ユキノシタ

ユキノシタ(雪の下[3]・雪下[4]・虎耳草[3][5][注釈 1]・鴨脚草・鴨足草・金糸荷、学名: Saxifraga stolonifera)はユキノシタ科ユキノシタ属の植物[2]。別名、イドクサコジソウ。山地の湿った場所に生育する草本で、観賞用に庭にも植えられる。脈に沿って縞模様の斑が入った円い葉をつけ、初夏に下2枚の花びらだけが大きな白い5弁花を咲かせる。細い枝を伸ばした先に、新しい株を作って繁殖する。春の山菜として食されるほか、薬用にも使われる。

ユキノシタ
ユキノシタ 多賀町
分類APG III
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
: ユキノシタ目 Saxifragales
: ユキノシタ科 Saxifragaceae
: ユキノシタ属 Saxifraga
: ユキノシタ S. stolonifera
学名
Saxifraga stolonifera Curtis (1774)[1][2]
和名
ユキノシタ(雪の下)
英名
Strawberry Geranium

名称

和名ユキノシタの語源については諸説ある。一説には、が上につもっても、その下に枯れずに緑の葉があるからとする説や[6][7][8][9]、白い花を雪(雪虫)に見立て、その下に緑の葉があることからとする説がある[10][11][12]。このほか、葉の白い斑を雪に見立てたとする説[7]、垂れ下がった花弁を舌に見立てて「雪の舌」とする説[10]などがある。

学名のstoloniferaは、ほふく枝(stolon)で増えることからきている[13]。ドイツ名のユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)、英名のマザー・オブ・サウザンス(子宝草)は、同様に糸状に伸びる走出枝に由来する[14]。中国植物名にもなっている虎耳草(こじそう)[15]とは、葉の丸い形や模様がトラの耳を連想させるから名付けられたと言われている[14][16]

日本の地方により、イドグサ[15][8]、イトバス[1][17]、イケハタ[8][3]、イワカズラ[17]、イワブキ[1][3]、キジンソウ[1][17]、ミミダレグサ[15][3]、ユキバス[17]という方言名もある。俳句では鴨足草と書いて「ゆきのした」と読ませることが多い。

夏の季語[13]花言葉は、「情愛」[9]「切実な愛情」[9]である。

分布・生育地

日本中国の原産[18]。日本の北海道[8]本州四国九州および[19]、国外では中国に分布する。平地から山地まで分布し[17]、谷川べりなど低地の湿った場所や、雑木林や山地の半日陰地で岩場や沢沿いの石垣などに群落をつくって自生する[2][15][16][8][3]。人家のの日陰や生垣石垣に栽培されることも多い[2][9][20]

形態・生態

常緑の多年草[3]。草丈は20 - 50センチメートル (cm) になる[9]は根元から長い葉柄を出してロゼット状に集まり、葉身は円形に近い腎臓形(腎円形)で多肉質、両面に長短の粗い白毛が目立ち、表面は暗緑色で主脈に沿って灰白色の斑が入り、裏面は全体に暗い赤みを帯びる[2][4][3][21]葉縁は粗く、浅く切れ込みが入る[22]。葉柄や花柄にも粗い毛が生えている[23]

本種は種子に因る種子繁殖のみならず、親株の根本から、地上茎である紅紫色の走出枝(runner/ランナー)を四方に出して、先端が根付いて子苗をつくり栄養繁殖する[2][16]

開花期は初夏(5 - 7月ごろ)で、高さ20 - 50 cmの花茎を出し、先に円錐花序を形成して多数の白い花をつけて目立つ[2][16][22]。花は5弁で長短があり、このうち上の3枚が約3 - 4 ミリメートル (mm) と小さく濃紅色の斑点と基部に濃黄色の斑点があり、下の2枚は約15 - 20 mmと大きくて白色で細長く、垂れ下がる[2][24][23][25]。本種の変種[26]または品種とされる[27]ホシザキユキノシタには、こうした特徴は現れず、下2枚の長さは上3枚と同じくらいとなる[28]。ユキノシタの雄しべの数は10本、雌しべの数が1本で、雌しべに花柱が2本あり基部は黄色い花盤に取り囲まれている[21]。雄しべは雌しべよりも先に熟して花粉を放出してしまう雌雄異熟のため、雌しべに自花の花粉がつくことを避けている[29]。花柄と萼片には、紅紫色の腺毛がある[21]

開花後、長さ約4 mmほどの卵形の蒴果(さくか)を実らせ、先端は2個のくちばし状[30][19]。種子は、極小さな0.5 mmに満たないサイズで、全体に焦げ茶色あるいは黒色であり、全体にほぼ楕円形の不定形をしていて、表面には縦筋がありコブ状突起が多数備えられている[19]

APG植物分類体系での分類

古い分類のクロンキスト体系では、バラ目となっていたが、APG植物分類体系第2版ではユキノシタ目となり、ユキノシタ科のユキノシタ属となる[31]

被子植物 angiosperms
真正双子葉類 eudicots
コア真正双子葉類 core eudicots
ユキノシタ目 Saxifragales
ユキノシタ科 Saxifragaceae

利用

山野草としての人気が高く、観賞用で人家の庭に植えられるほか、薬草山菜などとしても利用される[15][20]。食用する葉はクセのない味で、葉に粗い毛があるが、揚げたり、茹でたりすることで気にならなくなる[3]。栽培では、湿った半日陰を好むので、池畔の岩の上などに植えると趣が出る[22]。斑入りの葉の品種が普及している[10]

生薬

漢方薬薬味として用いられることはなく、民間薬として用いられた。葉には硝酸カリウム塩化カリウムベルゲニンタンニン質などを含んでいる[16]。硝酸カリウム、塩化カリウムには利尿作用があり、ナトリウム(塩)と結びつきやすいため、摂り過ぎた塩分を体外に排出させる効果がある。ペルゲニンは、健胃、下痢止めに役立つとされている[16]

年間を通して葉は採取できるが、特に5 - 7月ごろの開花期によく成育した葉を採集して日干ししたものが生薬になり、虎耳草(こじそう)とよんでいる[15][16][22][8]民間療法として、からだのむくみ胃もたれ下痢のときに、虎耳草1日量5 - 10グラムを約400 - 600 ccコップ3杯ほど)の水で半量になるまでとろ火で煮つめた煎じ液を、食間3回に分けて服用する用法が知られている[15][16][8][20]。また民間では生葉を用いており、葉を火であぶって軟らかくしたものが、腫れものなどの消炎に用いられ[12]凍傷しもやけ火傷にも使われた[25]。生葉をすりおろしたしぼり汁は脱脂綿ガーゼに含ませて、耳だれ中耳炎によるかぶれ、虫刺され、湿疹の患部に付けると効くと言われている[20][32]。小児のひきつけ(痙攣)には、生葉を少量の食塩で塩もみして絞った小さじ5杯ほどのしぼり汁を飲ませると、応急措置として一時的に効くとされる[32][16][22]風邪にはユキノシタの葉20g氷砂糖ショウガ1片を加えて煎じて飲むと良い[32]

乾燥させた茎や葉は、煎じて解熱解毒に利用する[25]

食用

葉と花を食用にする。葉は一年中利用できるが、春から初夏(3 - 5月)の若い葉は山菜として、天ぷらなどにして賞味される[11][16][18]。葉の裏面だけにうすく衣を付け、揚げたものを「白雪揚げ」[6]や「初霜揚げ」[33]という。また、葉を茹でて水にしばらくさらして苦味を和らげてから、おひたし煮浸し二杯酢、汁の実、ゴマあえや辛子あえなどの和え物炒め物としても調理される[15][4][3][18][6]。花は茹でずに、薄い衣で手早く揚げて天ぷらにする[33][3]。花は柄ごと塩漬けにして、湯を注いで花茶や塩出しして椀種にもできる[33][3]

その他

葉の裏側の表皮細胞(液胞)は赤い色素を含むので、原形質分離が観察しやすい。そのため、高校生物の浸透圧の実験などによく用いられる[11]

近縁種

山間の渓流に生える。下側2枚の花びらが長い花形を、の字の形に見立てた名である。北海道から屋久島まで分布があるが、各地で変異が多く、多くの変種が報告されている[35]。同様に食用に利用できる[4]
本種と異なり4~5月頃に咲くことからこの名がある。山間部に咲き、葉は黄緑色で模様がなく光沢があり、花びらの斑点が黄色い[37]
  • ホシザキユキノシタSaxifraga stolonifera f. aptera[38]):茨城県の筑波山にある品種で、5枚の花弁が全部短く、星形に開く[14]
  • アオユキノシタSaxifraga stolonifera f. viridifolia[39]):葉面に斑が入らない園芸品種[14]

脚注

注釈

  1. 「コジソウ」とも読むが、慣例的に「ユキノシタ」と読むことがある。

出典

  1. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Saxifraga stolonifera Curtis ユキノシタ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月21日閲覧。
  2. 『日本の野生植物』 (1999)、pp.171-172
  3. 金田初代 2010, p. 58.
  4. 高橋秀男監修 2003, p. 82.
  5. ゆきのした 言葉 漢字ペディア”. 2020年3月29日閲覧。
  6. 帯谷(1980):38ページ
  7. 岩槻(2006):346ページ
  8. 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 105.
  9. 主婦と生活社編 2007, p. 68.
  10. 大嶋敏昭監修 2002, p. 421.
  11. 『植物雑学事典』:ユキノシタ 2011年8月16日閲覧。
  12. 『薬用植物学』 (1999)、p.132
  13. 若林三千男「ユキノシタ」、『週刊朝日百科植物の世界』57(朝日新聞社、1995年5月21日発行)、5の259頁。
  14. 飯泉優 2002, p. 212.
  15. 貝津好孝 1995, p. 200.
  16. 田中孝治 1995, p. 114.
  17. 篠原準八 2008, p. 52.
  18. 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 155.
  19. 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 196.
  20. 川原勝征 2015, p. 104.
  21. 菱山忠三郎 2014, p. 122.
  22. 馬場篤 1996, p. 113.
  23. 金田初代 2010, p. 59.
  24. 『植物雑学事典』:ユキノシタ 花 2011年8月16日閲覧。
  25. 八坂書房 編(2005):159ページ
  26. 小幡(2001):4ページ
  27. 菅谷ほか 編(1998):116ページ
  28. 鈴木(1970):295ページ
  29. 田中修 2007, p. 52.
  30. 御所見(2001):148ページ
  31. 米倉 (2009)、pp.57-58
  32. 帯谷(1980):39ページ
  33. 篠原準八 2008, p. 53.
  34. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Saxifraga fortunei Hook.f. var. alpina (Matsum. et Nakai) Nakai ダイモンジソウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月21日閲覧。
  35. 『日本の野生植物』 (1999)、p.172
  36. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Saxifraga nipponica Makino ハルユキノシタ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月21日閲覧。
  37. 『日本の野生植物』 (1999)、p.171
  38. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Saxifraga stolonifera Curtis f. aptera (Makino) H.Hara ホシザキユキノシタ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月21日閲覧。
  39. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Saxifraga stolonifera Curtis f. viridifolia (Makino) H.Hara アオユキノシタ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月21日閲覧。

参考文献

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  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、155頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
  • 岩槻秀明『街でよく見かける 雑草や野草がよーくわかる本』秀和システム、2006年11月5日、527頁。ISBN 4-7980-1485-0。
  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、421頁。ISBN 4-415-01906-4。
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  • 帯谷宗英『野草を摘む』筑波書林、1980年8月10日、112頁。
  • 御所見直好『振りかえる ふるさと山河の花 第二巻』』日貿出版社、2001年6月10日、343頁。ISBN 4-8170-8052-3。
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  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、113頁。ISBN 4-416-49618-4。
  • 菱山忠三郎『「この花の名前、なんだっけ?」というときに役立つ本』主婦の友社、2014年10月31日、122頁。ISBN 978-4-07-298005-7。
  • 八坂書房 編『花ごよみ365』八坂書房、2005年1月25日、396頁。ISBN 4-89694-850-5。
  • 米倉浩司 著、邑田仁 編『高等植物分類表』北隆館、2009年。ISBN 978-4-8326-0838-2。

関連項目

外部リンク

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