レジスタントスターチ

レジスタントスターチ(resistant starch; RS)とは、ヒトの小腸まででは消化されず、大腸に届くでんぷん、および、でんぷん分解物の総称である[1]。「レジスタント」=「消化され難い」、「スターチ」=「でんぷん」という意味であり、難消化性でんぷんまたは耐性でんぷんとも呼ばれる。

腸内細菌を活性化させ、便秘改善、血中コレステロールや中性脂肪の減少、血糖値の急上昇を抑制する効果も期待されている[2]。

2N水酸化カリウムで可溶化した後にグルコースとして定量される[3]複数種のデンプン[4]に対して与えられた総称である[3]。

概要

1980年代、Englystら[5]によって命名された[6]。レジスタントスターチはでんぷんでありながら、エネルギーになりにくく、整腸作用や生活習慣病の予防効果があるとされている食品中の成分であり、食物繊維の1種である[7]。食物繊維の中でも、腸内細菌に対して良い影響を与える効果があり、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の特性をあわせ持っているなど、ユニークな機能を有している[1]が、日本でトクホ飲料によく使われる難消化性デキストリンとは構造も性質も異なる[8]。

消化されない理由

レジスタントスターチは消化されないメカニズムの違いによって次の4種類に分類されている[9]。

RS1
雑穀のように硬い組織に囲まれていることで消化酵素がでんぷんまで届かないタイプ
RS2
十分に加熱されていない未糊化のでんぷんやアミロースの極めて多いでんぷんなど、でんぷんの粒子自体が消化されにくいタイプ
RS3
冷やご飯や春雨のように一度加熱されて糊化したあと、冷めたり保存する過程で一部のでんぷんが再結晶して消化されにくい構造に変化したタイプ
RS4
加工デンプンの一種で、でんぷんを高程度に化学修飾することで消化酵素が作用しにくくなったタイプ

レジスタントスターチを含む食品

レジスタントスターチは雑穀や豆などの穀類や、コーンフレークやパスタなどのでんぷん質の食品の一部に含まれる。中にはハイアミロースコーンスターチのように、多量のレジスタントスターチを含むものもある[10]。また、ご飯を冷やす、じゃがいもをポテトサラダにするなど、“冷やす”ことででんぷん質中のレジスタントスターチの量が増えると言われている。このため、ダイエットやお腹の調子を整える目的で、でんぷん質の食品を冷やして食べる方法が紹介されることもある。日本テレビ系の教育バラエティ「世界一受けたい授業」でも、“冷やして得する栄養学”としてレジスタントスターチが紹介された[11]。さらに、最近はレジスタントスターチをより多く含んだでんぷんが食品素材として開発されており、麺類やパンなどに配合して、より手軽に摂取できるよう取り組みが進められている[12][13]。トクホの関与成分としても使われている難消化性再結晶アミロースもレジスタントスターチの一種であり、RS3のタイプに相当する[14]。

下記の食品中に含まれるレジスタントスターチの量は、測定法、食材の熟成度、調理法、加熱条件、調理後の温度などによって変動する[6]。

食品中に含まれるレジスタントスターチ[10][15]
食品レジスタントスターチ含有量
(乾燥重量あたり)
パスタ1.4 %
コーンフレーク2.8 %
インゲンマメ(水煮)5.3 %
コーンスターチ0.99 %
ハイアミロースコーンスターチ43.0 %
グリーンバナナ(凍結乾燥)51.0 %
グリーンバナナ(生でんぷん) 62.3%
ポテトスターチ(AVEBE製)77.0 %
食品中に含まれるレジスタントスターチ[16]
食品レジスタントスターチ含有量
(食品100gあたり、グラム)
プンパーニッケル[17]4.5
ライ麦パン(全粒粉)3.2
トルティーヤ(とうもろこし)3.0
オールブラン(ケロッグ)0.7
コーンフレーク3.2
グラノーラ0.1
オーツブラン(シリアル)1.0
ポテトチップス3.5
バナナ(生)4.0
パスタ(小麦、調理済)1.1
白米(長粒種、調理済)1.2
インゲン豆(調理済)2.0
ポテトサラダ1.0

レジスタントスターチを摂取するメリット

血糖値の上昇抑制

通常のでんぷんは、摂取すると小腸で消化酵素によって分解されてグルコースになり、血液へ取り込まれるため血糖値が上がる。これに対し、レジスタントスターチは消化酵素によって分解されにくいため、血糖値の上昇が低く抑えられる事が分かっている[18]。 EUでは、レジスタントスターチを14%以上含む食品について「食後の血糖応答が小さい」という内容の表示(ヘルスクレーム)をすることが認められている[19]。

腸内代謝

大腸に届いたレジスタントスターチは、腸内細菌によって代謝されて、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸などの短鎖脂肪酸に変えられる。このような短鎖脂肪酸は、腸内を悪玉菌が活動しにくい弱酸性に維持する効果があり、善玉菌を育てやすくする。さらに、大腸から体内へ吸収されて大腸癌の予防、大腸炎の予防、中性脂肪やコレステロールの上昇抑制、インスリン抵抗性の改善など、全身の健康維持に役立っていることが複数報告されている[20][18][12]。

空腹感の抑制

レジスタントスターチを多く含んだ食品を摂ると、小腸でおだやかに消化され、大腸ではゆっくりと代謝されて短鎖脂肪酸になるため、摂取してから時間をかけて体に吸収される。このため、朝食に食べると昼食、昼食に食べると夕食の空腹感や血糖上昇を抑えるセカンドミール効果が生じる[21]。

摂取カロリーの抑制

でんぷん1gあたりのカロリーは通常4kcalとみなされているが、レジスタントスターチのように小腸で消化されず、大腸で腸内細菌に代謝されて短鎖脂肪酸として吸収されるでんぷんのカロリーは1gあたり2kcalと、通常のでんぷんの半分とされている。[22]

ナガイモなどの効能

上の「レジスタントスターチを含む食品」の表は英語版からの翻訳なので登場しないが、東アジアでよく食用にされているヤマノイモ科のヤマイモやナガイモに多くのレジスタントスターチが含まれている。これらが便秘などを防ぐ効能が大いにあることを、2019年ころより日本のNHKテレビその他のマスコミで広く取り上げられている[23][24]。

脚注

  1. 青江誠一郎 ほか「レジスタントスターチ」『食物繊維 基礎と応用』第一出版、2008年、51-54頁。
  2. 日本放送協会. “腸内パワーを引き出す新成分!あのネバネバ食材で便秘改善SP - NHK ガッテン!”. www9.nhk.or.jp. 2020年12月26日閲覧。
  3. 不破英次、「Resistant Starch」 『澱粉科学』 1991年 38巻 1号 p.51-54, doi:10.5458/jag1972.38.51
  4. H. N. ENGLYST and J. H. CUMMINGS : Am. J, Clin. Nutr,, 45, 423-431 (1987)., doi:10.1093/ajcn/45.2.423
  5. Englyst, H.N., Wiggins, H.S. and Cummings, J.H., "Determination of the non-starch polysaccharides in plant foods by gas-liquid chromatography of the constituent sugars as alditol acetates." Analyst, 107, 307-312 (1982).
  6. 本間紀之, 赤石隆一郎, 吉井洋一 ほか、「米および米加工品における難消化性澱粉含量の測定」 『日本食品科学工学会誌』 2008年 55巻 1号 p.18-24, doi:10.3136/nskkk.55.18
  7. Suzanne Hendrich, “Battling Obesity with Resistant Starch”, foodtechnology, Vol. 64, No. 3, 2010, pp. 22-30.
  8. 青江誠一郎 ほか「難消化性デキストリン」『食物繊維 基礎と応用』第一出版、2008年、65-67頁。
  9. M.G. Sajilata, Rekha S. Singhal and Pushpa R. Kulkarni, ”Resistant Starch–A Review”, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, Vol. 5, 2006, p. 1–17.
  10. Barry V. McCleary and Dympna A.Monaghan, “Measurement of Resistant Starch”, JOURNAL OF AOAC INTERNATIONAL, Vol. 85, 2002, pp. 665-675.
  11. “日本テレビ『世界一受けたい授業』「冷やして得する栄養学 美容と健康の強い味方レジスタントスターチとは?」” (2012年9月1日). 2013年3月15日閲覧。
  12. A.P.Nugent, “Health properties of resistant starch”, Nutrition Bulletin, Vol. 30, 2005, pp 27-54.
  13. 『食品と開発』2013年、Vol.48 No.1、49-57頁。
  14. 内閣府食品安全委員会新開発食品専門調査会 専門調査会議事録
  15. “産学共同研究:グリーンバナナ由来レジスタントスターチによる便秘やメンタルヘルス、肌状態などの改善効果”. Resistant Starch Lab.. 2020年12月26日閲覧。
  16. MARY M. MURPHY, MS, RD; JUDITH SPUNGEN DOUGLASS, MS, RD; ANNE BIRKETT, PhD (2008). “Resistant Starch Intakes in the United States”. Journal of the AMERICAN DIETETIC ASSOCIATION 108 (1): 67-78. doi:10.1016/j.jada.2007.10.012. http://www.andjrnl.org/article/S0002-8223%2807%2901932-3/abstract 2015年3月27日閲覧。.
  17. ドイツのライ麦パンの一種
  18. 早川享志, 柘植治人、「デンプンの摂取と健康 -難消化性デンプンの生理機能-」『日本食物繊維研究会誌』 1999年 3巻 2号 p.55-64, doi:10.11217/jjdf1997.3.55
  19. “’EFSA Journal, 2011, 2024, 9.”. 2013-03-016閲覧。
  20. 早川享志「ルミナコイドとしてのレジスタントスターチの役割」『FFIジャーナル』217号、2012年、p.269-274, NAID 40019419396。
  21. 青江誠一郎、「大麦β-グルカンの機能性について」 『日本食生活学会誌』 2015年 26巻 1号 p.3-6, doi:10.2740/jisdh.26.3
  22. “JFRLニュース No. 34, JUL. 2003” (PDF). 日本食品分析センター. 2013年3月7日閲覧。
  23. 腸内パワーを引き出す新成分!あのネバネバ食材で便秘改善SP(ガッテン)
  24. 炭水化物なのに太らない 秘密はレジスタントスターチ(日経Goodday 30+)

外部リンク

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