クロス・ラミネーティッド・ティンバー

クロス・ラミネーティッド・ティンバー(英語:Cross laminated timber、略称:CLT、または直交集成板)とは、挽き板又は小角材の繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ又は接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し、3層以上の構造を持たせた一般材の事である[1][2]

トウヒ材から作られた3層CLT板

概要

CLTは、 繊維方向に揃えた(ラミナ)をクロスさせて重ね、接着剤で圧着した木質材料である。板を交互に合わせることで互いの層を抑え合うことから収縮が少なく、強度も高くなり、コンクリートに匹敵する。組み合わせにより、など幅広く使用できる。コンクリートのような現場での型枠作業などの工程が不要であり、くり抜きや裁断も自在であるため、応用度が高い。接合には金具が使われるが、シンプルであるため設計と施工両面での省力化が可能である。日本初のCLT構造の3階建てアパートは、鉄筋コンクリートなら通常1カ月弱はかかるところ、ほぼ丸1日で構造体が完成した[3]

従来の木造建物では、など線材により構造を支えていたが、CLTでは、壁や床などにこれを利用して「面」で構造を支える。また木材の繊維方向を交互に貼り合わせる工法による素材であるため、木材特有のねじれ、割れなどを防止できるほか、建築材としての強度も増している[3][1]

優位点

  • 柔軟性:CLTは、壁、屋根、天井と様々な用途に使用することができる。素材自体として、パネルの厚さは層を増やすことで簡単に増やすことができ、パネルの長さはパネルを接合することで増やすことができる。さらに、切断等の加工、接合も容易である。
  • 工期短縮:工場で製造することができ、養生等も不要なため、現場のリードタイムを減少させ、潜在的に全体的な建設コストを下げることが可能となる[1]
  • 断熱性:同じ厚さで比較すると コンクリートより断熱性が高い。厚さ9cmのCLTと厚さ120cmのコンクリートが同等性能とされる[1]
  • 軽量:建物の重量が軽くなり、基礎工事の簡素化ができる。同程度の曲げ強度を有する厚さ同士の比較で、コンクリートの半分以下の重量である[1]。軟弱地盤や狭い土地への建築にも向いている。
  • 持続可能性: CLTは木材から作られているため、再生可能で環境に優しい、持続可能な材料である。炭素隔離を促進することで、脱炭素社会の実現に貢献する[4][5]

課題

  • 高コスト:比較的新しい材料であるため生産量が少なく、高コストである。 2018年時点の日本国内では、総工事費でRC造よりも2.5割ほど高い調査結果が出ていた[6]農研機構を中心として、需要拡大や製造・流通コスト抑制による、コスト削減が図られている[7]
  • 少実績:CLTは比較的新しい材料であるため、使用例は多くない。林業促進と地域活性化、脱炭素社会の実現に大きく貢献できるため、日本政府は公共建築物からCLT利用を促進している。林野庁支援により実証的建築を積み重ね、施工ノウハウの蓄積を行い、普及に向けて動いている。ヨーロッパでは生産量が着実に増加しており、集合住宅やホテル、オフィスと用途は多岐にわたる[8]
  • 音響性能:許容できる音響性能を得るためには、より多くのCLTパネルが使用されなければならない。CLTハンドブックによると、2枚のCLTパネルにミネラルを挟むことで壁の遮音に関する国際建築基準を満たす[9]
  • 可燃性:木材のため、本質的に可燃性である。準耐火部材試験を経て、2016年(平成28年)3月31日CLT部材等の燃えしろ設計の告示が公布・施行された。これにより、原則3階建て以下の共同住宅や学校等について、現し(防火被覆なし)で建設が可能になった[8]

歴史

CLTは、1990年代初頭にドイツオーストリアで最初に開発され、使用された。オーストリア人研究者Gerhard Schickhoferは、1994年にCLTに関する論文を発表した。オーストリアはSchickhoferの広範な研究に基づいて、2002年に最初の全国CLTガイドラインを制定した。これらの国内ガイドライン「Holzmassivbauweise(無垢材の構造)」は、多層建築に木質材料を使用することへの受け入れに道筋をつけたと評価されている。Gerhard Schickhoferは、CLT分野での画期的な貢献により、2019年に"森のノーベル賞"であるマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞した[10][11]

2000年代に入ると、ヨーロッパではCLTが一戸建てや集合住宅など様々な建築物に使用されるようになった。無垢材の調達が難しくなるにつれ、CLTをはじめとする木質材料が市場に出回るようになった[9]

ヨーロッパでは法令などの見直しが進んでいる。かつては木造は2階建てまでしか認められなかった国が大半であったが、2020年にはヨーロッパのほぼ全土で、5階建て以上の木造建築が可能となる見通しである[12]ノルウェーのブルムンドダルにある2019年竣工の18階建て木造ビル「Mjøstårnet」は、CLTも用いられ、高さ85.4mの世界で最も高い木造建築物となった。

日本では2014年(平成26年)3月に「高知おおとよ製材社員寮」(木造3階建て)が初のCLT構造で竣工した[13]。2022年3月には11階建て高層純木造耐火建築「Port Plus」が横浜市に竣工[14][15]大林組が手掛けるこのビルは地上部の全構造部材に木材を採用しており、床や屋根、建物の東西面に設ける耐力壁にCLTが使用された。この建物は都市部における耐火建築物であり、柱や梁などの躯体には単板積層材(LVL)の耐火部材「オメガウッド」を使用し、石膏ボードによる耐火被覆が施されている[16]

規格

日本では国内林業推進政策の一環として2010年(平成22年)に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定され、その後脱炭素社会実現への一手として木造が注目を浴びる。同法律は2021年(令和3年)に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」と変更し、施行された[17]

2013年平成25年)12月20日、農林水産省は、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(昭和25年法律第175号 通称:JAS法)に基づき、「直交集成板の日本農林規格」を制定した[18]。その後、平成28年に改正されている[19]

建築事例

脚注

  1. CLT(直交集成板)とは(内閣官房)
  2. 直交集成板の日本農林規格JAS規格 制定:平成25年12月20日 農林水産省告示 第3079号)
  3. 日本の風景が変わる!CLTを使って木造高層ビルに挑め!”. Biglife21 (2015年5月13日). 2022年4月24日閲覧。
  4. 木造高層ビルに脚光 脱炭素、林業再生へ貢献”. 時事ドットコム. 2022年4月24日閲覧。
  5. 2050 年までの木材利用による CO2 削減効果シミュレーション. 森林総合研究所. 2022年4月24日閲覧
  6. CLT 実証事業の事例に関するコスト分析について”. (公財)日本住宅・木材技術センター. 2022年4月24日閲覧。
  7. CLTの製造コストを半減し、施工コストを 他工法並みにする技術開発”. 農研機構. 2022年4月24日閲覧。
  8. CLTをめぐる情勢 ~ 地方創生と林業の成長産業化に向けて ~”. 林野庁. 2022年4月24日閲覧。
  9. Erol Karacabeyli、Brad Douglas『CLT handbook : cross-laminated timber』FPInnovations、2013年。ISBN 9780864885548。
  10. TU Graz researcher Gerhard Schickhofer awarded prestigious Marcus Wallenberg Prize”. www.tugraz.at. 2022年4月23日閲覧。
  11. Green technology behind high rise wood-based buildings”. Mynewsdesk. 2022年4月23日閲覧。
  12. 読売オンライン - 日本のオフィス街に木造高層ビルが立ち並ぶ日は来るか?京都大教授 五十田博 2016年07月12日 15時00分
  13. 日本CLT協会.
  14. 着工は2020年
  15. 大林組「Port Plus」.
  16. 大林組の11階建て「純木造ビル」建設現場、ポイントはユニット化と雨対策”. 日経クロステック(xTECH). 2022年4月23日閲覧。
  17. 脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(改正前:公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律):林野庁”. www.rinya.maff.go.jp. 2022年4月23日閲覧。
  18. 直交集成板(CLT)の日本農林規格の制定について(農林水産省 プレスリリース)
  19. 林産物4品目の改正概要について (合板、集成材、単板積層材、直交集成板)(2016-06-29)

関連項目

外部リンク

*日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus®」(次世代型研修施設)が完成”.   大林組 (2022年5月20日). 2023年12月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月20日閲覧。
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