ZTF彗星 (C/2022 E3)

C/2022 E3 (ZTF) は、Zwicky Transient Facility (ZTF) サーベイによって2022年3月2日に発見された、オールトの雲から飛来してきたと考えられている長周期彗星である。日本国内では、ズィーティーエフ彗星とも表記されている[7][8]。本項では以下、特記しない限り「ZTF彗星」と表記する。

ZTF(ズィーティーエフ)彗星
C/2022 E3 (ZTF)
2023年1月27日に撮影されたZTF彗星(提供: Edu INAF)
2023年1月27日に撮影されたZTF彗星
(提供: Edu INAF)
分類 長周期彗星
発見
発見日 2022年3月2日[1][2]
発見者 Zwicky Transient Facility[2]
発見場所 パロマー天文台
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
軌道要素と性質
元期:TDB 2,456,004.5(2023年3月1.0日[3]
注釈: 特記が無い軌道要素はこの元期に従い、特記している元期の月日は全てその年の1月1.0日となっている。
軌道の種類 楕円軌道(近日点通過前)[注 1]
双曲線軌道(現在)
軌道長半径 (a) 約 5,114 au(元期1950年)[4]
近日点距離 (q) 1.112 au[3]
遠日点距離 (Q) N/A[3]
離心率 (e) 0.999781(元期1950年)[4]
1.000581(元期2050年)[4]
1.000584(元期2495年、日心基準)[5]
公転周期 (P) 約 51,500 (元期1950年)[4][注 2]
非周期へ変化(近日点通過後)[4][注 3]
軌道傾斜角 (i) 109.173°[3]
近日点引数 (ω) 145.823°[3]
昇交点黄経 (Ω) 302.554°[3]
平均近点角 (M) 35.949°(元期1950年)[4]
前回近日点通過 TDB 2,459,957.294[3]
2023年1月12日
最小交差距離 0.221 au(地球軌道に対して)[3]
物理的性質
自転周期 8.7 ± 0.1 時間[6]
絶対等級 (H) 10.5 ± 0.6(彗星全体)[3]
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の大きさは 1 km 程度で[9]、約8.7時間かけて自転しているとみられている[6]太陽光による二原子炭素ジシアンへの影響で、を中心に緑色に輝く彗星として特筆されている[10]

ZTF彗星は、2023年1月12日太陽から約 1.11 au(約1億6600万 km)離れた近日点を通過し、同年2月1日に地球から約 0.28 au(約4200万 km)にまで接近した[3]。2023年1月下旬の時点での見かけの明るさは6等級を超え、十分に暗い夜空においては肉眼で小さくぼんやりとした霧のように観測されるようになり、双眼鏡などの観測機器があればほとんどの観測者が視認できるほどにまで明るくなった[11][12][13][14]

観測

発見

ZTF彗星は、アメリカカリフォルニア州にあるパロマー天文台にて行われている観測サーベイ Zwicky Transient Facility (ZTF) による観測で2022年3月2日に発見された[1][2]。同年3月21日小惑星センターが運営する小惑星電子回報 (Minor Planet electronoc Circular, MPEC) に発見報告が掲載され、C/2022 E3 (ZTF) と正式に命名された[1]。発見時、彗星は太陽から約 4.3 au(約6億4000万 km)離れたところに位置しており、見かけの明るさは17.3等級であった[1][15]

発見当初は小惑星であると識別されたが、その後の観測によって周囲に非常に凝縮されたコマが存在しており、彗星にみられる活動を起こしていることが明らかになった。発見の翌日に日本アマチュア天文家である佐藤英貴がニューメキシコ州にあるRAS天文台によって撮影されていた画像から分析した結果、そのコマの幅は8秒角(ただし尾は観測されず)であったと報告し、一方で同じくアマチュア天文家の吉本勝己は、コマの幅は15秒角で、さらに25秒角の小さな尾が確認されたと報告している[1][15][16]

その後の天文学者らによる過去のアーカイブ画像の分析から、ハワイ島ハレアカラ山にあるPan-STARRS 1望遠鏡によって2021年7月10日に撮影されていた画像に映っていたのがZTF彗星の最も古い観測記録であると判明している。このころの見かけの明るさは、約23等級であった。また、同年10月と11月にもZTFサーベイによって観測されていたが、このときは発見には至らなかった[17]

太陽と地球への接近

2022年11月初旬までにZTF彗星は10等級まで明るくなり、地球に対して平行に移動するにつれて、かんむり座へび座の領域をゆっくりと移動していた[18]。 この頃にはZTF彗星は緑色のコマと黄色がかったダストテイル(塵の尾)と微かなイオンテイル(イオンの尾)が観測された。また、この頃には彗星は夕方に見え始め、11月末までに明け方の空にも見え始めた[19]12月19日までには、ZTF彗星の緑がかったコマはさらに発達し、ダストテイルも幅広くなり、イオンテイルも2.5の広い範囲に渡って伸びるようになった[20]。 その後、地球から見た彗星の位置は北上していき、うしかい座りゅう座、そしてこぐま座を通り、北極星であるポラリスから約10度以内の範囲を通過した[19]

ZTF彗星は、2023年1月12日に太陽から約 1.11 au 離れた(約1億6600万 km)離れた近日点に達し、同年2月1日に地球から約 0.28 au(約4200万 km)にまで最接近した[3]。近日点を通過しているため、彗星活動は若干弱まっているが、これ以降に地球に対して接近していくため、地球から見た見かけの明るさは明るくなっており[21]、この頃には見かけの明るさは5等級前後にまで明るくなり[2][21][22]、このときの地球から見た彗星の大きさは約20程度で[11]、十分に暗い夜空の下であれば肉眼でも靄状のぼやけた雲のような天体として観測できるようになる[23][24]。最初の肉眼での観測報告は同年1月16日17日に報告され、推定される見かけの明るさはそれぞれ5.4等級と6.0等級であった[25]。また17日には、太陽で発生したコロナ質量放出によって生じた強い太陽風によりZTF彗星のイオンテイルが切断され、形状が崩壊したような様子が見られた[26]1月22日には、アンチテイルが観測されるようになった。この尾は地球から見ると太陽がある方向を向いており、ダストテイルとイオンテイルの反対側に伸びているように見える。これは彗星の軌道面の円盤上にある粒子によって引き起こされており、彗星が地球の軌道面と整列すると、あたかも太陽の方向へ伸びているかのように見える尾である[27][28]

地球への最接近時にはZTF彗星は北半球からの観測条件が良い天の北極付近で観測され[29]きりん座の領域内に位置していた[30]2月10日から11日にかけて火星から1.5度のところを通過し、2月13日から15日にかけて、ヒアデス星団の前を通過する[19]

2023年1月14日から2月16日までの天球上におけるZTF彗星の位置

彗星の色

ZTF彗星はコマを中心に緑がかった色合いをしているが、これは周囲に存在している二原子炭素によるものであると考えられている[10][31]炭素分子 (C2) は、太陽からの紫外線放射により励起状態になると主に赤外線を放射するが、その三重項状態波長が 518 nm のときに放射される。炭素分子は彗星核から蒸発した有機物光分解によって生成される。このときに彗星の先頭部に緑色の光が現れるようになるが、約2日間が経過すると光解離を起こしてしまうため、尾には出現しない[16][32][33]。二原子炭素の放出により、ガスの含有量の多い彗星が緑色に見えること自体は珍しい現象ではないが、地球へ接近する彗星は珍しいため、ZTF彗星はその緑色に輝く特徴がよく特筆されている[16]

軌道

ZTF彗星が2023年に近日点を通過した後にどのような軌道を描くかは軌道要素の条件により変わってくる。JPL Horizonsによる太陽系の重心 (Barycentric) を基準座標系とした元期1950年1月1日軌道要素では、ZTF彗星は太陽と木星重力に束縛されていた(軌道離心率が1未満の太陽周回軌道にある)ことが分かるが、近日点通過後の2050年1月1日を元期とすると、軌道離心率がわずかに1を超える放物線に近い双曲線軌道に変化することがわかる[4]。また、太陽の質量のみを考慮し、太陽の中心を基準座標系とした元期2495年1月1日の軌道要素を算出しても、放物線に近い双曲線軌道となっており、近日点を通過してから十分な時間が経過した後は完全に太陽の重力に束縛されていない状態になることがわかる[5]。双曲線軌道の場合では軌道が閉じていないことになるので、ZTF彗星は太陽に接近した後は太陽系から完全に離脱して二度と戻ってこない可能性がある[21][31]

画像

脚注

注釈

  1. 2023年3月1.0日を元期としている JPL Small-Body Database に掲載されている軌道要素では軌道離心率が1をわずかに上回っており、太陽の重力に束縛されていない双曲線軌道であることを示している[3]。しかし、太陽との相対速度を二体問題で表してさらに長期的に見た軌道要素を JPL Horizons On-Line Ephemeris System を用いて算出すると、近日点を通過する前は軌道離心率が1を下回っているため、このときはまだ太陽の重力に束縛されていた楕円軌道であったことがわかる[4]
  2. 1.8816E+09 / 365.25 日 ≒ 51,500 年
  3. JPL Horizons On-Line Ephemeris System による計算では、元期2050年では公転周期が「9.999...E+99」となっており、これは公転周期が無限大となり定義できないことを示している。

出典

  1. MPEC 2022-F13 : COMET C/2022 E3 (ZTF)”. Minor Planet Electronic Circular. Minor Planet Center (2022年3月21日). 2023年1月29日閲覧。
  2. 吉田誠一 (2023年1月29日). ZTF彗星 C/2022 E3 ( ZTF )”. aerith.net. 2023年1月29日閲覧。
  3. JPL Small-Body Database Browser: C/2022 E3 (ZTF)”. JPL Small-Body Database. Jet Propulsion Laboratory (2023-02-09 last obs.). 2023年2月14日閲覧。
  4. Barycentric Osculating Orbital Elements for Comet C/2022 E3 (ZTF)”. JPL Horizons On-Line Ephemeris System. Jet Propulsion Laboratory. 2023年2月14日閲覧。 太陽系重心 (Barycenter) を用いて解を算出。「Elements and Center: @0」に設定。
  5. Heliocentric Osculating Orbital Elements for Comet C/2022 E3 (ZTF) still near 1.0 and chaotic in epoch 2495+”. JPL Horizons On-Line Ephemeris System. Jet Propulsion Laboratory. 2023年2月14日閲覧。
  6. ATel #15879: Rotation period of comet C/2022 E3 ZTF from CN morphology”. The Astronomer's Telegram (2023年1月30日). 2023年2月6日閲覧。
  7. 【特集】ズィーティーエフ彗星(C/2022 E3)”. AstroArts (2023年). 2023年1月29日閲覧。
  8. “二度と戻ってこない緑色に光る「ZTF彗星」、2月2日に最接近…見頃は今月末頃まで”. 読売新聞オンライン. (2023年1月27日). https://www.yomiuri.co.jp/science/20230127-OYT1T50177/ 2023年1月29日閲覧。
  9. Once in 50,000-year comet may be visible to the naked eye”. France 24 (2023年1月7日). 2023年2月6日閲覧。
  10. Georgiou, Aristos (2023年1月10日). What makes the green comet green?”. Newsweek. 2023年1月29日閲覧。
  11. COBS: Comet C/2022 E3 (ZTF) observation list”. Comet Observation Database. 2023年2月6日閲覧。
  12. Circumpolar Comet ZTF (C/2022 E3) is Here!”. Sky and Telescope (2023年1月16日). 2023年1月29日閲覧。
  13. Hall, Shannon (2023年1月20日). “How to Watch the ‘Green Comet’ in Night Skies”. The New York Times. https://www.nytimes.com/article/green-comet-watch.html 2023年1月29日閲覧。
  14. Mack, Eric (2023年1月23日). “Bright Green Comet Passing Earth Is Visible Now in Dark Skies”. CNET. https://www.cnet.com/science/space/bright-green-comet-passing-earth-is-visible-now-in-dark-skies/ 2023年1月29日閲覧。
  15. Electronic Telegram No. 5111- COMET C/2022 E3 (ZTF)”. Central Bureau for Astronomical Telegrams. 2023年1月29日閲覧。
  16. 話題のZTF彗星はなぜ緑色? 見られる間に知っておきたいこと”. ナショナルジオグラフィック日本版 (2023年2月2日). 2023年2月6日閲覧。
  17. C/2022 E3 (ZTF)”. minorplanetcenter.net. Minor Planet Center. 2022年2月6日閲覧。
  18. Ratcliffe, Martin (2022年11月1日). Sky This Month: November 2022”. Astronomy.com. 2023年1月29日閲覧。
  19. king, Bob (2022年11月17日). Sneak Peek at Two Promising Comets”. Sky and Telescope. 2023年1月29日閲覧。
  20. Comet 2022 E3 (ZTF) | Science Mission Directorate”. science.nasa.gov. NASA Science (2022年12月24日). 2023年1月29日閲覧。
  21. ほしぞら情報 |(速報)ZTF彗星が地球に接近(2023年1月・2月)”. 国立天文台 (2023年). 2023年1月29日閲覧。
  22. 2023年2月 ズィーティーエフ彗星が5等前後”. AstroArts (2023年1月25日). 2023年1月29日閲覧。
  23. Machholz, Donald (2022年3月25日). EarthSky | New comet might brighten enough for binoculars”. earthsky.org. 2023年1月29日閲覧。
  24. Atkinson, Stuart (2022年12月7日). Comet C/2022 E3 (ZTF) is one to watch out for in December and January”. BBC Sky at Night Magazine. 2023年1月29日閲覧。
  25. COBS - Comet OBServation database”. Comet Observation Database. 2023年1月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月29日閲覧。
  26. Pultarova, Tereza (2023年1月19日). Brilliant green comet loses part of its tail to solar storm in this stunning astrophotographer photo”. Space.com. 2023年1月29日閲覧。
  27. Thomson, Jess (2023年1月23日). Green comet ZTF develops strange "anti-tail" pointing in wrong direction”. Newsweek. 2023年1月29日閲覧。
  28. Tingley, Brett (2023年1月23日). How to see the green comet C/2022 E3 (ZTF) visible in the night sky now as it approaches Earth”. Space.com. 2023年1月29日閲覧。
  29. King, Bob (2022年3月30日). Comets to View in 2022”. Sky and Telescope. 2023年1月29日閲覧。
  30. Urbain, Tom (2022年11月10日). Starlust.org | Meet Comet C/2022 E3 (ZTF), the next naked-eye comet in the night sky”. starlust.org. 2023年1月29日閲覧。
  31. Rao, Joe (2023年1月6日). A comet not seen in 50,000 years is coming. Here's what you need to know”. Space.com. 2023年1月29日閲覧。
  32. Krämer, Katrina (2021年12月23日). Comets’ green colour comes from dicarbon dissociation, experiments confirm”. Chemistry World. 2023年1月29日閲覧。
  33. Koe, Crystal (2022年1月31日). Why are comet heads green — but not their tails?”. Massachusetts Institute of Technology. 2023年1月29日閲覧。

外部リンク

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