マチルダ効果

マチルダ効果(マチルダこうか、英語: Matilda effect)は、女性科学者に対する偏見であり、彼女らの業績は認められず、その仕事が男性の同僚に帰されてしまうバイアスを指す。この効果は、婦人参政権論者で奴隷廃止論者のマティルダ・ジョスリン・ゲージ(1826年 - 1898年)によるエッセイ "Woman as Inventor" の中で最初に言及された。「マチルダ効果」(Matilda effect)という用語は1993年に科学史研究者マーガレット・W・ロシターによって造られた[1]

マチルダ効果

ロシターはこの効果のいくつかの例を挙げている。12世紀のイタリア人女性医師、トロトゥーラ (サルレノのトロトゥーラ) が記した本は、彼女の死後、男性の作家によるものとされた。 マチルダ効果を示す19世紀および20世紀の事例はネッティー・スティーブンズ[2]マリ・キュリーリーゼ・マイトナーマリエッタ・ブラウロザリンド・フランクリンジョスリン・ベル・バーネルのものがある 。

マチルダ効果は、著名な科学者は、研究が共通または類似しているとしても、比較的無名の研究者よりも多くの信用を得る傾向を指すマタイ効果に例えられる[3][4]

スタンフォード大学医学部の神経生物学者で、女性から男性へと転換した教授のベン・バリズ(1995年 - )は、科学的業績の見られ方が自身のその時の性別によって異なると語っている[5]。これは、同じ個人が認識する、異なるアイデンティティのために生じるバイアスの一つの説明を与えている。

研究

2012年に、 ラドバウド大学の2名の女性研究者が、オランダでは教授職候補者の選考において性別が評価に影響を与えることを示した[6] 。 2名のイタリア人女性研究者によって同様の事例が報告されており[7]、スペインでの研究でもさらに裏付けられている[8]。 一方で、ロン部の引用とインパクトに関して男性著者と女性著者の間に違いは見られなかったとするいくつかの研究もある[9][10][11]

スイスの研究者は、マスメディアは女性の科学者よりも男性の研究者に対して頻繁に番組への貢献を依頼することを示した[12]

米国のある研究によると、「アメリカ社会では明らかな性差別は一般的に減少し続けているが」 ("although overt gender discrimination generally continues to decline in American society")、「女性は特に学術研究において科学的な賞の受賞に関して不利益を受け続けている。」 ("women continue to be disadvantaged with respect to the receipt of scientific awards and prizes, particularly for research.") [13]

マチルダ効果を受けた女性の例。

  • トロトゥーラ(サルレノのトロトゥーラ、12世紀)。イタリアの医師で、彼女の死後、男性の作家によるものとされた書籍の著者。教師や治療師としての女性に対する反感は、彼女の存在そのものを否定することにつながった。最初は彼女の著書の中で夫と息子に対して謝辞が捧げられていたが、情報が伝えられるにつれて、修道士は彼女の名前を男性の名前と混同してしまった。 彼女は「Dictionary of Scientific Biography」で言及されていない[14]
  • XY性別決定システムの発見者であるネッティー・スティーブンズ(1861年-1912年)。ミミズに関する彼女の重要な研究は、生物の性別が環境的要因やその他要因よりもその染色体によって決定されることを初めて明らかにした。Stevens は、学術界がこの新しい探究の道、染色体による性決定、へ転換することに大きな影響を与えた。 [15] しかし、一般的にこの発見は当時の著名な遺伝学者であるトーマス・ハント・モーガンによるものとされている[16]。遺伝学の分野における彼女の広範な研究にもかかわらず、モーガンの研究に対するStevens の貢献はしばしば無視されている[17]
  • ハーバード大学メアリー・ウィットン・カルキンス(1863年 - 1930年)は、他の鮮明な刺激と対になった刺激はより容易に想起されることを発見した。彼女はまた、露出の長さがよりよい想起につながることを発見した。これらの調査結果は、Calkinsのペアアソシエーション法とともに、彼女 に何の名誉も与えられることもなく、後にゲオルク・エリアス・ミュラーエドワード・ティチェナーによって使用された。
  • ノーベル賞を受賞した生化学者であるゲルティー・コリ(1896年 - 1957年)は、教授と同等の資格を持っていたにもかかわらず、夫の助手として長年働いていた。
  • ロザリンド・フランクリン (1920-1958)。1953年のDNA構造の発見に対する重要な貢献者として現在認められている。これにより1962年のノーベル賞を受賞するフランシス・クリックジェームズ・ワトソンによる発見の時点では、彼女が成した仕事は適切に評価されていなかった (ただし、ワトソンは1968年の著書『二重らせん』("The Double Helix")で彼女の貢献の重要性を述べた)。
  • マルト・ゴーティエ(1925年 - )。以前はジェローム・ルジューヌだけによるものとされていたダウン症候群の原因となる染色体異常の発見において、彼女の重要な役割が現在認められている。
  • カリフォルニア大学バークレー校マリアン・ダイアモンド(1926年 - )は、以前の神経学的教義とは逆の、脳の可塑性の現象を実験的に発見した。 彼女の1964年の独創的な論文[18]が発表されようとしていたとき、彼女は二人の共著者デイビット・クレッチマーク・ローゼンツワイグの名前が彼女の名前の前に置かれていたことを発見した (それだけでなく、彼女の名前は括弧の中に置かれていた)。彼女はその論文にある本質的な仕事をしたと抗議し、そして彼女の名前は (括弧なしで) 一番目に置かれることになった。この事件は、2016年のドキュメンタリー映画 "My Love Affair with the Brain: The Life and Science of Dr. Marian Diamond"で描かれている[19]
  • ハリエット・ズッカーマン(1937年 - )。マチルダ効果の結果として、夫のロバート・キング・マートンによってズッカーマンはマタイ効果の概念の共著者としても認められた[20]。 
  • ENIAC(1946年)のプログラマ。アデル・ゴールドスタインキー・マクナルティベティ・ジェニングスベティ・スナイダーマーリン・ウェスコフフラン・バイラスルース・リターマンら何人かの女性がプロジェクトに多大な貢献を果たしたが、ENIACの歴史には通常これらの貢献に触れず、時にソフトウェアの達成よりもハードウェアの達成に焦点を置いてきた[21]

ノーベル賞で女性科学者よりも優遇された男性科学者の例。

芸術において

  • Za ścianą (Next Door)。クシシュトフ・ザヌッシ監督による1971年のポーランドのTV映画で、マヤ・コモロフスカが "Anna"、ズビグニエフ・ザパシエヴィッツが "Jan" として出演した。2人はアパートの隣り合う部屋に住んでおり、ともに学術界で働いている。Jan は助教授である。彼とより親密な関係を築きたいと思うAnnaは、Janと同等の学術的な地位を獲得して彼の愛情へのより簡単な入り口を持てたかもしれなかったが、彼女には彼女の研究の功績を認めようとしない男性の同僚がいた。

関連項目

参考文献

  1. Rossiter Margaret W. (1993), “The Matthew/Matilda Effect in Science”, Social Studies of Science (London) 23 (2): 325–341, doi:10.1177/030631293023002004, ISSN 0306-3127
  2. Resnick (2016年7月7日). Nettie Stevens discovered XY sex chromosomes. She didn't get credit because she had two X's”. Vox. 2016年7月7日閲覧。
  3. Rossiter, Margaret W. (1993年). “The Matthew Matilda Effect in Science”. Social Studies of Science 23 (2): pp. 325–341. ISSN 0306-3127
  4. Dominus, Susan (October 2019). “Women Scientists Were Written Out of History. It's Margaret Rossiter's Lifelong Mission to Fix That” (英語). Smithsonian Magazine 50 (6): 48. https://www.smithsonianmag.com/science-nature/unheralded-women-scientists-finally-getting-their-due-180973082/.
  5. Shankar Vedantam、(2006年7月13日)。 男性の科学者は女性の科学者としての生活を書いている:性転換を経験した生物学者は女性に対する偏見を説明している。 ワシントンポスト
  6. Marieke van den Brink; Yvonne Benschop (2011), “Gender practices in the construction of academic excellence: Sheep with five legs”, Organization 19 (4): 507–524, doi:10.1177/1350508411414293, http://org.sagepub.com/content/19/4/507.abstract
  7. Andrea Cerroni; Zenia Simonella (2012), “Ethos and symbolic violence among women of science: An empirical study”, Social Science Information 51 (2): 165–182, doi:10.1177/0539018412437102, http://ssi.sagepub.com/content/51/2/165.abstract
  8. María Luisa Jiménez-Rodrigo1; Emilia Martínez-Morante; María del Mar García-Calvente; Carlos Álvarez-Dardet (2008), “Through gender parity in scientific publications”, Journal of Epidemiology & Community Health 62 (6): 474–475, doi:10.1136/jech.2008.074294, PMID 18477742, http://jech.bmj.com/content/62/6/474.extract
  9. Peter Hegarty; Zoe Walton (2012), “The Consequences of Predicting Scientific Impact in Psychology Using Journal Impact Factors”, Perspectives on Psychological Science 7 (1): 72–78, doi:10.1177/1745691611429356, PMID 26168426, http://pps.sagepub.com/content/7/1/72.abstract
  10. Stephane Baldi (1998), “Normative versus Social Constructivist Processes in the Allocation of Citations: A Network-Analytic Model”, American Sociological Review 63 (6): 829–846, doi:10.2307/2657504, JSTOR 2657504, https://jstor.org/stable/2657504
  11. Nick Haslam; Lauren Ban; Leah Kaufmann; Stephen Loughnan; Kim Peters; Jennifer Whelan; Sam Wilson (2008), “What makes an article influential? Predicting impact in social and personality psychology”, Scientometrics 76 (1): 169–185, doi:10.1007/s11192-007-1892-8
  12. Fabienne Crettaz von Roten (2011), “Gender Differences in Scientists' Public Outreach and Engagement Activities”, Science Communication 33 (1): 52–75, doi:10.1177/1075547010378658, http://scx.sagepub.com/content/33/1/52.abstract
  13. Anne E. Lincoln; Stephanie Pincus; Janet Bandows Koster; Phoebe S. Leboy (2012), “The Matilda Effect in science: Awards and prizes in the US, 1990s and 2000s”, Social Studies of Science 42 (2): 307–320, doi:10.1177/0306312711435830, PMID 22849001, http://sss.sagepub.com/content/42/2/307.abstract
  14. Rossiter, Margaret W. (1993). “The Matthew Matilda Effect in Science”. Social Studies of Science 23 (2): 325–341. JSTOR 285482.
  15. Hagen, Joel (1996). Doing Biology. Glenview, IL: Harper Collins. pp. 37–46
  16. 6 Women Scientists Who Were Snubbed Due to Sexism”. 2015年10月4日閲覧。
  17. Nettie Maria Stevens (1861-1912) | The Embryo Project Encyclopedia”. embryo.asu.edu. 2015年10月4日閲覧。
  18. Diamond, Marian C.; Krech, David; Rosenzweig, Mark R. (1964). “The effects of an enriched environment on the histology of the rat cerebral cortex”. The Journal of Comparative Neurology 123: 111–119. doi:10.1002/cne.901230110.
  19. 私の愛と脳との関係:マリアンダイヤモンド博士の生涯と科学
  20. http://garfield.library.upenn.edu/merton/matthewii.pdf
  21. Light, Jennifer S. (1999). “When Computers Were Women”. Technology and Culture 40 (3): 455–483. http://pcfly.info/doc/Computers/18.pdf.
  22. ScienceWeek (2013年4月14日). 2013年4月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年10月10日閲覧。
  23. Sime, Ruth Lewin (2012). “Marietta Blau in the history of cosmic rays”. Physics Today 65 (10): 8. doi:10.1063/PT.3.1728.
  24. http://physicsworld.com/cws/article/news/2004/jan/20/wolf-prize-goes-to-particle-theorists
  25. CensorshipIndex”. www.esthermlederberg.com. 2015年10月10日閲覧。
  26. Esther Lederberg, pioneer in genetics, dies at 83”. Stanford University. 2015年10月10日閲覧。
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