双曲型平衡点

数学力学系の研究において、双曲型平衡点(そうきょくがたへいこうてん、: hyperbolic equilibrium point)あるいは双曲型不動点(そうきょくがたふどうてん、: hyperbolic fixed point)とは、中心多様体を持たない不動点のことを言う。双曲点の近くで、二次元の非散逸的な系の軌道は双曲線に似たものとなる。しかしこの事実は一般には成立しない。Strogatz[1] は、「双曲型とは、必ず『鞍点』であることを意味するように聞こえるため、不幸な名前である。しかしその呼び名が標準的となっている」と注意している。双曲型点の近傍において、いくつかの性質が成り立つ。特に重要なものを以下に挙げる[2]

  • 安定多様体と不安定多様体が存在する;
  • 擬軌道尾行が生じる;
  • 不変集合上での挙動は記号力学によって表現できる;
  • 自然測度が定義される;
  • 系は構造安定である。
二次元の鞍点の近くでの軌道(双曲型平衡点の一例)

写像

T : RnRnC1 写像で、p はその不動点とする。ヤコビ行列 DT(p) が単位円上に固有値を持たないとき、p双曲型不動点と呼ばれる。

唯一つの不動点が双曲型であるような写像の一例として、次のアーノルドの猫写像が挙げられる:

実際、固有値は次のようになる。

フロー

F : RnRn を、臨界点 p を持つ C1 ベクトル場とする。すなわち F(p) = 0 が成立するものとする。また JFp におけるヤコビ行列とする。行列 J に実部がゼロとなる固有値が存在しないとき、p双曲型と呼ばれる。双曲型平衡点はまた、双曲型臨界点(hyperbolic critical point)あるいは初等的臨界点(elementary critical point)とも呼ばれる[3]

ハートマン=グロブマンの定理によると、双曲型平衡点のある近傍における力学系の軌道構造は、線型化力学系の軌道構造と位相共役となる。

次の非線型系を考える。

この唯一の平衡点は (0, 0) である。そこでの線型化は

.

となる。この行列の固有値は である。すべての値の α ≠ 0 に対し、これらの固有値は実部がゼロとなることはない。したがって、この平衡点は双曲型平衡点である。この線型化系は、(0, 0) の近くでの非線型系と同様の挙動を示す。α = 0 のとき、この系は (0, 0) において双曲型ではない平衡点を持つ。

注意

無限次元系 - 例えば時間遅れを含む系 - の場合、「スペクトルの双曲部」(hyperbolic part of the spectrum)の概念が、上述の性質のことを指す。

関連項目

脚注

  1. Strogatz, Steven (2001). Nonlinear Dynamics and Chaos. Westview Press
  2. Ott, Edward (1994). Chaos in Dynamical Systems. Cambridge University Press
  3. Ralph Abraham and Jerrold E. Marsden, Foundations of Mechanics, (1978) Benjamin/Cummings Publishing, Reading Mass. ISBN 0-8053-0102-X
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