が確認された[5][17]。その後各地に広がり、1990年代以降には北海道本州四国九州の広い範囲の池沼や河川、水路から報告されている[7][5][17][16]。水質汚濁がやや進んだ水域にも生育し、大群落を形成することがある[5][16]

ハゴロモモは常に水中にあることを必要とするが、ふつう水深 3 m 以浅の池沼、緩やかな流れの河川や水路に生育する[8][5](図3)。富栄養、低pHの環境でよく成長し、アルカリ性硬水の環境は好まない[8][17][15]。水面が氷結しても生きていられる[8]。基質は細かい泥質を好む[18]

ハゴロモモを食べる生物としては、Hydrotimetes natans (甲虫目) や Paracles (チョウ目)、テキサスクーター (カメ目)、水鳥などが知られている[18]

人間との関わり

金魚藻きんぎょもと総称される水草の1種であり、アクアリウムでの観賞用水草として最も多く利用されている種の1つである[17]。海外から輸入され、また国内でも繁殖されている。

観賞用のものが逸出したことによって、本種は世界中に帰化している (上記参照)。特にオーストラリアでは問題視される帰化植物の1つであり、水利用や人間活動を阻害し、また他の動植物の生育に影響している[8]。そのため、オーストラリアではハゴロモモの売買は法律上禁止されている[21]。また日本では、外来生物法において要注意外来生物に指定されている[17]

分類

ハゴロモモ属 (カボンバ) の他のと類似している。"イエローカボンバ" (Cabomba aquatica) は沈水葉の裂片がより細く繊細である[14][22]。"レッドカボンバ" (Cabomba furcata) の植物体は赤味を帯びる[14][23]

ハゴロモモの中には、以下の変種が認識されている[1][19](下表1)。

表1. ハゴロモモの分類[1][15]

脚注

注釈

  1. 2021年現在、フサジュンサイを標準名としている例も多い[10][11]
  2. ハゴロモモ属Cabomba、カボンバ)には、本種以外に複数種が含まれる。

出典

  1. Govaerts, R., Dransfield, J., Zona, S., Hodel, D.R. & Henderson, A.. World Checklist of Selected Plant Families”. Royal Botanic Gardens, Kew. 2021年4月21日閲覧。
  2. GBIF Secretariat (2021年). Cabomba caroliniana A.Gray”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年4月28日閲覧。
  3. 羽衣藻. コトバンクより2021年10月30日閲覧
  4. 林 弥栄 & 門田 裕一 (監修) (2013). “ハゴロモモ”. 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社. pp. 16–17. ISBN 978-4635070195
  5. 角野康郎 (1994). “ハゴロモモ”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. p. 108. ISBN 978-4829930342
  6. 房蓴菜. コトバンクより2021年10月30日閲覧
  7. ハゴロモモ”. 外来植物. 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット (2005年). 2021年4月23日閲覧。
  8. Cabomba caroliniana”. GLOBAL INVASIVE SPECIES DATABASE. International Union for Conservation of Nature (IUCN). 2021年4月21日閲覧。
  9. Green Cabomba”. AqaruiumDomain.com. 2021年4月24日閲覧。
  10. 伊藤元巳 (2015). “ジュンサイ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 45. ISBN 978-4582535310
  11. 米倉浩司・梶田忠. 植物和名ー学名インデックスYList”. 2021年4月17日閲覧。
  12. 大滝末男・石戸忠 (2007). 日本水生植物図鑑 復刻版. 北隆館. ISBN 978-4832608283
  13. 浜島繁隆・須賀瑛文 (2005). “フサジュンサイ”. ため池と水田の生き物図鑑 植物編. トンボ出版. p. 71. ISBN 978-4887161504
  14. マツモムシ (2010年9月18日). ハゴロモモ”. 西宮の湿生・水生植物. 2021年4月23日閲覧。
  15. Mackey, A. P. (1996). “Cabomba (Cabomba spp.)”. Pest status review series - Land Protection Branch. Australia: Queensland Government Department of Natural Resources and Mines: 1–32. https://www.daf.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0014/62006/IPA-Cabomba-PSA.pdf.
  16. 角野康郎 (2014). “ハゴロモモ”. 日本の水草. 文一総合出版. p. 38. ISBN 978-4829984017
  17. ハゴロモモ”. 侵入生物データベース. 国立環境研究所. 2021年4月21日閲覧。
  18. Cabomba caroliniana”. Invasive Species Compendium. CAB International (2020年5月18日). 2021年4月22日閲覧。
  19. Ørgaard, M. (1991). “The genus Cabomba (Cabombaceae)–a taxonomic study”. Nordic Journal of Botany 11 (2): 179-203. doi:10.1111/j.1756-1051.1991.tb01819.x.
  20. Cabomba caroliniana”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年4月21日閲覧。
  21. The State of Queensland, Department of Agriculture and Fisheries (2020). Cabomba. https://www.daf.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0005/72896/cabomba.pdf.
  22. Cabomba aquatica”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年4月21日閲覧。
  23. Cabomba furcata”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年4月21日閲覧。

関連項目

外部リンク

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