暗黒啓蒙

暗黒啓蒙(あんこくけいもう、英語: Dark Enlightenment、ダーク・エンライトメント)、または新反動主義運動: Neoreactionary Movement)は、啓蒙主義へのアンチテーゼを自称している、反民主主義的かつ反動的な運動である。支持者の間では新反動: Neoreaction)あるいは省略形のNRxとも呼ばれる。この運動は全般的に、平等主義を拒絶し、歴史はより大きな自由と啓蒙への必然的な進歩を示すという見解を否定しており、その意味でこれは「ホイッグ史観」に対するある種の反作用であると言える[1][2]

ダンテ神曲』に登場する地獄の門ギュスターヴ・ドレによる挿絵で、「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と記されている。

概要

この運動は、より古い社会構造や政府形態への回帰を望んでおり、君主制や他の形態の指導者、例えば合資(ジョイント・ストック)共和国[3]の「新官房学的CEO」[4]を支持する。それに伴う経済思想として、右派リバタリアニズム保守主義経済ナショナリズム的アプローチをとる[5]。支持者は一般的に、ジェンダー人種移民などの問題に関して社会的に保守的な見解を支持する。

2013年の『TechCrunch』の記事では、「新反動主義」について、2000年代以降活発に活動している非公式な「ブロガーのコミュニティ」および政治理論家に適用される、あるいは彼らが自称する際に用いられる用語として説明している[6]スティーヴ・セイラーハンス=ヘルマン・ホッペが、この運動の「現代の先駆者」と言われており、新反動主義者はトーマス・カーライルユリウス・エヴォラのような哲学者から影響を受けているとも言われている[6]。『Taki’s Magazine』にて、ニコラス・ジェームズ・ペル(Nicholas James Pell)は新反動主義者としてアメリカの計算機科学者のカーティス・ヤーヴィンとイギリスの作家・哲学者のニック・ランドを名指しし、他の著名な人物として「君主主義的トランスヒューマニストのマイケル・アニシモフ(Michael Anissimov)、カトリックアナキストであるブライス・ラリバート(Bryce Laliberte)、ポスト・リバタリアン脱出アーティストのジム(Jim)、そして『Radish』の皮肉っぽい風刺家たち」を挙げている[7]

暗黒啓蒙はオルタナ右翼の先駆けと言われてきており[8][9]、また何人かの批評家はこの運動を「ネオ・ファシスト」と分類している[2][10][8]。2016年の『New York Magazine』の記事では、次のように記されている。「新反動にはさまざまな潮流が無数にあるが、おそらく最も重要なのはある種のポスト・リバタリアニズムの未来派である。彼らはリバタリアンがいかなる選挙にも勝つ見込みが無いことを認識して、権威主義的な政府形態を支持し、民主主義に反対している[11]」。例えばヤーヴィンは、リバタリアン的民主主義とは「空飛ぶクジラや水力自動車のごとき端的な工学的矛盾」であると主張している[12]

中心的思想の要約

新反動主義運動の推進力の一部は、ニック・ランドの論文「暗黒啓蒙(The Dark Enlightenment)」で示されたように、ピーター・ティールのようなリバタリアンに由来する。同論文は、2009年4月の『Cato Unbound』の議論でリバタリアン思想家が自由民主主義の両立性についていかに懐疑的な意見を表明したかについて触れている[13]

ヤーヴィンが望むシステムは、フリードリヒ・ヴィルヘルム1世時代のプロイセンの官房学(Cameralism)[14]にちなんで、新官房学(neocameralism)と名付けられた。これは、企業が国を所有するシステム[4]であり、その会社はジョイント・ストック・カンパニーとして構成され、利益を最大化するためにCEOによって運営される[15]

ピーター・ティールとパトリ・フリードマンは、外部の規制法律から解放された領土を構築する1つの方法として、公海上に浮かぶ都市の建設を推進する組織であるSeasteading Institute日: シーステディング・インスティチュート[16])を支持してきた[1]

新反動主義者のマイケル・ペリルークス(Michael Perilloux)は、ドナルド・トランプ大統領がアメリカ合衆国憲法を無効化して戒厳令を宣言し、政府をトランプ・オーガナイゼーションに置き換えることによって、より大きな権力を握ることを提案している[9]。同様に、Googleのエンジニアであるジャスティン・タニーは、Googleの会長エリック・シュミットをアメリカのCEOに任命するよう嘆願書を配布した[1]

一部の新反動主義の未来派は、国家を打ち負かすために技術の使用に焦点を当てている。例えば、少数の者が国家の絆から自由になるために超知能的ヒューマン・コンピュータハイブリッドに進化する、というトランスヒューマニスト加速主義が提案されていて[12]優生学[17]の支持者、マイケル・アニシモフ(Michael Anissimov)がこのような考えの提唱者の一人である。マーク・オコンネル(Mark O'Connell)によれば、アニシモフは「近年、どうやら白人至上主義者とシンギュラリティが交差する市場を独占し」、そして「トランスヒューマニスト運動からの不可触民のようなものになった」。アニシモフは、すべての人間が平等に創造されているという考えを拒否して、既存の人種の間に知性の格差がすでに存在し、トランスヒューマン技術が権力のさらなる格差を生み出すと考えている[18]。彼は、貴族主義体制は民主主義体制や共産主義体制よりも財政的に安定しており、無駄が少ないと主張している[6]

歴史と語源

ディラン・マシューズ(Dylan Matthews)によれば、新反動は人種主義、伝統主義および孤立主義的観点からなされた旧保守主義の議論に依拠しており、旧保守主義者たちが持つ、主流派が自らを潰そうとしているという信念に基づいている。この2つの運動の違いは、旧保守主義者はより宗教的であり、合衆国憲法と共和国の理念をより信じていることである[9]。リック・サール(Rick Searle)は、フリードリヒ・ニーチェフョードル・ドストエフスキーシャルル・モーラスヴィルフレド・パレートのような19世紀後半の人物と新反動主義者たちの間に類似点を見出している。またジョージ・オーウェルも、1943年に『Tribune』に掲載されたコラム「As I Please」で「新反動的」という用語を使用した[19]

2007年と2008年に、カーティス・ヤーヴィンはメンシウス・モールドバグ(Mencius Moldbug)という筆名で、暗黒啓蒙的思考へと発展する発想を明確にした。ヤーヴィンの諸理論は後にニック・ランドの主題となり、ランドは「暗黒啓蒙(Dark Enlightenment)」という言葉を、まさにこの語を冠する彼の随筆の中で造語した[13]。「暗黒啓蒙」という言葉は、啓蒙(Enligtenment)によって得られたとされる知識にまつわる言葉遊びである[2][5][6][20]。ランドは次のように述べる。「進歩的な啓蒙主義が政治的理想を見出すところで、暗黒啓蒙は食欲を見る」[13]。これは、(民主主義における)主権の傾向は社会を食い物にすることだという見解である。

ヤーヴィンはもともと彼のイデオロギーを形式主義: Formalism、法的形式主義からヒントを得た用語)と呼んでいたが[21]、アーノルド・クリング(Arnold Kling)は2010年7月にモールドバグとその仲間の立場を説明するために「新反動主義者(The Neo-Reactionaries)」という用語を使用した[6][22]。アダム・リッジオ(Adam Riggio)によれば、新反動主義運動の萌芽は「LessWrong」のコミュニティページに見られた[23]。『Social Matter』は、新反動のための主要なオンライン出版物および思考機械である[24]

新反動主義者たちは記者のインタビューの要求をしばしば断り、合意の捏造者としてのジャーナリストが宿命の敵であると説明してきた。『The Atlantic』の政治部記者ロジー・グレイ(Rosie Gray)が新反動の指導者たちにインタビューしようとしたとき、ヤーヴィンは代わりに「ホワイトハウスにいる私のカットアウト/セルリーダーに直接話しかけたらどうか」と提案した。これは、ヤーヴィンがホワイトハウスの最高戦略責任者であるスティーヴ・バノンと関係があるという、大々的に報道されているが裏付けのない噂への皮肉な言及である。一方、ニック・B・スティーヴズ(Nick B. Steves)は記者に対して、「IQが115の人々は一般にIQが160の人々の考えていることを要約するのに十分な知性を備えられていない」ので、新反動について書くのは不適当である、と述べた[4]

新反動主義者の文章、特にヤーヴィン[25][26]とランドによるものは、冗長で密度が濃く、超然として「エッジが効いている[4]」ため、難解過ぎて自ら読者を遠ざけていると言われることがある[27][28]

ライアン・サマーズ(Ryan Summers)によれば、新反動主義者の用いるイメージには、戦車宇宙船ギリシャの神々、銃を持った兵士など、男性が抱く超男性的な観念が溢れている[24]

他の運動との関係

オルタナ右翼との関係

暗黒啓蒙は、オルタナ右翼の初期の潮流[8][29]、あるいはその中でも最も理論志向が強い一派だと考える者もいる[9]。特に、ニック・ランド的な思想を持つ哲学者のジェイソン・レザ・ジョルジャニは、「AltRight.com」を共同設立し、2016年には白人至上主義者のリチャード・B・スペンサーが主催した国家政策研究所の会議で講演を行っている[30]。一部の批評家はまた、暗黒啓蒙を「ネオファシスト[2][31]」または「ファシズム的地点への資本主義の加速」とラベル付けしているが、ファシズムは「大衆の反資本主義運動である」ため、この評価は不正確であるとランドは主張している[30]。ランドは次のように述べる[4]

新反動主義者は、(アメリカの)オルタナ右翼は非常に深刻であるとは考えていない。それは(アレクサンドル・ドゥーギン的)中核において、本質的に反英米的な哲学であり、その潜在力には確固たる上限が定められている。しかし、新反動主義者の分析によれば、大衆の時代は事実上終わっている。単純化されたポピュリスト運動は、過ぎゆくものの一部なのであって、ベツレヘムにゆっくりと向かい誕生するものではない。

ジャーナリストで評論家のジェームズ・カーチックは次のように述べている:「新反動主義的思想家は大衆を軽蔑し、ポピュリズムと人々をより一般的に軽蔑すると主張しているが、彼らと他のオルタナ右翼の共通点は、彼らの哀れなほど人種差別的な要素、共有された厭世主義、そして支配的エリートの不始末に対する憤りである[12]」。デュースターバーグ(Duesterberg)は次のように述べる。「原則として、オルタナ右翼は散在しており、匿名かつ曖昧である。興味深い比喩にならって言えば、彼らは「インターネットの暗い片隅」で蠢いている。それとは対照的に、新反動は一極集中しており、公然としている。すなわち、これが啓蒙された暗黒ということである[32]」。

批判

新反動への批判の一つとして、進歩主義の成果に対するその悲観的評価は、これまでに得られた多くの進歩を退けている、というものがある。そうした進歩の例としては、女性、人種的少数派、同性愛者がより大きな自由を得たこと、高齢者および失業者のための安全性の向上、貧困層による医療へのアクセスの向上、世界の貧困の大幅な減少[33]、大気質の改善、宗教的寛容と人種的統合の進展、犯罪率の低下、そして1945年以後の世界大戦の不在などが挙げられる。彼らはまた、人口の40パーセントが非白人からなるロンドンの文化と、EUにおける高水準の生活と大陸の平和に注意を向ける。別の批判者は、主権国家が持ちうる経済的な自立は、世界の製造業のパターンによって制限されるという点を指摘する[34]

暗黒啓蒙の悲観的評価は経済的データによって支持されていないと感じた一部の批評家は、灰色啓蒙(Grey Enlightenment)を形成した[35]

ライアン・T・サマーズ(Ryan T. Summers)はこう述べている。「ほとんどの場合、新反動主義者は他のオルタナ右翼ほどには反ユダヤ主義的見解を強調していない[24]」。

脚注

  1. Pein, Corey (2014年5月19日). “Mouthbreathing Machiavellis Dream of a Silicon Reich”. The Baffler. オリジナルの2015年2月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150209130630/http://thebaffler.com/blog/mouthbreathing-machiavellis
  2. Bartlett, Jamie (2014年1月20日). “Meet The Dark Enlightenment: sophisticated neo-fascism that's spreading fast on the net”. The Daily Telegraph. http://blogs.telegraph.co.uk/technology/jamiebartlett/100012093/meet-the-dark-enlightenment-sophisticated-neo-fascism-thats-spreading-fast-on-the-net/
  3. Steorts, Jason Lee (2017年6月5日). Against Mencius Moldbug's 'Neoreaction'”. National Review. 2019年1月14日閲覧。
  4. Gray, Rosie (2017年2月10日). “Behind the Internet's Anti-Democracy Movement”. https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/02/behind-the-internets-dark-anti-democracy-movement/516243/
  5. Walther, Matthew (2014年1月23日). The Dark Enlightenment Is Silly Not Scary”. The American Spectator. 2014年10月2日閲覧。
  6. Finley, Klint (2013年11月22日). Geeks for Monarchy: The Rise of the Neoreactionaries”. TechCrunch. 2019年1月14日閲覧。
  7. Pell, Nicholas James (2014年1月29日). Overreacting to Neoreaction”. Taki's Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  8. Goldhill, Olivia. “The neo-fascist philosophy that underpins both the alt-right and Silicon Valley technophiles”. Quartz. https://qz.com/1007144/the-neo-fascist-philosophy-that-underpins-both-the-alt-right-and-silicon-valley-technophiles/ 2018年5月27日閲覧。
  9. Matthews, Dylan (2016年8月25日). The alt-right is more than warmed-over white supremacy. It’s that, but way way weirder.”. Vox. 2019年1月14日閲覧。
  10. Sigl, Matt (2013年12月2日). The Dark Enlightenment: The Creepy Internet Movement You’d Better Take Seriously”. Vocativ. 2013年12月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月14日閲覧。
  11. MacDougald, Park (2016年6月14日). Why Peter Thiel Wants to Topple Gawker and Elect Donald Trump”. New York Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  12. Kirchick, James (2016年5月16日). Trump’s Terrifying Online Brigades”. Commentary Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  13. Land, Nick. The Dark Enlightenment”. 2019年1月14日閲覧。
  14. Hui, Yuk (2017年4月). On the Unhappy Consciousness of Neoreactionaries”. e-flux. 2019年1月14日閲覧。
  15. Goodman, Matthew Shen (2015年6月9日). Bears Will Never Steal Your Car”. Leap. 2019年1月14日閲覧。
  16. 高森郁哉. 世界初の「海に浮かぶ都市」、仏領ポリネシアが建設合意 Newsweek. (2017年1月23日, 18時05分) 2019年2月8日閲覧。
  17. Abbott, Benjamin (2013年6月5日). The Specter of Eugenics: IQ, White Supremacy, and Human Enhancement”. Ethical Technology. 2019年1月14日閲覧。
  18. O'Connell, Mark (2017年4月30日). The Techno-Libertarians Praying for Dystopia”. New York Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  19. Orwell, George (1943年12月24日). As I Please”. Tribune. 2019年1月14日閲覧。
  20. Phillips, Jon (Fall 2014). Troublesome Sources”. Southern Poverty Law Center. 2015年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月14日閲覧。
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  22. Kling, Arnold (2010年7月18日). The Neo-Reactionaries”. EconLog. Library of Economics and Liberty. 2015年6月21日閲覧。
  23. Riggio, Adam (2016年9月23日). The Violence of Pure Reason”. Social Epistemology Review & Reply Collective. 2019年1月14日閲覧。
  24. Summers, Ryan T. (2017). “The Rise of the Alt-Right Movement”. Media and Communication Studies Summer Fellows (11): 6. http://digitalcommons.ursinus.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1017&context=media_com_sum. "The ideology is also enthralled with hyper-masculine visions of men. In Post-Anathema, a Tumblr page, common images depict soldiers with guns, tanks, spacecraft, and Greek Gods."
  25. Johnson, Eliana (2017年2月7日). What Steve Bannon Wants You to Read”. Politico. 2019年1月14日閲覧。
  26. Beam, Alex (2015年6月18日). The right to be stupid”. Boston Globe. 2019年1月14日閲覧。
  27. Haider, Shuja (2017年3月28日). The Darkness at the End of the Tunnel: Artificial Intelligence and Neoreaction”. Viewpoint Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  28. Gray, Rosie (2015年12月27日). How 2015 Fueled The Rise Of The Freewheeling, White Nationalist Alt- Movement”. Buzzfeed. 2019年1月14日閲覧。
  29. Gray, Rosie (2015年12月28日). How 2015 Fueled The Rise Of The Freewheeling, White Nationalist Alt Right Movement”. BuzzFeed. 2016年8月9日閲覧。
  30. Goldhill, Olivia (2017年6月18日). The neo-fascist philosophy that underpins both the alt-right and Silicon Valley technophiles”. Quartz. 2019年1月14日閲覧。
  31. Sigl, Matt (2013年12月2日). The Dark Enlightenment: The Creepy Internet Movement You’d Better Take Seriously”. Vocativ. 2013年12月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月14日閲覧。
  32. Duesterberg, James (2017年). Final Fantasy”. The Point. 2019年1月14日閲覧。
  33. Brin, David (2013年11月30日). "Neo-Reactionaries" drop all pretense: End democracy and bring back lords!”. Institute for Ethics and Emerging Technologies. 2019年1月14日閲覧。
  34. Sullivan, Andrew (2017年4月30日). Why the reactionary right must be taken seriously”. New York Magazine. 2019年1月14日閲覧。
  35. Evans, Jon (2014年7月19日). Eigenmorality And The Dark Enlightenment”. TechCrunch. 2019年1月14日閲覧。

関連項目

外部リンク

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