フェミナチ

フェミナチ (Feminazi) とは、アメリカ合衆国においてフェミニストに批判的な人々が、「急進的・先鋭的な」フェミニストに対して用いた。フェミニズムナチズムを掛け合わせて生まれた混成語。フェミ・ファシズム(femi-fascism)とも言われる。

アメリカ保守派で反フェミニズムのラジオ番組ホストであるラッシュ・リンボー妊娠中絶ナチによるホロコーストを重ね合わせて表現としたのが始まりである[1][2][3]。彼が番組において中絶を容認するリベラル・フェミニストを軽蔑する意味合いでフェミナチと呼び始め、この用法が現在のアメリカの男女同権論に対して批判的な宗教右派等の間で広まった[4]

歴史

1970年代初めには、アメリカの女性雑誌『Ms』の編集主幹でラディカル・フェミニストグロリア・スタイネムらが、セクシャルハラスメントを提唱した。同じくラディカル・フェミニストキャサリン・マッキノンは弁護士として様々な裁判を手掛け、『セクシャル・ハラスメント・オブ・ワーキング・ウィメン』(ISBN 4876474486)などで概念を明確化し、法規制に繋がる道を作った第一人者となった。

このとき盛んに使われたのが性的対象化・性的モノ化という語である。京都女子大学現代社会学部教授の江口聡は、性的モノ化・性的客体化・物象化(sexual objectification)は、1970年代以降の第二波フェミニズムの中心的キーワードの一つとしている。性犯罪セクハラ売買春ポルノ美人コンテスト、各種の「性の商品化」など、フェミニズムがとりあげた数多くの「女性」問題において、男性中心的な社会慣行(家父長制パターナリズム)における女性の隷属的地位を説明する概念である。キャサリン・マッキノンアンドレア・ドウォーキンは、『ポルノグラフィと性差別』(ISBN 4250202003)を共同執筆するなど、性的対象化・性的モノ化という語の広範な使用に強い影響を与えた。

なお、売買春の「性の商品化」批判は、キリスト教純潔教育に代表されるように、「道徳的・モラル的にいけないことである」という理由で古くから批判されており、フェミニズムが確立した考えではない。ラディカル・フェミニズムキリスト教は「女性のセクシーなファッション」「アダルト産業やその従事者・消費者」を問題とする点は同じだが、理由が異なるため対立している。反フェミニズムを掲げるプロミス・キーパーズのように、キリスト教右派は「ふしだらである、教義にそぐわない」などの道徳保守的思想で認めないのに対し、ラディカル・フェミニストは「家父長制パターナリズムに基づく、男性の女性差別人権侵害が問題である」とし、道徳や保守的思想による非難は否定している。

一般にポルノグラフィは「性的に露骨なもの」「性的に露骨で、淫らで、反道徳的な表現物」と定義されるが、キャサリン・マッキノンアンドレア・ドウォーキンは、このような定義を批判した。モラルや道徳が理由ではなく、人権侵害にあたるかが重要であり、ポルノグラフィとは「性的に露骨で、かつある集団(女性や子供など)を従属的・差別的・見世物的に描き、現にその集団に被害を与えている表現物」としている。

1975年には、ジーン・マックウェラー『レイプ《強姦》―異常社会の研究』(ASIN B000J9JF62)とスーザン・ブラウンミラー(Susan Brownmiller)『レイプ・踏みにじられた意思(原題:Against Our Will)』(ISBN 4326652306)が出版され、彼女たちは性暴力に対する誤解と偏見を「レイプ神話」として告発した。特に『レイプ・踏みにじられた意思』は「レイプの原因は性欲ではなく、男性グループの女性グループに対する支配である」という主張を一般的にし、2016年時点でも非常に強い影響力をもっている。

スーザン・ブラウンミラーは以下のように主張した。

  • 人間以外の動物はレイプをしない。レイプのない文化もある。よってレイプは我々の文化の影響下のものである。
  • 我々の文化は男性優位文化(家父長制パターナリズム)で、男性が女性を支配する必要がある。そのために使われるのがペニスを武器にしたレイプである。
  • レイプはセックスや性欲の問題ではなく、文化の影響によって男性はレイプへの指向を学習し、女性に対する暴力を美化・正当化する。

ここからフェミニストの人々が唱える様々なアイディアが派生した。たとえば「男性は暴力的ポルノなどからそうした支配欲を学ぶので、暴力ポルノは規制するべき」などである[5]キャサリン・マッキノンは区分陳列などのゾーニングによるポルノグラフィ販売を、「ポルノグラフィを許容すること=生きた人間の搾取を認めること」としており、認めていない[6]

見解

グロリア・スタイネムは、ドイツにおいてフェミニストを弾圧したのはナチスであり、リンボーのこの言葉について「酷い用語で、歴史にも反する用語」であるとして批判している[7]

脚注

  1. Limbaugh defended his use of term "feminazi" as "right" and "accurate"
  2. The Rush Limbaugh Show"
  3. Rush H. Limbaugh, The Way Things Ought to Be, Pocket Books, 1992 p.193
  4. Limbaugh, Rush H., III (1992). "The Limbaugh Lexicon". The Way Things Ought to Be. Pocket Books. p. 296. "Feminazi: Widely misunderstood by most to simply mean "feminist." Not so, boobala. A Feminazi is a feminist to whom the most important thing in life is ensuring that as many abortions as possible occur. There are fewer than twenty-five known Feminazis in the United States."
  5. 江口聡 (2016年8月29日). 「レイプ神話」での性的動機 (4) ブラウンミラー先生の支配欲説と反論”. 江口某の不如意研究室. 2019年2月14日閲覧。
  6. 永山薫、昼間たかし『2007-2008 マンガ論争勃発』マイクロマガジン社、2007年12月21日、150-176頁。ISBN 4896372735。
  7. Steinem, Gloria (October 15, 1995). "If Hitler Were Alive, Whose Side Would He Be On?". Outrageous Acts and Everyday Rebellions. New American Library. ISBN 978-0451139986.

関連項目

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.