覇権主義

覇権主義(はけんしゅぎ、hegemonism)とは、影響力を拡大させるために一つの大国が軍事面・経済面・政治面で自国より弱い他の国々に介入し、その国の主権を侵害し続けること[1]

中国の抗日戦勝70周年式典(2015年)

通常では批判的な文脈で用いられることが多い[2]。古い時代の使用例も見られる[3]が、冷戦以降は超大国を形容する通例的な用語となり、主にアメリカソ連ロシア中華人民共和国への批判に使う[4]

概要

1972年の米中共同声明(上海コミュニケ)において、「中国は決して超大国にならず、あらゆる種類のパワーポリティクスヘゲモニーに反対する」との言い回しの言葉があった。この中国語は「中国决不做超级大国,并且反对任何霸权主义和强权政治。」で、「ヘゲモニー」と「覇権主義」を同じ概念に扱われた[5][6]

これ以後、中国の外交は『米ソ両超大国の覇権主義に反対』することを主軸の一つとするようになった。たとえば、1978年に締結された日中平和友好条約は第2条に『両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する』といういわゆる「反覇権主義条項」が盛り込まれている[注釈 1][4]

現行の中華人民共和国憲法(82年憲法)においても、前文で外交方針の基本として『独立自主の対外政策を堅持し(略)帝国主義、覇権主義及び植民地主義に反対することを堅持し』との文言を掲げている[7]

覇権主義とされる行動の例

張香山は1975年4月に次のようなソ連の行動を覇権主義とした[4]

  1. 外国に派兵し、侵略し、奴隷化している
  2. 世界に広く軍事基地をおき、他国の主権を侵害している
  3. 軍隊を派遣し、他国を侵略し、民族自決の闘いを弾圧している
  4. 海軍艦隊を拡張し、全世界の海をわがもの顔にしている
  5. 兵器を大量に販売し、世界最大の軍事商人である
  6. 核兵器を大量に開発し、核独占をはかり、他国を恐喝する道具としている
  7. 軍事予算を拡大し、軍備を拡張している
  8. 他国の内政に干渉し、他国政府の転覆をはかっている
  9. 周囲の領土を不法に占領し、返還しない(日本の北方領土、中国の珍宝島
  10. 従属国から搾取し、経済協力の名を借りて“第3世界”からも搾取している
  11. 他国の共産党に自分の政策に従うよう、強要している
  12. 帝国主義政策を推進するため、一連の理論をデッチあげている

日本共産党の綱領(2020年1月18日改訂)によると、次のような事項を批判する際に覇権主義の文言を用いている[8]

  1. (ソ連による)他民族への侵略と抑圧
  2. (アメリカによる)一国の利益を世界平和の利益と国際秩序の上に置き、国連をも無視して他国にたいする先制攻撃戦略をもち、それを実行する(軍事的覇権主義)
  3. (アメリカによる)経済の「グローバル化」を名目に世界の各国をアメリカ中心の経済秩序に組み込もうとする経済的覇権主義
  4. (中国やロシアを念頭に)いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流[9]

同様に、覇権主義に対峙する価値体系として、

  1. 国連憲章に規定された平和の国際秩序
  2. すべての国の経済主権の尊重および平等・公平を基礎とする民主的な国際経済秩序

を挙げている。

関連項目

脚注

注釈

  1. この条文が長年、日中平和条約交渉の対立の焦点となっていたが、ブレジンスキーの仲介および日本が要求した文言『この条約は、第三国との関係に関する各締約国の立場に影響を及ぼすものではない。』を盛り込むことで妥結した。益尾 知佐子「鄧小平の対外開放構想と国際関係――1978年、中越戦争への決断」(pdf)『アジア研究』第53巻第4号、2007年、9頁、doi:10.11479/asianstudies.53.4_12021年2月21日閲覧

出典

  1. “第25回党大会決議案の用語解説(下)”. しんぶん赤旗. (2009年12月3日). https://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-12-03/ftp20091203betu02_01_0.html 2021年2月16日閲覧。
  2. 高橋 正「1980年代の中ソ関係―その親和力と排斥力に基く予測―」(pdf)『ソ連・東欧学会年報』第12号、1983年、59頁、doi:10.5823/jarees1972.1983.442021年2月21日閲覧“「覇権主義」というのは社会科学用語というより,中国が発明した政治用語ないし政治スローガンであり,その起源は中国伝来の政治哲学ないし政治倫理である「王道」に対する「覇道」にある。「覇道」とは道理によらず,力によって支配することを意味し,そこから援用された「覇権主義」もまた国家間の政治倫理として批判さるべきであり,国際的に否定さるべきであるという含みを持っている。”
  3. 世界美術鑑賞: 解説篇』成武堂、1936年9月、212頁https://play.google.com/books/reader?id=bcJkJQvmT-EC&hl=ja&pg=GBS.PT1292021年1月29日閲覧。"秀吉の覇権主義は豪宕雅大な桃山美術を生み"。
  4. 国連がとめられなかったアメリカの覇権”. 月刊基礎知識 from 現代用語の基礎知識. 自由国民社 (2003年3月). 2021年1月29日閲覧。
  5. 中华人民共和国和美利坚合众国联合公报 (cn). 「世界和日本」数据库(代表 田中明彦) (1972年2月28日). 2021年1月29日閲覧。
  6. Joint Communique Between the People's Republic of China and the United States (英語). "The World and Japan" Database (Project Leader: TANAKA Akihiko) (1972年2月28日). 2021年1月29日閲覧。 “China will never be a superpower and it opposes hegemony and power politics of any kind.”
  7. s:中華人民共和国憲法#前文
  8. 日本共産党綱領”. 日本共産党中央委員会. 2021年2月16日閲覧。
  9. 共産が16年ぶり綱領改定へ 「覇権主義」批判、中国も念頭”. 日本経済新聞 (2019年11月5日). 2021年5月6日閲覧。 “名指しを避けながらも中国やロシアを念頭に「いくつかの大国で強まる大国主義・覇権主義は世界の平和と進歩への逆流」と批判した。志位和夫委員長は同総会を通じ、中国への批判色を強めた”
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