クサリトラザメ

クサリトラザメ Scyliorhinus retiferトラザメ属に属するサメの一種。西部大西洋に分布する。50cm程度の小型のサメで、背面に網目模様を持つことが特徴である。成体は主に礫底に生息し、硬骨魚イカを食べる。卵生である。繁殖力が強く、IUCN保全状況軽度懸念としている。

クサリトラザメ
メキシコ湾の個体
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
: メジロザメ目 Carcharhiniformes
: トラザメ科 Scyliorhinidae
: トラザメ属 Scyliorhinus
: クサリトラザメ S. retifer
学名
Scyliorhinus retifer
(Garman, 1881)
シノニム
  • Scyllium retiferum Garman, 1881
英名
chain catshark
chain dogfish
分布

分布

西部大西洋の大陸棚外縁から上部大陸斜面に生息し、ジョージバンクからフロリダ半島メキシコ湾ニカラグアに分布する。特にチェサピーク湾において個体数が豊富である。水温8.5-11.3℃の場所に生息し、北部では深度36-230mで見られるが、南部では460mより深い場所で見られる[2]。長距離を移動することはないと推測されている[3]

分布域は、特に冬期の水温により制限されていると考えられる。大陸棚外縁には季節的に温水の帯が出現し、これによって本種の生息が可能になっている[3]

形態

ノースカロライナ州沖で捕獲された個体

最大で59cm[1]。体は小さくて細く、楔型で先の丸い吻を持つ。第一背鰭腹鰭の後端の後部から起始する。第二背鰭は第一の半分程度の大きさ。尾鰭後端は四角形になる。背面は赤褐色で、黒から暗褐色の線が鎖状の網目模様を作っている。腹面は黄色味がかる。眼は黄緑色[2]

片側の歯列は、上顎で21-26、下顎で20-22。上顎に0-2、下顎に0-4本の正中歯列がある。皮膚は滑らかな感触。皮歯は平たくて細く、3-5本の水平隆起が走る[2]

生態

蛍光を放つ個体

底生の不活発な種で、海底を離れることはあまりない[1]。日中は岩陰などで休み、大型のハナギンチャク類の棲管に寄り添うことも観察されている[3]。背面の模様は海底の礫に紛れる保護色となっていると考えられる[4]。餌はイカ硬骨魚多毛類甲殻類など。成体は幼体に比べ、イカより魚を多く食べる[2]

2005年8月にメキシコ湾の深度550mの海底で、蛍光を放つ本種個体が観察された。この蛍光の意義や理由は不明である[5]。この日はハリケーン・カトリーナが通過する数日前であったが、この事象との関連性も不明である。

繁殖

繁殖特性はハナカケトラザメと非常に類似している[4]

雄では、精巣の発達はクラスパーの成長と相関している。クラスパーが30mm程度になった時点で成熟したとされる[4][6]。雌では、卵胞の発達は卵殻腺の成長と相関しており、卵殻腺が完全に形成された時点で成熟したとされる[4]。これは卵殻腺の幅にして18mm以上である。

北方の中部大西洋開湾では、雌は35cm・雄は38cmで性成熟するが、南方のサウスカロライナ州・フロリダ州では、雌は52cm・雄は50cmで性成熟する。寿命は飼育下で9年以上[1]

観察から、雄は雌に噛み付いて固定し、雌に体を巻き付けて交尾を行う。交尾は繰り返し行われる[4]。最初の交尾から数日で産卵が始まる。雌は交尾後に最大で843日間精子を蓄えることができるが、交尾後から長期間経って産まれた卵は発達が悪いことがある。これには細胞老化・精子生存率の低下・水質などの要因が関わっていると考えられる[4]

卵は海底の垂直構造物に産み付けられる。左右の輸卵管に1対の卵を持つが、これらは数分から8日の間をおいて産卵される[4]。卵の直径が1mm成長するのに約7.7日かかるが、これは水温にも影響される[4]。輸卵管内の卵殻は柔らかい淡黄色で半透明。岩などに絡みついて固定するための2本の巻きひげがある。産卵後には卵殻は硬く、白い縞の入った濃い飴色になる[2]。飼育下の雌は、年間44-52個の卵を産んだ[1]

発生

水温にもよるが、胚の発生には8–12ヶ月かかる。胚盤からの発生過程は次のようになる[4]

  • 10 mm - 鰓弓が判別できる。腹側には薄い鰭膜がある。
  • 21 mm - 胸鰭・腹鰭の原基の出現。
  • 33 mm - 突き出した眼と良く発達した鰓糸を持つ。
  • 43 mm – 体色が付き始める。卵殻にスリットが開き、海水との物質交換が可能になる。
  • 58 mm – 鰭膜の消失が始まる。
  • 66 mm – 鰭膜と鰓糸がほぼ吸収される。
  • 74 mm - 卵黄嚢を残して、ほぼ成体の外見となる。
  • 100–110 mm - 孵化。

人との関わり

飼育個体

体の模様は美しく、飼育や繁殖には理想的であるとされている[7]。日本ではアクアワールド大洗で見ることができた[8]

小型であるため人に危害は加えない。チェサピーク湾などで大量に混獲されているが、漁業上の重要性はない[2]。分布域が広いこと、繁殖力が強いこと、礫底を好むため成体が底引き網で漁獲されにくいことから、IUCN保全状況軽度懸念としている。特に分布域の北部では、個体数は増加傾向にある[1]

脚注

  1. Sherrill-Mix, S.A., Myers, R.A. & Burgess, G.H. (2006). "Scyliorhinus retifer". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2014.3. International Union for Conservation of Nature.
  2. CHAIN DOGFISH in florida museum of natural history”. 2015年1月13日閲覧。
  3. Bernadsky, Gilad and Goulet, Denis. (1991). Distribution and Habitat of Chain Dogfish, Scyliorhinus retifer, in the Mid-Atlantic Bight. Copea 1: 231-234.
  4. Castro, Jose I., Bubucis, Patricia M., and Overstrom, Neal A. (1988). The Reproductive Biology of the Chain Dogfish, Scyliorhinus retifer. Copea 3: 740-746.
  5. The Day We Found the Jaguar Shark”. 2015年1月13日閲覧。
  6. McDowall, R. M. (1992). Reproductive biology of the Chain Dogfish, Scyliorhinus retifer, from the Mid-Atlantic Bight. Copea 1: 251-253.
  7. Michael, Scott W. (March 2004), “Sharks at Home”, Aquarium Fish Magazine: 20–29
  8. アクアワールド・大洗のサメ一覧

参考文献

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