多古光湿原

多古光湿原(たこひかりしつげん)は、千葉県香取郡多古町山武郡横芝光町の千葉県内最大級の湿原である[1]

多古光湿原
所在地 千葉県香取郡多古町山武郡横芝光町
位置 北緯35度43分22秒 東経140度29分0秒
面積  0.24 km2
プロジェクト 地形

概要

多古町と旧光町の境界に位置するため多古光湿原と呼ばれている[2]。面積は約24ヘクタールで、千葉県内最大級である[1]栗山川と借当川が合流する場所に位置する[1][3]。栗山川中流には多古光湿原のほか海跡湖である坂田池乾草沼(ひぐさぬま)があり、湿原群をなしている[1]

多古光湿原は千葉県レッドデータブックに掲載される千葉県最重要保護の植物が生育する場所でもある[4][5][6]。また、ムジナクグというカヤツリグサ科スゲ属の植物はこの湿原にのみ見られる[4][5]

栗山川から見た多古光湿原(横芝光町側)

湿原の成り立ち

縄文時代縄文海進のため多古光湿原を含む九十九里平野は海底にあった[7]。その後、気候変動により海退が起こり、沖積地として多古光湿原が生まれた[4]。本来は汽水域や寒冷地に育成する植物が多古光湿原に生育しているのは、かつて海や寒冷地であったころの種が遺存したものと考えられている[8]。 明治期には70ヘクタールほどの面積だったと推定されているが、周辺が水田となって約24ヘクタールに面積が縮小された[1]。かつては多古光湿原に生えるヨシを家屋の茅葺屋根の材料として利用するため、周辺住民による共同管理が行われていた[5]

植生

多古光湿原ではこれまでに288種の植物が確認されている[9]。湿原の中央部をヨシやカモノハシが占め、周辺をハンノキが取り囲んでいる[10]。ハンノキは土地の境界を示すために並んで植えられている[10]。春にはヨシ、オオニガナワレモコウ、エゾツリスゲ、チガヤ、ノハナショウブ、ヌマトラノオなどが生育する[10]。夏から秋にはヨシ、オギなどが育つほか、コオニユリ、コバギボウシ、カサスゲ、ツルマメ、ヒメシダ、クサレダマ、エゾミソハギなども見られる[8]。周辺からセイタカアワダチソウなどの外来種も進入している[11]

かつて海であったころの名残で、汽水域に育成するカヤツリグサ科のオオクグが内陸部にある多古光湿原に生育している[8]。また、寒冷地であったころの名残で、カヤツリグサ科のエゾツリスゲ、ヌマクロボスゲ、ムジナスゲが見られる[8]

多古光湿原で発見された新種として、カヤツリグサ科のムジナクグがある[8]。1989年に確認され[8]、のちに新種として認められた[12]。その他、生育が確認された植物のうち、アゼオトギリ、エキサイゼリ、エゾツリスゲ、ヌマクロボスゲ、ムジナスゲ、コアナミズゴケが2009年の千葉県レッドデータブック最重要保護対象として掲載されている[13]。また。県重要保護としてレッドデータブックに掲載されているカキツバタ、キセルアザミ、コムラサキなどの植物も見られる[14]

動物・昆虫

千葉県ではレットデータブックに掲載されているニホンアカガエルも見られる[15]

鳥類もおよそ50種類ほど観察でき、チョウゲンボウノスリミサゴといった猛禽類から、カルガモ、マガモなどの水鳥、タゲリ、カワセミ、ヒバリなどを見ることができる[16]

昆虫ではミドリシジミやオオルリハムシなどが見られる[17]。オオルリハムシは、多古光湿原では春〜秋にそれほど珍しくはないが、全国的には生息地が限られ、千葉県の重要保護生物に指定されている[18]

保全活動

多古光湿原では、開発によって減少する栗山川流域の湿地帯を中心に活動する「栗山川流域の自然調査会」による調査研究・保全活動が行われていた[2]。「栗山川流域の自然調査会」では横芝光町側のヨシ原の刈り取り作業や観察会を行っていたが、多古町側にも保全活動を必要性があると考え、多古町の「まちづくりテラスの会」と共同で「多古光湿原保全会」を立ち上げた[19]

多古町と横芝光町の住民によってつくられた「多古光湿原保全会」[5]によってヨシの刈り取りが行われている[6]。同会による観察会のほか[20]、多古光湿原の存在を周知するための講演会[21][22]や写真展も行われている[23]。 また、多古光湿原保全会は多古光湿原についての図書『多古光湿原 植物と自然』も出版している[5][24]

1997年に横芝光町にある坂田ふれあい公園内に湿性植物園が作られ、栗山川中流域の植物が移植され、この地域の特徴的な植物の保護と育成が行われている[25][26]。ムジナスゲ、オオクグ、ムジナクグなどの植物は湿性植物園でも保存・育成されている[27]

脚注

出典

  1. 自然誌5 2001, p. 396.
  2. Ichihara 2018, p. 17.
  3. 千葉生物学会 2018, p. 104.
  4. Yashiro 2017, p. 4.
  5. 千葉日報 & 202004, p. 2.
  6. 千葉日報 & 201802, p. 10.
  7. Yashiro 2017, p. 5.
  8. 自然誌5 2001, p. 398.
  9. Yashiro 2017, p. 9.
  10. 自然誌5 2001, p. 397.
  11. 自然誌5 2001, p. 399.
  12. 遠藤他 1995, p. 279.
  13. Yashiro 2017, p. 13-17.
  14. Yashiro 2017, pp. 17–18.
  15. Yashiro 2017, pp. 93–94.
  16. Yashiro 2017, pp. 71–78.
  17. Yashiro 2017, pp. 83–88.
  18. Yashiro 2017, p. 84.
  19. Ichihara 2018, pp. 17–18.
  20. 千葉日報 & 201806, p. 2.
  21. 千葉日報 & 201510, p. 10.
  22. 千葉日報 & 201706, p. 10.
  23. Ichihara 2018, p. 18.
  24. Yashiro 2017.
  25. 自然誌5 2001, p. 400.
  26. Yashiro 2017, pp. 101–104.
  27. 湿性植物園 & 202003, pp. 4–5.

参考文献

  • 谷城勝弘/監修『多古光湿原 植物と自然』多古光湿原保全会、2017年6月15日、120頁。
  • 千葉県生物学会/編集『千葉県いきものかんさつガイド 千葉県生物学会70周年記念』千葉県生物学会、2018年2月、125頁。ISBN 978-4-925111-57-7。
  • 千葉県史料研究財団『千葉県の自然誌 別編2 千葉県植物写真集』 49巻、千葉県〈県史シリーズ〉、2005年12月。
  • 千葉県史料研究財団『千葉県の自然誌 本編5 千葉県の植物2 植生』 44巻、千葉県〈県史シリーズ〉、2001年3月。
  • 谷城勝弘; 市原通雄『横芝光町ふれあい坂田池公園湿性植物園の植生 栗山川流域の自然調査会の支援と共に20年』栗山川流域の自然調査会、2020年3月、11頁。
  • 谷城勝弘『多古光湿原の植物 識別が難しいスゲ属の見方と季節の花の紹介』千葉県植物研究所、2021年、7頁。
  • 谷城勝弘「多古光湿原の植物とその保護について」『千葉生物誌』第59巻第1号、千葉県生物学会、2009年7月、17-24頁、ISSN 0385-0986
  • Endo Y.、Yashiro K.「Carex × Takoensis Endo et Yashiro (Cyperaceae), a New Hybrid from Chiba Prefecture, Central Japan」『植物研究雑誌(J.Jpn.Bot.)』第70巻第5号、ツムラ、1995年10月、273-279頁、ISSN 0022-20622021年5月2日閲覧
  • 市原通雄「「栗山川流域の自然調査会」の活動」『地下水』新生第20号、横芝光町社会文化課、2018年3月、17-18頁。
  • 堀井研作 (2020年4月6日). “<ふさの国探宝> 多古光湿原(横芝光・多古) 希少な動植物の宝庫 保全会が維持「後世に」”. 千葉日報 (千葉日報社): p. 2
  • 馬場秀幸 (2015年10月1日). “<地方発ワイド> 「多古光湿原」の価値知って 世界唯一のムジナクグ自生”. 千葉日報 (千葉日報社): p. 10
  • “多古光湿原の価値語る 谷城勝弘さん貴重植物[ムジナクグ]を紹介”. 千葉日報 (千葉日報社): p. 10. (2017年6月7日)
  • “植生維持へ総動員 多古光湿原 背丈超えのヨシ刈り取り”. 千葉日報 (千葉日報社): p. 10. (2018年2月12日)
  • “ハナショウブ原種開花 県内1株の希少種も観察 多古光湿原”. 千葉日報 (千葉日報社): p. 2. (2018年6月5日)
  • 多古光湿原”. 多古光湿原保全会. 2021年5月2日閲覧。

関連項目

外部リンク

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