ミコフェノール酸モフェチル

ミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate mofetil)とは、(E)-6-(1,3-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-6-メトキシ-7-メチル-3-オキソ-5-イソベンゾフラニル)-4-メチルヘキセン酸 2-(4-モルフォリニル)エチルエステルのことである。免疫抑制剤のプロドラッグ。代謝拮抗薬に分類される薬剤でもあり、細胞において核酸の材料の1つであるプリン塩基のデ・ノボ合成(生体内でプリン塩基を新たに作り出すこと)を阻害する。片仮名表記ではマイコフェノール酸モフェチルなどと書かれることもある。

ミコフェノール酸モフェチル
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 CellCept
Drugs.com monograph
ライセンス EMA:リンク、US FDA:リンク
法的規制
  • as above
識別
CAS番号
128794-94-5 チェック
ATCコード L04AA06 (WHO)
PubChem CID: 5281078
DrugBank DB00688 チェック
ChemSpider 4444535 チェック
KEGG C07908  チェック
ChEBI CHEBI:8764 ×
ChEMBL CHEMBL1456 チェック
化学的データ
化学式C23H31NO7
分子量433.49474 g/mol
ミコフェノール酸
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンク、US FDA:リンク
胎児危険度分類
法的規制
  • S4 (Au), POM (UK), ℞-only (U.S.)
投与経路 経口, IV
薬物動態データ
生物学的利用能94% (モフェチル), 72% (ナトリウム)
血漿タンパク結合97%
代謝肝臓
半減期16–18 時間
排泄腎臓 93%
識別
CAS番号
24280-93-1
ATCコード L04AA06 (WHO)
PubChem CID: 446541
KEGG D05096
化学的データ
化学式C17H20O6
分子量320.34 g.mol−1

効能・効果

警告・禁忌

  • 催奇形性があるので、妊娠の可能性がある患者に投与する前には妊娠検査で陰性を確認し、投与終了後6週間まで避妊を継続することが求められる[1]。
  • 免疫抑制剤であるので、投与期間中の生ワクチンは禁忌である。

副作用

重大な副作用として知られているものは、以下の通りである。

  • 感染症、進行性多巣性白質脳症(PML)、BKウイルス腎症、アレルギー反応、難聴(0.1%)
  • 汎血球減少(1.4%)、好中球減少(0.6%)、無顆粒球症、白血球減少(12.0%)、血小板減少(1.7%)、貧血(5.8%)、赤芽球癆(0.1%)、悪性リンパ腫(0.2%)、リンパ増殖性疾患(0.7%)、悪性腫瘍(特に皮膚がん[注釈 1])(0.7%)
  • 消化管潰瘍(1.1%)、消化管出血(0.3%)、消化管穿孔(0.1%)、イレウス(0.4%)、重度の下痢
  • アシドーシス、低酸素症、糖尿病(0.5%)、脱水症(0.2%)
  • 血栓症(0.2%)
  • 重度の腎障害
  • 心不全(0.3%)、狭心症(0.1%)、心停止、不整脈(期外収縮、心房細動、心房粗動、上室性・心室性頻脈など)(0.1%)、肺高血圧症、心嚢液貯留
  • 肝機能障害(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、Al-P、ビリルビン、LDHの上昇)(1.8%)、黄疸(0.2%)
  • 肺水腫(0.1%)、無呼吸、気胸(0.1%)、アシドーシス、低酸素症、糖尿病(0.5%)、脱水症(0.2%)
  • 痙攣(0.3%)、錯乱、幻覚、精神病

※なお、頻度未記載の副作用は、出現頻度が不明のものである。

1990年から1991年にかけて米国で実施された腎移植患後の免疫抑制を目的にした第I/II相臨床試験では77例中64例が移植腎が生着した(生着率83.1%)一方53例(68.8%)に副作用が見られた。主な副作用は次の通りであった[2]。

  • 消化管症状 - 下痢 (37.7%)、嘔吐 (18.2%)
  • 血液障害 - 白血球減少 (22.1%)、貧血 (23.4%)

臨床試験においては同副作用は投与中止後速やかに回復した。

発見

ミコフェノール酸は1896年にアオカビ属の発酵生産物の1つとして発見され、抗ウイルス作用、免疫抑制作用を持つことが明らかにされてきた。米国シンテックス社はミコフェノール酸体内動態を改善する目的で、プロドラッグであるミコフェノール酸モフェチルRS-61443を開発した。ミコフェノール酸モフェチルの2-モルフォリノエチルエステルは体内で加水分解され、ミコフェノール酸へと変じ作用を顕す。

作用機序

ミコフェノール酸モフェチルはプロドラッグであり、これをヒトに対して経口投与すると、分子内のエステル結合が加水分解されて2-モルホリノエタノール部分が脱離し、ミコフェノール酸となって薬理作用を発揮する。生体内でプリン塩基が必要となった時、ヒトなどでは新たに核酸塩基を生合成するデ・ノボ合成(新生合成などとも言う)と、すでに生体内に存在していた核酸塩基を再利用するサルベージ経路とを利用して、必要な核酸塩基を調達する。ミコフェノール酸は、これらのうちプリン塩基をデ・ノボ合成する際の律速酵素であるIMPデヒドロゲナーゼを可逆的に不競合阻害する[3]。これに対してミコフェノール酸は、核酸塩基のサルベージ経路には影響を与えないとされている[3]。体内で免疫を担っているリンパ球でのプリン塩基の供給は、他の生体組織の細胞に比べてデ・ノボ合成に強く依存しているために、ミコフェノール酸が存在すると細胞内のグアノシン ヌクレオシド プールが枯渇することで、活性化Tリンパ球およびBリンパ球に対して代謝抑制効果が強く現れる。グアノシン ヌクレオシド プールの枯渇はDNA合成を抑制するため、リンパ球は細胞周期の細胞分裂期であるG1期からS期で増殖を停止する[4]。したがって、リンパ球の増殖が選択的に抑制されるので、免疫が抑制される。

申請

日本においては日本シンテックス社(現、日本ロシュ社)が腎移植後の難治性拒絶反応の治療を効能として輸入申請を行い、1994年7月に厚生省が稀少病用医薬品指定を与えた後、1999年に「腎移植後の難治性拒絶反応の治療(既存の治療薬が無効または副作用などのため投与できず、難治性拒絶反応と診断された場合)」について承認した。

その後、2003年に「心移植、肝移植、肺移植における拒絶反応の抑制」、2005年に「膵移植における拒絶反応の抑制」について承認され、2011年には公知申請により「腎移植における拒絶反応の抑制」の小児用法・用量が認められた[5]。またループス腎炎に対する承認も要望され[6]、2015年7月31日薬事・食品衛生審議会にて承認された[7]。

注釈

  1. 皮膚がん発症防止のため、ミコフェノール酸モフェチル使用中は紫外線への曝露を避けることが望ましい。

出典

  1. “セルセプトカプセル250 セルセプトの催奇形性に関する情報および適正使用のお願い”. 中外製薬 (2015年7月). 2015年8月28日閲覧。
  2. “セルセプトカプセル250/セルセプト懸濁用散31.8% 添付文書” (2016年5月). 2016年11月6日閲覧。
  3. 『ミコフェノール酸モフェチル製剤 インタビューフォーム(第20版)』 中外製薬 2016年5月 (「薬効や栗に関する項目」を参照のこと)
  4. セルセプトカプセル250(ミコフェノール酸モフェチル)に関する資料 (PDF)
  5. “セルセプトカプセル250 インタビューフォーム” (PDF). 中外製薬 (2013年2月). 2015年8月2日閲覧。
  6. “ループス腎炎に対するミコフェノール酸モフェチル使用に関するステートメント”. 日本リウマチ学会、日本腎臓学会、日本小児リウマチ学会、日本小児腎臓病学会 (2015年2月21日). 2015年8月2日閲覧。
  7. ミコフェノール酸モフェチルの「ループス腎炎」に対する適正使用のお願い 日本小児リウマチ学会 (2015年8月8日)
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