長くつ下のピッピ

長くつ下のピッピ』(ながくつしたのピッピ、原題:Pippi Långstrump)は、アストリッド・リンドグレーンによるスウェーデンの子ども向け小説である。1945年にラベン&シェーグレン社からイングリッド・ヴァン・ニイマンによるイラスト付きで出版された。40以上の言語に翻訳されている。

長くつ下のピッピ
著者アストリッド・リンドグレーン
原題Pippi Långstrump
イングリッド・ヴァン・ニイマン
スウェーデン
言語スウェーデン語
シリーズ長くつ下のピッピ
ジャンル児童文学
出版社ラベン&シェーグレン
出版日1945年11月
出版形式印刷
ISBN978-4001157314 (岩波書店、2018年)
OCLC2798770
LC分類PZ7.L6585 Pi (first U.S.)[1]
次作ピッピ 船にのる

続編として、『ピッピ 船に乗る』『ピッピ 南の島へ』の2つの小説と、その他に数冊の絵本と短編集(日本語へは未翻訳)がある。

最初の日本語訳版は1964年に大塚勇三・訳、桜井誠・絵で岩波書店によって出版された。

2002年、ノルウェー・ノーベル研究所は、54か国の100人の作家の投票に基づいて、「世界文学名作百選」の1つにこの小説を選んだ。

執筆と出版

リンドグレーンは元々は1941年に、7歳の娘のカリンが肺炎で家で休んでいる時にピッピの物語を語って聞かせた。リンドグレーンはその3年後、自身の怪我で休んでいる間に最初の原稿を書き上げた。ブンーイール社に持ち込んで断られた後、リンドグレーンはナンセンスな部分をさらに発展させ、まだ新しい出版社であるラベン&シェーグレン社主催の1945年に開催された児童書コンテストに応募した。

「ピッピ」は8月1日に終了したコンテストで優勝し、ラベン&シェーグレンはイラストをイングリッド・ヴァン・ニイマン(これが彼女のスウェーデンでのデビューだった)に依頼し、初版は11月に出版された。

日本語訳版

  • 1964年『長くつ下のピッピ』(リンドグレーン作品集)、大塚勇三(翻訳)、桜井誠(絵)、岩波書店、ISBN 978-4001150612
  • 1982年『長くつ下のピッピ』(少女名作シリーズ)、塩谷太郎(翻訳)、偕成社、ISBN 978-4035163602
  • 1988年『長くつ下のピッピ』(偕成社文庫)、下村隆一(翻訳)、偕成社、ISBN 978-4-03-550840-3
  • 1989年『長くつしたのピッピ』(こども世界名作童話)、木村由利子(翻訳)、上野紀子(絵)、ポプラ社、ISBN 978-4591033104
  • 1993年『長くつ下のピッピ』(講談社青い鳥文庫)、尾崎義(翻訳)、和地あつお(絵)、講談社、ISBN 978-4061473911
  • 1994年『長くつ下のピッピ』(子どものための世界文学の森)、須藤出穂(翻訳)、田中槙子(絵)、集英社、ISBN 978-4082740139
  • 2013年『長くつ下のピッピ』(角川つばさ文庫)、冨原眞弓(翻訳)、もけお(絵)、KADOKAWA、ISBN 978-4046313348
  • 2015年『長くつしたのピッピ』(ポプラ世界名作童話)、角野栄子(翻訳)、あだちなみ(絵)、ポプラ社、ISBN 978-4591147054
  • 2018年『長くつ下のピッピ』(リンドグレーン・コレクション)、菱木晃子(翻訳)、イングリッド・ヴァン・ニイマン(絵)、岩波書店、ISBN 978-4001157314

物語の荒筋

本書は主人公である長くつ下のピッピの経験に焦点を当てている。ピッピはお下げ髪赤毛そばかすだらけの顔、そして長靴下を穿いた9歳の女の子で、赤ん坊の頃に母親を亡くし、スクーナー船「ホッペトッサ号」の船長だった父エフライムは嵐で落水し行方不明になっていた。そのため、ピッピは父の言葉に従ってスウェーデンの小さな村の町外れの別荘ごたごた荘Villa Villekulla[2]と呼ばれる大きな家にペットのサルのニルソンさん、金貨がぎっしりつまったかばん、名前が付けられていないウマと共に移る。生まれ付きの怪力と数え切れないほどの奇妙な才能を持つピッピは、地元のセッテルグレーン家のアニカとトミーという2人のきょうだいと会ってすぐさま意気投合し、楽しい冒険の日々を送る。

生涯を海で過ごしたピッピは、トミーとアニカの学校に入学しようとしたり、サーカスに参加したり、セッテルグレーン夫人が主催するコーヒー・パーティーに参加したりと、一般的な礼儀や子供の頃の平均的な行動を知らないことが、物語にユーモアを与えている。

シリーズ

3つの長編が1945年から1948年に出版され、後年3つの短編が出版された。加えて、小説からの抜粋がイラストを付けられて、絵本として出版された。

長くつ下のピッピ
ピッピがセッテルグレーン一家の住む街にある自宅「ごたごた荘」(実写版では「つぎはぎ荘」)に、ペットチンパンジー「ニルソンさん」、飼っている馬と共に帰って来る。トミーやアニカと出会う。船を自宅に海育ち、その怪力ぶりとホラ吹きが得意な天衣無縫の自然児である故、いわゆる「お行儀のいい子」でないピッピに振り回される周囲。しかしサーカスを見に行って狼藉者を懲らしめたり、火事の高層アパートから逃げ遅れた子を助け出したりなどの活躍を見せ、根はいい子である事が周囲に理解されるようになる。
ピッピ 船に乗る
『長くつ下のピッピ』から数々のエピソードが続く。ある日、指揮していたスクーナー船『ホッペトッサ号』から嵐のため落水、消息不明になっていた父・エフライム船長が五体満足の姿で現れる。ある南方の島に流れ着き、島民の族長を務めていたが、帰国の為にヨットで出航したところ、偶然にホッペトッサ号と出逢って帰って来られたのだという。ピッピとの別れを予感し悲しみに胸が塞ぐトミーとアニカ。しかし船が出ようとしたその時、「自分の為に悲しむ人がいるのは耐えられない」とピッピは父との同行を撤回し町に残る事を表明。何もかもがいつも通りになる。
ピッピ 南の島へ
冬、はしかを患い2週間寝込んで衰弱したトミーとアニカ。ピッピは2人の転地療養をセッテルグレーン夫妻に申し出、認められる。行き先はエフライム船長が族長を務める南の島。寄航した船長の船に乗り、一か月の予定で大旅行。クリスマスを過ぎた1月始めに帰国する。

翻案

テレビ

1969年のテレビシリーズで「ピッピの家」として使われた「Villa Villekulla」。スウェーデンゴットランド

1961年版

アメリカの子供番組『シャーリー・テンプルのお話本』の中で放映。

1966年版

日本NHKで、1月1日から3日にかけて全3回放送された。舞台上演を想定せず撮り下ろされた人形劇。NHKにはテープは一話も保存されていなかったが、2018年に人形操作を担当した大阪の人形劇団「クラルテ」から全3話のフィルム(テロップ無し)と音声テープ2本が提供された[3]。フィルムの保存状態は良好だったが、音声テープは一本が劣化のため再生できず、残る一本(第二話)のみ再生できた。

1969年版

スウェーデンで放映されたテレビシリーズ。全13回。制作はスウェーデンと西ドイツの共同制作。監督はオル・ヘルボム、ピッピ役はインゲル・ニルッセン。西ドイツでは本作を再編集した映画版(全2本、後述)も作られ、テレビシリーズの放映以前にこちらが劇場公開された。この映画版は多くの国で公開され、非常に好評で大ヒットした。このため、実写版と言えばインゲル・ニルッセン版を指すことが多い。映画版はこの好評を受け、さらに続編も作られた(全2本)。また、西ドイツではこの2本の映画を再編集した物もテレビで続けて放送された(このためドイツ版は全21回)アメリカでは翌年に渡り、4篇に再編集されて放映された。日本ではNHKの少年ドラマシリーズで、1975年9月に放送された(日本語吹き替え版、ピッピ役の吹き替えはキャロライン洋子。主題歌も日本語で彼女が歌っている)。何故か全12回。ドイツ版の後半に当たる部分も、続編として、「長くつ下のピッピ~冒険旅行~」・「長くつ下のピッピ~海賊退治~」(1976年6月)のタイトルで放送された(全4回、全4回)。このテレビ版の日本語版は、NHKには現存しておらず基本的には、観ることは出来ない。

1982年版

Пеппи Длинныйчулок(Peppi Dlinnyychulok)』

ソ連で制作されたテレビシリーズ。

1985年版

『長くつ下のピッピ』

アメリカの子供番組枠『ABC週末スペシャル』で放映。30分。

1997年

カナダのアニメ制作会社「ネルバナ」によるテレビアニメシリーズ。アメリカ、カナダで放映された。

2001年版

スウェーデン制作のテレビシリーズ。

1949年版

スウェーデン制作、ペル・グンバル監督。

1969年版

公開順は国により異なる。全作、日本でも劇場公開されたが、日本では、「長くつ下のピッピ」、「続・長くつ下のピッピ」、「ピッピの新しい冒険」、「ピッピ船にのる」の順で公開された。全作、DVD化(日本語吹き替え版。ピッピ役の吹き替えはテレビ版とは異なり岸田今日子。「ピッピの宝島」のみテレビ版と同じキャロライン洋子)されているが、ややこしいことにタイトルが劇場公開時と一部異なる。このため、一部混乱が生じており、紹介記事やサイトではしばしば両者を混同して全5作などと書かれていることがあるが、上記のようにタイトルに異同があるだけで全4作が正しい。

1988年版

日本版題:『長くつ下ピッピの冒険物語』

イギリスアメリカ合衆国の共同制作。

  • スタッフ
    • 監督・脚本:ケン・アナキン
    • 製作:ゲイリー・メールマンウォルター・モシュイ
    • 製作総指揮:ミシャール・アダム
    • 音楽:ミシャ・シーガル
  • キャスト
役名俳優日本語吹き替え
ピッピタミー・エリン岡本麻弥
トミー・セティグレンデヴィッド・シーマン田中真弓
アニカ・セティグレンコーリー・クロウ高田由美
セティグレン氏デニス・デューガン堀勝之祐
セティグレン夫人ダイアン・ハル一城みゆ希
バニスターアイリーン・ブレナン京田尚子
ブラックハートジョージ・ディセンゾ村松康雄
グレッグディック・ヴァン・パタン緒方賢一
ジェイククラーク・ニーダージョン納谷六朗
エフライム船長ジョン・シャック筈見純

1997年版

カナダのアニメ映画。ネルバナ制作。

  • スタッフ
    • 監督:クライヴ・スミス
    • 脚本:フランク・ニッセンケン・ソボル
    • キャラクターデザイン:フランク・ニッセン
    • 日本語版監督:斯波重治
    • 日本語歌詞 : 許瑛子
  • キャスト
役名俳優日本語吹き替え
ピッピエリン・ラーソン笹本優子
トミー・セティグレンマックス・ヴァレル永田亮子
アニカ・セティグレンヤスミン・ヘイクラ武藤寿美
ブリップ夫人此島愛子
エイブラハム船長ボルゲ・アールステット辻親八
センダーカールソン緒方賢一
ブルーム千葉繁
セッターグレン氏二又一成
セッターグレン夫人冬馬由美
先生高乃麗
クリン&クラン亀山助清
クリン&クラン夫人かないみか
フリードフ中嶋聡彦
船員乃村健次関口英司

ミュージカル

テレビアニメ(企画のみ)

1971年に日本の東京ムービーがアニメ化を企画、Aプロダクションが実制作部隊となり、この企画のために東映動画から移籍した高畑勲宮崎駿小田部羊一が制作作業を進めた[4]。東京ムービー社長の藤岡豊が直接スウェーデンに赴いて許諾交渉をしたが、リンドグレーンとは面会できず、企画は頓挫した(このとき、ロケハンの目的で宮崎駿が同行している)[5]。高畑らが本作のために作った制作資料はのちに彼らが手がけた『パンダコパンダ』に活用された[6]

アタックNo.1』の後番組として予定されていた本番組が頓挫して穴が開いたフジテレビの日曜19:00 - 19:30の大塚製薬提供枠は、同枠を担当していた旭通信社が、代替として円谷プロダクションにより企画されていた特撮番組『ミラーマン』を売り込んで穴埋めさせた[7]

1980年代になり、『アニメージュ』の編集者だった鈴木敏夫は、3人が本作のために用意した制作資料の書籍化を企画したが、やはりリンドグレーンは許可しなかった[8]。書籍化を断念した鈴木は1985年に資料の一部を『アニメージュ』に掲載した[8]。その後スタジオジブリのプロデューサーとなった鈴木は、『ピッピ』の映画化の相談を宮崎と何度もおこなったが、結局実現しなかった[8]

時代が下って宮崎駿が世界的名声を得た後、リンドグレーンの著作権継承者がスタジオジブリに『ピッピ』のアニメ化のオファーを入れたが、宮崎は「遅すぎる」「時機を逸してしまった。もう作れない」と断ったという[8]。ただ、『山賊のむすめローニャ』には未練があり、鈴木敏夫はこれを駿の息子の宮崎吾朗に薦め、2014年に(別スタジオの制作ではあるが)テレビアニメ化された[8]。このアニメ化の際に来日したリンドグレーンの関係者(孫など。彼らは宮崎アニメのファンだった)がスタジオジブリを訪れ、その席で制作資料の書籍化に賛同し、2014年に『幻の「長くつ下のピッピ」』として岩波書店より刊行された[8]

脚注

  1. "Pippi Longstocking". LC Online Catalog. Library of Congress (lccn.loc.gov). Retrieved 2016-02-13.
  2. 訳によっては「きまぐれ荘」などとも、尾崎義訳では「ビッレクッラ」。
  3. 昭和41年人形劇『長くつ下のピッピ』を発掘!、NHK番組発掘プロジェクト、2018年6月1日、同年12月20日閲覧
  4. 高畑勲・宮崎駿・小田部羊一「本書について」『幻の「長くつ下のピッピ」』岩波書店、2014年、2頁。ISBN 978-4000248198。
  5. 高畑勲・宮崎駿・小田部羊一『幻の「長くつ下のピッピ」』岩波書店、2014年、65–68頁。ISBN 978-4000248198。"宮崎駿「『魔女の宅急便』のコリコの町は、『ピッピ』のロケハンで訪ねたヴィズビーが参考になっています。」"。
  6. 高畑勲・宮崎駿・小田部羊一『幻の「長くつ下のピッピ」』岩波書店、2014年、144頁。ISBN 978-4000248198。"高畑勲「子どもの心を解放するアニメーションを作るために、僕らは一生懸命考えました。」"。
  7. 白石雅彦 編著『ミラーマン大全』、円谷プロダクション監修、双葉社、2004年2月。p.24 -25。
  8. 高畑勲・宮崎駿・小田部羊一「鈴木敏夫「本書の企画者より 30年越しの胸のつかえ」」『幻の「長くつ下のピッピ」』岩波書店、2014年、147–149頁。ISBN 978-4000248198。

外部リンク

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