レプティリアンによる陰謀説
レプティリアンによる陰謀説とは、レプティリアン(ヒト型爬虫類[注釈 1])と呼ばれる異星人が、姿を変えて人間社会の特権階級に紛れ込み、人類を支配しているという陰謀説である[9][10]。 レプティリアンという存在自体も含め、この陰謀説を有名にしたのはイギリスの作家(時に陰謀論者ともいわれる)デイビッド・アイクである。人間に変身したレプティリアン型のエイリアンが、政治的な力を獲得して、人間社会ひいては地球を操っているというのはまさにアイクが論じ始めたことである。さらにアイクはことあるごとに、世界各国の指導者の多くはレプティリアンである(またはレプティリアンに操られている)とも主張している。

起源
シラキュース大学で政治学を教えるマイケル・バークンは、このレプティリアンによる陰謀論の起源を、英雄コナンの作者であるロバート・E・ハワードが書いた『影の王国』(1929年、ウィアード・テイルズ誌に掲載)に求めている[11]。この小説のストーリーは、 「ロスト・ワールド」であるアトランティスとレムリアをめぐる神智学的な思想に基づいている。とりわけ1888年に書かれたヘレナ・P・ブラヴァツキーによる『シークレット・ドクトリン』の影響は大きく、「かつてレムリアという大陸を支配していた強大な種族である『ドラゴンマン』(dragon-men)」のアイデアがその根底にある[12][13]。
ハワードによって描かれた「ヘビ人間」は、人間に自在に変化でき、地下孔をねぐらとして、人間界に紛れ込んではマインドコントロールをかける異能のヒューマノイドであった[11]。クラーク・アシュトン・スミスも自分の作品のなかでハワードの「ヘビ人間」のアイデアとハワード・フィリップス・ラヴクラフトのテーマを取り入れている。 クトゥルフ神話の基礎を築いたのは、その意味ではスミスとハワード(そしてもちろんラブクラフトも)ということもできる[14]
1940年代には、モーリス・ドリールが「ystf the Gobi」と題したパンフレットを出している。このパンフレットに登場する「ヘビ族」(serpent race)を「身体は人間だが...頭は...大蛇のよう」であり、人間の形態もとることのできる能力がある[15]。ドリールは『エメラルド・タブレット』という詩も書いており、その中にもこの種族が登場する。詩のタイトルに使われているエメラルド・タブレットは「Thoth, an Atlantean Priest king」にあてて書かれたものとして作中で言及されている。マイケル・バークンは、「ほぼ確実に」ドリールのアイデアは『影の王国』から来ており、ある意味でドリールの『エメラルド・タブレット』はデイビッド・アイクの『マトリックスの子供たち』の下敷きになっている、と主張している[16]。
歴史研究者のエドワード・ギモントは、レプティリアンの陰謀論がアフリカの植民地時代に広まっていた偽史的な伝承(典型的にはグレート・ジンバブエやモケーレ・ムベンベ)からきているという説をとなえている[17]。
エイリアン・アブダクション
エイリアンに誘拐されたと証言する人間が時としてレプティリアンのような生物とコンタクトしたと語ることがある[18]。最も初期の例では、ネブラスカ州アッシュランドの警察官ハーバート・シルマーである。彼は催眠術にかけられたうえで、1967年にUFOにのせられた時の体験を回想しているが、このシルマーをUFOにのせたのは左胸に「かすかにレプティリアンを」思わせるヒューマノイドだったという[19][20]。一方で懐疑論者は、この誘拐事件をシルマーの狂言であるとみなしている[21]。
デイビッド・アイク
レプティリアンに関する陰謀論をテーマにした初めての書籍である『大いなる秘密』を1999年に出版したイギリスの陰謀論者デイビッド・アイクによれば、りゅう座アルファ星の星系から来た、長身で、血をすすり、自在に姿をかえるレプティリアン型のヒューマノイドは、地下に拠点をかまえてすでに地球に潜んでおり、世界中の陰謀の背後にいる一大勢力となっている[22]。そしてアイクによれば、メロヴィング朝、ロスチャイルド家、イギリス王室、ブッシュ家、日本の天皇家など過去そして現在の世界を支配する勢力はレプティリアンに何らかの関係がある[23]。アイクの陰謀論は47の国に支持者がおり、彼自身、6,000人もの聴衆を前に講演を行ったこともある[24][25]。
アメリカの作家ヴィッキー・サンティリャーナは、アイクの陰謀論を世界で最も人気のある陰謀論ベスト10に数えている[26]。2013年に世論調査会社パブリック・ポリシー・ポーリングがアメリカで実施した調査では、登録済回答者(registered voters)の4パーセント (±2.8%) がアイクの説を信じているという結果が示されている[27]。
太田竜
「太田竜」も参照
日本の革命思想家である太田竜(1930-2009)は、アイクの著作を邦訳するなどして、日本にレプティリアン陰謀論を導入した代表的な人物である。かつてトロツキストであった太田は、60年代後半にアナキスト的な「辺境」革命論の立場から、在日朝鮮人、アイヌ問題、沖縄問題、エコロジー運動へ積極的に取り組んでいった後、「日本原住民論」という偽史運動を進め、90年代以降にユダヤ陰謀論や、レプティリアン陰謀論を主張し始め、最終的に「日本民族」の優秀性と独自性を説く極右的主張に行きついた[28]。
アイクと太田のレプティリアン陰謀論における主張の違いとしては、天皇制に対する立場の違いを見出すことが出来る。世界の支配層を見出すアイクは、日本の「ミカド」をレプティリアンと見做すが、天皇制を擁護する太田は『大いなる秘密』の邦訳において、「根拠が示されておらず疑問がある[29]」として、天皇をレプティリアンと見做すアイクの主張を退けている。

政治
2003年9月のカナダにおける地方選中に、オンタリオ進歩保守党が公開したプレスリリースでは、当時野党であったオンタリオ自由党の党首ダルトン・マッギンディーを揶揄して「Evil reptilian kitten-eater from another planet」という蔑称が使われたことがある。
2008年のアメリカ上院選では、ミネソタ州を舞台にコメディアンのアル・フランケンと現職議員のノーム・コールマンが僅差で議席を争ったが、アル・フランケンに投じられた票の「ライト・イン候補者」(チェックをいれる投票者の名が票になくとも自由に名前を書き込める)の欄に、「ワニ人間」(Lizard People)と書かれた票があり、フランケンに対する多重投票として無効になったことがある[30] 。後にこの票を冗談で投じたことを明かしたルーカス・ダベンポートは「あなたがワニ人間に関する陰謀論を聞いたことがあるかどうかは知らないけどね。〔あの票は〕私の友人。 候補者たちが気にくわなかったので、はじめは「革命」と書く予定で、これは気がきいていてうまいと思っていた。けれど『ワニ人間』のほうがもっと面白いとなったんだ」[31]。
2011年2月に放送されたラジオ番組「オピー・アンド・アンソニー」では、コメディアンのルイ・C・Kがゲストのドナルド・ラムズフェルドに対して、ラムズフェルドやディック・チェイニーは喜んで人の肉の味わうワニ人間ではないかと冗談で聞く場面が何度もあった。ラムズフェルドがはっきりと否定しなかったのをおもしろがったルイは、人類に対する(潜在的な)罪の意識の現れだとさらに追求した。おそらくワニ人間たちはこの質問に対して嘘がつけず、ワニかどうか聞かれても答えたり肯定することはできないのだ、というのがルイの考察である[32]。
2013年3月、当時アメリカ大統領のバラク・オバマのスピーチを護衛するセキュリティの1人が、レプティリアン型のヒューマノイドではないかとWIRED (雑誌)の記事で取り上げられて注目を浴びた。 国家安全保障会議の主席報道官であるケイトリン・ヘイデンはこの件にユーモアをまじえた次のようなコメントを残している。「大統領をエイリアンかロボットで護衛するというご懸念の計画は、シークエスター〔予算の強制削減措置〕で予算が削られるかして無かったことになる可能性が高いでしょうね」。
信条、宗教
いわゆるQアノンの支持者には、反ユダヤ主義の陰謀論で共有されている要素を含むレプティリアンによる陰謀説からアイデアを借用しているものもいる[33]。
日本の宗教法人「幸福の科学」の総裁である大川隆法は『レプタリアンの逆襲』などの著作を出版しており、獰猛でありながら高度な科学技術も持つレプティリアンが地球征服を企んでいると論じている[34]。
反ワクチン団体の神真都Qは、警察は「爬虫類型宇宙人(悪い宇宙人)」であり、「ゴムマスクで人間に化けているので、松脂で退治できる」とし、警察を呼ばれたときに松脂を差し出したことがある[35]。
2022年後半から、昆虫食陰謀論において「世界の支配層は爬虫類人間なので、虫を食料にすることを発想する。地球温暖化も、虫を食べさせようとするための嘘。ロスチャイルド家が国際連合食糧農業機関(FAO)を操っている」という陰謀論が流れた[9]。昆虫食愛好家たちは、「それが事実なら、昆虫食は特権階級の支配層が独占し、あえて『ほ乳類人間』に食わせてやるほうが不自然では?」と指摘していた[9]。
脚注
注釈
出典
- Joyce, Judith (2011). The Weiser field guide to the paranormal abductions, apparitions, ESP, synchronicity, and more unexplained phenomena from other realms. San Francisco: Weiser Books. pp. 80–81. ISBN 978-1609252984. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2014年8月3日閲覧。
- “How to Spot the Reptilians Running the U.S. Government”. TheAtlantic.com (2013年10月31日). 2016年4月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年6月22日閲覧。
- Lynskey (2014年11月6日). “Psycho lizards from Saturn: The godlike genius of David Icke!”. NewStatesman. 2021年12月2日閲覧。
- Marty Crump; Danté Bruce Fenolio (2015). Eye of Newt and Toe of Frog, Adder's Fork and Lizard's Leg: The Lore and Mythology of Amphibians and Reptiles. University of Chicago Press. p. 56. ISBN 978-0-226-11600-6. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2017年10月13日閲覧。
- Alfred Lambremont Webre (17 November 2015). The Omniverse: Transdimensional Intelligence, Time Travel, the Afterlife, and the Secret Colony on Mars. Simon and Schuster. p. 53. ISBN 978-1-59143-216-6. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2017年10月13日閲覧。
- Leo Lyon Zagami (2016). Confessions of an Illuminati, Volume II: The Time of Revelation and Tribulation Leading Up to 2020. CCC Publishing. p. 131. ISBN 978-1-888729-62-7. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2017年10月13日閲覧。
- Lewis, Tyson; Richard Kahn (Winter 2005). “The Reptoid Hypothesis: Utopian and Dystopian Representational Motifs in David Icke's Alien Conspiracy Theory”. Utopian Studies 16 (1): 45–75. doi:10.5325/utopianstudies.16.1.0045. JSTOR 20718709.
- Frel, Jan (2010年9月1日). “Inside the Great Reptilian Conspiracy: From Queen Elizabeth to Barack Obama – They Live!”. Alternet. 2018年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月1日閲覧。
- “Vol.10 昆虫食陰謀論【不思議食品・観察記】”. agrifact (2023年1月20日). 2023年2月28日閲覧。
- 世界陰謀評議会『創作のための陰謀論&オカルトガイド』笠倉出版社、2015年。ISBN 978-4773087741。
- Barkun, Michael (2003). A Culture of Conspiracy: Apocalyptic Visions in Contemporary America. Berkeley and Los Angeles: University of California Press. pp. 120–121. ISBN 0520238052
- Trompf, Garry W.; Bernauer, Lauren (2012). “Producing Lost Civilisations: Theosophical Concepts in Literature, Visual Media and Popular Culture”. In Cusack, Carole; Norman, Alex. Handbook of New Religions and Cultural Production. Leiden: Brill. pp. 113–114. ISBN 978-9004221871. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2014年9月3日閲覧。
- Parramore (2021年1月12日). “The far right's lizard conspiracy is bonkers. But it's definitely not harmless.”. NBC News. 2021年1月12日閲覧。
- Mott, William Michael (2011). Caverns, Cauldrons, and Concealed Creatures: A Study of Subterranean Mysteries in History, Folklore, and Myth. Grave Distractions Publications. p. 27. ISBN 978-0982912874. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2014年9月3日閲覧。
- Barkun (2003), p. 119 Archived 2019-03-30 at the Wayback Machine.
- Barkun (2003). A Culture of Conspiracy. pp. 120–121. "Doreal's 'translation' of the tablets was used extensively by David Icke in his book on the reptilians, Children of the Matrix...Although Doreal and the others spoke of the serpent race as a confirmable historic reality, the idea almost certainly came from pulp fiction...In all likelihood, the notion of a shape-changing serpent race first came from the imagination of an obscure pulp fiction author, Robert E. Howard."
- Guimont (2019年3月18日). “Hunting Dinosaurs in Central Africa” (英語). Contingent Magazine. 2020年9月11日閲覧。
- “The Shadowlands Mysterious Creatures page”. 2012年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月18日閲覧。
- “Police Officer Herbert Schirmer Abduction”. UFO Evidence (2007年9月30日). 2007年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年11月3日閲覧。
- Matteson, Cory (2012年3月5日). “Comic book artist finds inspiration in Ashland alien abduction story”. Lincoln Journal Star. オリジナルの2018年10月21日時点におけるアーカイブ。 2018年10月21日閲覧。
- Newton, Michael. (2002). The Encyclopedia of Kidnappings. Facts on File, Inc. p. 6. ISBN 0-8160-4486-4
- Ronson (2001年3月16日). “Beset by lizards”. The Guardian UK. 2013年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年8月4日閲覧。
- Chidester, David (2005) (英語). Authentic Fakes: Religion and American Popular Culture. University of California Press. p. 122. ISBN 978-0520242807. オリジナルの30 March 2019時点におけるアーカイブ。 2018年3月2日閲覧。
- Lauren Cox (2008年12月12日). “What's Behind Internet Conspiracy Empires?”. ABC News. オリジナルの2009年10月29日時点におけるアーカイブ。 2009年11月18日閲覧。
- Mesure, Susie (2012年10月28日). “David Icke is not the Messiah. Or even that naughty. But boy, can he drone on”. The Independent. オリジナルの2013年12月16日時点におけるアーカイブ。 2013年6月11日閲覧。
- Santillano. “10 Conspiracy Theories that Won't Go Away”. Divine Caroline. 2016年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年10月21日閲覧。
- “Conspiracy Theory Poll Results”. Public Policy Polling. 2017年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月3日閲覧。
- 栗田英彦 (2021). “「革命理論としての陰謀論 陰謀論的スピリチュアリティにおける太田竜の問題系」”. 現代思想 特集「陰謀論」の時代 (青土社) 49 (6): 81.
- デーヴィッド・アイク 著、太田龍 訳「監訳者まえがき」『大いなる秘密 上 爬虫類人』三交社、2000年、9頁。
- “Minnesota Senate Recount: Challenged ballots: You be the judge”. Minnesota Public Radio (2008年11月19日). 2008年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年11月22日閲覧。
- “Why would someone vote for the Lizard People?” (2008年). 2009年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月8日閲覧。
- Del Signore (2011年2月25日). “Louis CK Repeatedly Asks Donald Rumsfeld If He's a Lizard Alien”. Gothamist. 2011年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月29日閲覧。
- Madani, Doha; Blankstein, Andrew; Collins, Ben (2021年8月12日). “California dad killed his kids over QAnon and 'serpent DNA' conspiracy theories, feds claim”. NBC News (NBC Universal) 2021年12月25日閲覧。
- “レプタリアンの逆襲 I”. 幸福の科学出版. 2022年6月19日閲覧。
- “「警察は爬虫類型宇宙人」反ワクチン団体・神真都Q、支離滅裂な主張の数々”. 週刊ダイヤモンド (2022年6月14日). 2022年12月15日閲覧。
関連項目
- 神智学
- ヒト型爬虫類#陰謀論
- 宇宙人#レプティリアン
- 陰謀論の一覧#ヒト型爬虫類陰謀論
- デイビッド・アイク - Qアノン - 神真都Q - 幸福の科学
- ヒト型爬虫類の一覧 (英語版)
外部リンク
- Dunning, Brian [in 英語] (21 May 2007). "Skeptoid #46: Support Your Local Reptoid". Skeptoid. 2022年6月22日閲覧。