CALIDOT

CALIDOT(カリドット)は、シーメンスカリフォルニア州イリノイ州などアメリカ各地でアムトラックが運営する鉄道路線へ向けて製造する客車の愛称。2020年から2023年にかけての登場を予定している[1][3]

"CALIDOT"
基本情報
運用者 アムトラック
製造所 シーメンス
製造年 2019年 - 2023年
製造数 137両(予定)
運用開始 2020年(予定)
主要諸元
軌間 1,435 mm
最高速度 201 km/h(125 mph)
備考 主要数値は[1][2][3]に基づく。

この項目では、"CALIDOT"以前に日本車輌製造住友商事と共に受注を獲得しながらも様々な要因が重なり製造を断念した2階建て客車についても解説する。この大型案件の失敗は、日本車輌製造の決算の最終赤字やアメリカ合衆国の工場閉鎖にも繋がった[4][5][6]

日本車輌製造製2階建て客車(未成)

受注までの経緯

サンフランシスコロサンゼルスなどカリフォルニア州アムトラックが運営する都市間列車ブランドであるアムトラック・カリフォルニア(Amtrak California)の名を冠する列車には、1996年から営業運転を開始したカリフォルニア・カー2000年から導入されたサーフライナーなど、2階建て客車が主力として活躍している[7][8]2006年以降、これらの列車への財政援助を行っているカリフォルニア州交通局(カルトランス、Caltrans)と共に、アムトラックは第3世代となる新たな2階建て客車の検討を始めた。2008年に採択された旅客鉄道投資・改善法(Passenger Rail Investment and Improvement Act of 2008、PRIIA)に基づき調達コスト低減を目的とした仕様の標準化を図ったこの車両は、カリフォルニア州のみならずシカゴを中心としたイリノイ州の列車への財政援助を行うイリノイ州交通局(IDOT)管内の列車にも導入される予定であった[4][9]

そして、各州の代表であるカルトランスによって2012年4月に新型2階建て客車への入札が実施され、アルストムCAF川崎重工業シーメンス、そして住友商事と共に参加した日本車輌製造の5社からの選考の結果、同年11月に日本車輌製造・住友商事の連合が2階建て客車130両の発注およびオプション300両の追加発注権を受領した。これはアメリカ政府が打ち出した鉄道路線の高速化・信頼性向上による景気刺激策として初めて実施された鉄道車両調達案件であり、契約金額は12億5,000万ドル[注釈 1]という大型案件であった[10][4]

仕様

従来の2階建て客車よりも高速で運行可能な準高速車両として運用することを視野に置いており、最高速度は201 km/h(125 mph)を想定していた。編成は4 - 10両を基本とし、最大24両編成まで組成可能な設計となっていた。製造に際しては2009年アメリカ復興・再投資法(ARRA)による資金供給が実施されており、全部品をアメリカ国内で生産されたものとする"バイ・アメリカン条項"(100% Buy America)の対象となっていた。また、2階建ての車体は米国運輸省管掌米国規則(CFR49)238条に基づいた強度が求められていた[6][4][11][12][13]

車種は通常の客車に加え、手荷物室・運転室が設置された制御客車カフェ・ラウンジカーの3種類が構想されており、アムトラックからは以下の仕様が提示されていた。全車とも障害を持つアメリカ人法(ADA)に基づいたバリアフリー設備を有し、1階部分には車椅子に対応したトイレが設置される予定だった。全130両のうち42両はカリフォルニア州(カルトランス)、88両はアメリカ中西部(IDOT)向けへの製造が計画されていた[14]

車種[14] 客車 制御客車 カフェ・ラウンジカー
軌間[15] 1,435mm
全長[15] 25,908mm(85ft)
全幅[15] 3,200mm(10ft 6in)
全高[15] 4,928mm(16ft 2in)
床面高さ[15] 1階部分 457mm(18in)
2階部分 2,654.3mm(104.5in)
台車間距離[15] 18,136mm (59ft 6in)
重量[15] 68.1t(150,000lbs) 69.9t(154,000lbs) 69.5t(153,000lbs)
定員[16] 89人
車椅子スペース1箇所
74人
車椅子スペース1箇所
カフェ
座席33人分
車椅子スペース1箇所
ラウンジ
座席21人分
制動装置[17] 空気ブレーキディスクブレーキ、手ブレーキ

製造断念への経緯

2階建て客車の受注獲得に先立つ2012年7月に、日本車輌製造はイリノイ州ロシェル市に新工場を建設し、資材調達から最終試験まで全てを現地で行う事業体制を整えていた。更にこの大型案件に際して2014年7月に工場を拡張し、多数の従業員を採用した上で2015年以降の製造開始に備えた[4][18]。だが、新規の従業員への技術の習熟が想定よりも遅れた事で製造現場に混乱が生じた結果納期が遅れ、2014年度の日本車輌製造の業績が7年ぶりの最終赤字に転落する要因となった[5]

翌2015年度には日本人社員を多数派遣することで習熟度の向上が図られたが、同年8月に製造された試作構体が連邦政府によって定められた安全基準や強度を満たしていない事が判明した。これを解決するためには指摘された箇所に加え車体構造全体を再設計しなければならず、原価高も重なり2016年10月の時点で損失は104億円にも膨れ上がった。更に部品調達先としていた台車メーカーが倒産する事態が起き、同年9月を期限としていたARRAによる資金の使用期限や連邦政府が指定していた2018年までの車両納入に向けた案件の遂行が困難になった旨を各事業者に報告した事を、2017年1月27日に発表された2016年度第3四半期決算で公開するにまで至った[5][6][19]

そして2017年11月6日、住友商事はこのプロジェクトに関して、車両の製造メーカーを日本車輌製造からシーメンスに変更するという契約内容の改訂を発表した。これに伴い、車両製造を断念した日本車輌製造は住友商事に対し3億2,894万2千ドル(約372億円)の解決金を支払った[注釈 2][20]。イリノイ州の工場についても2017年に製造した車両は14両に過ぎず同年10月以降は生産実績が無かった事から、翌2018年8月をもって閉鎖され、日本車輌製造はアメリカにおける鉄道車両製造から撤退した[注釈 3][21]

CALIDOT

概要

2017年11月3日に実施された前述の契約内容改訂に基づき、シーメンスが製造を手掛ける事になった客車。シーメンスが世界各地に展開する客車ブランドであるヴィアージョのうち、フロリダ州で運行するブライトラインに導入されたヴィアージョ・コンフォート・USAを基に設計が行われ、開発の迅速さやバリアフリー対策も考慮した結果、2階建て車両ではなく1階建て車両として導入される事となった[22][23][24]

カリフォルニア州(カルトランス)向けに49両、イリノイ州(IDOT)向けに88両、合計137両が製造される予定となっており、編成は後述する各形式によって構成される。そのうちカルトランス向けの車両は7両編成を組む事が計画されており、先頭および後部車両となる7両目はディーゼル機関車の"チャージャー"と同型の運転台が設置された制御車である[2]

製造はカリフォルニア州サクラメントにあるシーメンスの工場で実施され、車両の部品も全てアメリカ国内企業のものを使用する事でバイ・アメリカン条項を満たす仕様となっている。2019年 - 2020年の冬季に試験運転を終えた後、同年から営業運転を開始し、2023年までに全車両を投入する計画となっている[25][26][27]

形式

2019年の時点で、CALIDOTは以下の形式によって構成される事が計画されている[2]

導入先 形式 両数 乗降扉(両側) 詳細
カルトランス CT-1A 14両 1箇所 中間客車
CT-1B 7両 1箇所 機関車と連結
CT-1C 7両 2箇所 中間客車
乗降扉に車椅子リフトを設置
CT-1D 7両 2箇所 中間客車
CT-4A 7両 1箇所 制御車
CT-5A 7両 2箇所 カフェカー
IDOT ID-1A 20両 1箇所 中間客車
ID-1B 34両 1箇所 ビジネスカー+カフェカーによる2両固定編成(17本)
ID-3A 17両 2箇所 ビジネスクラス・エコノミークラス合造車
ID-5A 17両 2箇所 ラウンジカー

脚注

注釈

  1. 130両発注分が3億5,200万ドル、オプション300両発注分は8億9,800万ドル。
  2. 解決金のうち350億円分は親会社であるJR東海からの借用金で賄った。
  3. 既存の日本車輌製造製車両のメンテナンスについては、引き続き現地の子会社によって実施される。

出典

  1. Momoko Takatoki & Ray Ginnell 2019, p. 1.
  2. Momoko Takatoki & Ray Ginnell 2019, p. 8.
  3. San Joaquin Joint Powers Authority 2019, p. 23-24.
  4. 米国 準高速鉄道用2階建客車130両の発注内示を受領 ~カリフォルニア州および中西部交通局向け~”. 住友商事 (2012年11月7日). 2019年12月12日閲覧。
  5. 大坂直樹 (2015年11月26日). あの新幹線メーカーが大赤字に陥った事情”. 東洋経済. 2019年12月12日閲覧。
  6. 大坂直樹 (2017年3月6日). あの新幹線メーカーが米国市場で陥った窮地”. 東洋経済. 2019年12月12日閲覧。
  7. Stanton C. Hunter & Robert C. Highfill 2013, p. 582-583.
  8. Amtrak 2012, p. 30.
  9. 米国 イリノイ州ロシェル工場第3工場の操業開始”. 日本車輌製造 (2014年7月30日). 2019年12月12日閲覧。
  10. Stanton C. Hunter & Robert C. Highfill 2013, p. 588.
  11. Amtrak 2012, p. 36.
  12. 49 CFR Part 238 - PASSENGER EQUIPMENT SAFETY STANDARDS”. Cornell Law School. 2019年12月12日閲覧。
  13. 危険品船積み時のお願い”. ONEジャパン. 2019年12月12日閲覧。
  14. Amtrak 2012, p. 32.
  15. Amtrak 2012, p. 35.
  16. Amtrak 2012, p. 34.
  17. Amtrak 2012, p. 37.
  18. Brian Leaf (2012年9月27日). Rochelle's Nippon Sharyo train car plant lands $352 mil contract”. Rockford Register Star. 2019年12月12日閲覧。
  19. 藤沢文太 (2017年11月8日). 日本車両、米国で受注した車両の開発を断念 解決金372億円支払いへ”. 財経新聞. 2019年12月12日閲覧。
  20. 草町義和 (2017年11月6日). 日本車両からシーメンスに…住友商事、米国向け鉄道車両の発注先を変更”. レスポンス(Response.jp). 2019年12月12日閲覧。
  21. 子会社の米国工場における生産終了に関するお知らせ』(プレスリリース)日本車輌製造、2018年7月24日https://www.n-sharyo.co.jp/finance/irinfo20180724.pdf2019年12月12日閲覧
  22. Momoko Takatoki & Ray Ginnell 2019, p. 2.
  23. San Joaquin Joint Powers Authority 2019, p. 24.
  24. First Brightline Charger completes initial tests”. https://www.mainlinediesels.net/. 2019年12月12日閲覧。
  25. Momoko Takatoki & Ray Ginnell 2019, p. 7.
  26. Meeting Siemens Shortened Delivery Schedule for CALIDOT Intercity Rail Cars”. Device technologies inc. (2019年8月8日). 2019年12月12日閲覧。
  27. Caltrans replaces Nippon Sharyo with Siemens in rail-car contract”. Progressive Railroading (2017年11月10日). 2019年12月12日閲覧。

参考資料

  • Momoko Takatoki; Ray Ginnell (2019年2月). Caltrans/ IDOT New Single-Level Passenger Railcars “CALIDOT” (PDF) (Report). Sumitomo Corporation of Americas, Siemens Mobility. 2019年11月24日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2019年12月12日閲覧
  • Amtrak (2012年9月20日). "Specification for PRIIA Bi-Level Passenger Rail Car" (PDF). 2019年12月12日閲覧
  • San Joaquin Joint Powers Authority (2019年). "San Joaquin Joint Powers Authority Draft 2019 Business Plan Update" (PDF). 2019年12月12日閲覧
  • Stanton C. Hunter; Robert C. Highfill (2013年). Implementation of the Nation's First Standardized Intercity Rail Car Specification (PDF). AREMA 2013 Annual Conference. American Railway Engineering and Maintenance-of-Way Association. pp. 579–599. 2019年12月12日閲覧
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