アルケゴス・キャピタル・マネジメント

アルケゴス・キャピタル・マネジメント(英語: Archegos Capital Management)は、米ヘッジファンド、タイガー・アジア・パートナーズの元運用者であるビル・フアンが運用するファミリーオフィスである[2][3]。 2021年3月26日、アルケゴスはクレディ・スイスや野村ホールディングスなどのグローバル投資銀行からの証拠金請求について債務不履行に陥った[4][5]。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの行った[6]前代未聞ともいわれる規模のブロック取引[注釈 2]も[7]、アルケゴスの破綻を受けてのものであり、他に先んじてポジションの巻き戻しを行うことで損失を抑えることができたとされる[8]。

アルケゴス・キャピタル・マネジメント
Archegos Capital Management
元の種類
非公開会社
業種 投資マネジメント
その後 マージンコール[注釈 1]の不履行
設立 2013年
創業者 ビル・フアン
解散 2021年3月26日
本社 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク[1]
ウェブサイト Archegos Capital Management (archive)

歴史

フアンは、2013年にファミリーオフィスのアルケゴスを設立し[2] 、2020年時点で100億ドルの運用資産を保有していた[5]。

2021年3月24日にバイアコムCBSが30億ドル規模の増資を発表したのを受け、同社の株価は10%下落し、実質筆頭株主であったアルケゴスは巨額の追証の差入を迫られた[9]が、必要額を差し入れることができず債務不履行に陥り、プライム・ブローカレッジ業務[注釈 3]を担ったグローバル投資銀行各行がアルケゴスの資産の処分に動き、アルケゴス保有資産の投げ売りに至った[10]。特に木曜日にゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、野村ホールディングス、クレディ・スイス、UBSなどアルケゴスと取引していた投資銀行で話し合いがもたれ、大規模な売却は控え、週末に話し合いを続けようという提案がなされたものの合意に至らなかった[8]。CNBCは、アルケゴスのポジションに対して最大のエクスポージャーを持っていたのはモルガンであり、すぐに行動しなければ100億ドルの損失もありえたが、フアンの同意を得た上で会合後の夜に50億ドル分の株式を少数のヘッジファンドにディスカウントした価格で売却したと報じており、またモルガンは投資家に不利な情報を伝えていなかったのではないかとみられる[11]。事情を知らなかった投資家の中にはモルガンに裏切られたと感じているものもいた。そして、先んじて売却を行ったモルガンとゴールドマンの両者は損失を抑えることができたという[8]。また、ドイツ銀行は、アルケゴスのポジションが強制的に解消された際、約40億ドル相当の株式を投資家に直接売却することで痛手を回避したとされる[12]。

なお、バイアコムCBSのエクイティファイナンスの主幹事には、ゴールドマン、モルガン、JPモルガン、シティグループ、みずほなどが名を連ねており、中でもモルガンが主要な役割を果たしていた[13]。米国証券取引委員会の元委員長ハーヴェイ・ピットは、十分な情報障壁がなく、アルケゴスの極端なレバレッジの危険性を知っていた可能性があるとして、「明らかな利害相反の可能性がある」と指摘した[13]。また、NYタイムズの報道によれば、当初アルケゴスが新株発行の主要な引受投資家であったが、途中で翻意したという[9]。

野村ホールディングスやクレディ・スイスはアルケゴスに対して株式に関連したスワップや差金決済取引(CFD)などのデリバティブを中心にエクスポージャーを抱えていた。すなわち、同社は少なくとも大半の株式を現物保有しておらず、したがって5%以上保有した場合に求められる大量保有報告の対象となっていなかったとみられる[14]。ヘッジファンドはシャドー・バンキング・システムの代表格でもあり、規制が緩いヘッジファンドがデリバティブを利用して莫大なレバレッジをかけたポジションを構築できることに対しての批判が提起される可能性がある[14]。ただし、CFDなどのデリバティブは現物株に対して規制上の要求資本が少なく、金融機関が積極的に取引するインセンティブが生じてしまった[14]。世界金融危機の結果として導入された金融規制の皮肉な結果といえる。

結果として、野村證券は20億ドルの損失の可能性があると発表し[15]、クレディ・スイスは47億ドルもの減損を迫られ、半数以上の経営陣が更迭された[16][17]。三菱UFJ証券ホールディングスは2021年3月30日に、アルケゴスと思われる米顧客との欧州子会社による取引で約3億ドルの損失が生じる可能性があると発表した[18]。さらに、2021年4月1日、みずほフィナンシャルグループについても、米子会社が保有する同社債権に関する損失が100億円程度生じたことがわかった[19]。また、損失を抑えることに成功したと見られていたモルガン・スタンレーも、2021年4月16日、アルケゴスを巡る巨額損失問題に絡み、10億ドルの損失を計上したと明らかにした[20]。

3月29日、クレディ・スイスの株価は14 %下落し、野村ホールディングスの株価も16 %下落した[4]。アルケゴスの顛末は、ロングターム・キャピタル・マネジメントが引き起こした暴落と比較されている[21]。

脚注

  1. 追加証拠金を求められること。
  2. ブロックトレードとも。大手機関投資家などが大口の取引を相対で、証券会社などディーラーや同じ機関投資家を相手に行う取引を指す。
  3. プライムブローカレッジ業務とは、投資銀行がヘッジファンドに対して提供するサービス。取引の執行や決済から、ファンドへの融資まで総合的なサポートを行う。

参考文献

 

  1. “Archegos Capital Management LP - Company Profile and News” (英語). Bloomberg.com. 2021年4月9日閲覧。
  2. “Who is Archegos' Bill Hwang?”. finews.asia. (2021年3月29日). https://www.finews.asia/people/34136-who-is-bill-hwang
  3. Cook, James (2021年3月28日). “Mystery figure behind $20bn stock sell-off unmasked”. Telegraph Media Group Limited. https://www.telegraph.co.uk/business/2021/03/28/mystery-seller-behind-20bn-stock-selloff-unmasked/
  4. Foy, Simon (2021年3月29日). “Credit Suisse and Nomura flag giant losses from hedge fund sell-off”. Telegraph Media Group Limited. https://www.telegraph.co.uk/business/2021/03/29/markets-live-latest-coronavirus-news-pound-euro-ftse-100/
  5. Chung, Juliet; Farrell, Maureen (2021年3月28日). “Ex-Tiger Asia Founder Triggers $30 Billion in Large Stocks Sales”. The Wall Street Journal. Dow Jones & Company, Inc. https://www.wsj.com/articles/ex-tiger-asia-founder-triggers-30-billion-in-large-stocks-sales-11616973350
  6. 「アルケゴスショックの背後に「CFD」-秘密裏にポジション積み上げ」Bloomberg 2021年3月29日
  7. 「ウォール街に臆測飛び交う-「前代未聞」のゴールドマンのブロック取引」Bloomberg 2021年3月28日
  8. Farrell, Maureen; Patrick, Margot; Chung, Juliet (2021年3月30日). “Goldman, Morgan Stanley Limit Losses With Fast Sale of Archegos Assets”. ウォールストリートジャーナル. https://www.wsj.com/articles/goldman-morgan-limit-losses-with-fast-sale-of-archegos-assets-11617062028
  9. Kelly, Kate; Goldstein, Matthew; Phillips, Matt; Sorkin, Andrew Ross (2021年4月3日). “He Built a $10 Billion Investment Firm. It Fell Apart in Days.” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2021/04/03/business/bill-hwang-archegos.html 2021年4月5日閲覧。
  10. “アルケゴスの巨額投げ売り、盲点だった「個人」投資会社”. 日本経済新聞. (2021年3月30日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN29AEX0Z20C21A3000000/ 2021年3月30日閲覧。
  11. Son, Hugh (2021年4月6日). “Morgan Stanley dumped $5 billion in Archegos’ stocks the night before massive fire sale hit rivals” (英語). CNBC. 2021年4月7日閲覧。
  12. 「ドイツ銀、素早い売却でアルケゴスショックの難逃れる」 Bloomberg 2021年4月1日
  13. Frost, Leslie Picker,Wilfred (2021年4月1日). “Morgan Stanley and Goldman Sachs’ roles in volatility of ViacomCBS raise questions” (英語). CNBC. 2021年4月5日閲覧。
  14. “Billions in Secret Derivatives at Center of Archegos Blowup”. Bloomberg. 2021年3月30日閲覧。
  15. “野村とクレディ、巨額損失懸念 欧米金融に拡大も”. 日本経済新聞. 2021年3月30日閲覧。
  16. “Credit Suisse Scandal Toll Goes Ever Higher as Rivals Thrive” (英語). Bloomberg.com. (2021年4月6日). https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-06/credit-suisse-s-scandal-toll-climbs-ever-higher-as-rivals-thrive 2021年4月7日閲覧。
  17. “Credit Suisse Emerges as Archegos Loser With $4.7 Billion Hit” (英語). Bloomberg.com. (2021年4月6日). https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-06/credit-suisse-takes-4-7-billion-archegos-hit-replaces-warner 2021年4月7日閲覧。
  18. 谷口, 崇子. “三菱UFJ証、米顧客との取引で330億円の損失可能性”. Bloomberg.com. ブルームバーグ. 2021年3月30日閲覧。
  19. “みずほFG、米アルケゴスで損失 100億円規模”. 日本経済新聞 (2021年4月1日). 2021年4月1日閲覧。
  20. 「モルガンS、アルケゴス問題で10億ドルの損失 第1四半期は増益」 ロイター 2021年4月16日
  21. Burton, Lucy (2021年3月29日). “Bill Hwang and the debt-fuelled Archegos implosion that triggered a Wall Street earthquake”. Telegraph Media Group Limited. https://www.telegraph.co.uk/business/2021/03/29/bill-hwang-debt-fuelled-archegos-implosion-triggered-wall-street/
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