宝石彫刻師
宝石彫刻師 (ほうせきちょうこくし、英:Lapidary) は、宝飾品制作の中で特に宝石の加工・研磨・彫刻に従事する職人である。
ローマ帝国時代から持ち歩き出来る財産(動産)として宝石は重宝されていたが、鍛冶技術の進歩により、中世・ルネサンス期に金との融合が可能となったことに伴い、金と宝石が融合した動産「宝飾品」が生み出された。金も持ち歩き出来る財産(動産)として当時から重宝されていたが、宝石との融合により宝飾品として姿を変えることにより、財産または担保となり得る動産としての資産価値が高まった。その結果、資産価値をより高めるため、宝石加工・研磨・彫刻に特化する職人が誕生した。
歴史
宝石は天然石として産出され、扱いやすい鉱石であったため、初期のほとんどの文化圏で宝石彫刻師は存在した。宝石彫刻師は一般的な彫刻家とは異なり、ダイヤモンドやルビー、サファイアなどの希少石を専門に扱う職人であり、彼らは主に裕福な市民や貴族層の者を顧客として、精密に仕上げた数々の宝石を販売していた。尚、現代の宝石彫刻師は宝石を研磨する宝石彫刻家としての地位にある[1][2]。
中世・ルネサンス期
中世・ルネサンス期には、技術に優れた宝石彫刻師は欧州の王侯貴族の御用達宝石彫刻師として、ジロメッティやチェルバラのようにローマ教皇庁造幣局の彫刻師に推挙されたり、ローマ教皇の歴史にまつわる様々な出来事に関連したカメオ肖像メダルやインタリオ印章などの多くのメダルや印章を制作した。またトーマス・サイモンやナサニエル・マーチャントのように王立造幣局の主任彫刻師に任命されるなど、宝石彫刻師は国家の兌換通貨である金貨や銀貨の彫刻細工にも携わるようになり、流通の一翼を担うまでになった。
現代の宝石彫刻師
欧州の宝石彫刻師
欧州では、長い歴史をかけて宝石文化が洗練されていることもあって、欧州の伝統産業の一つである宝石彫刻師の社会的地位は画家や彫刻家、音楽家といった芸術家と同等である。宝石の先進国の一つであるタイ王国やインドの台頭も無視できないが、欧州の宝石彫刻師は独特の文化によって、その地位は守られ、イタリアにおいては大半がカメオ作家として生計を立てている。ドイツに関しては、ラインラント=プファルツ州にある宝石街道で知られ、欧州唯一の宝石鉱山があるイダー=オーバーシュタインは宝石研磨の町で有名である。
イダー=オーバーシュタインの歴史
フランスとの国境に近く、ドイツ中西部の山中にある人口3万人程度の小規模な街イダー=オーバーシュタインに最初の宝石彫刻工房が作られたのは1530年頃とされており、その伝統は連綿と続き、19世紀後半には工房数が150カ所を数えるほどになり、名実ともに宝石の町に発展していく。17世紀から18世紀にかけて王侯貴族の間で流行していた瑪瑙の宝石彫刻技術は、今ではイダー=オーバーシュタインの宝石彫刻師しか技術を受け継いでいない。
宝石研磨の街
19世紀に入り、15世紀半ばに瑪瑙鉱山が発見されたことから宝石研磨技術が発展し、以降宝石産業の集積地として発展してきたイダー=オーバーシュタインもナーエ峡谷の瑪瑙だけでは商業的需要を満たせなくなり、それまで培ったカット技術を活かし、世界各地から宝石や貴石が盛んに輸入され、世界中の宝石鉱物を研磨することで活路を開いていく。その試みは成功し、21世紀の現在ではイダー=オーバーシュタインは宝石研磨産業の中心地のひとつとして、世界中から原石が集まる宝石の街として知られ、欧州最大の宝石国際見本市が毎年盛大に開かれ、現在でも住民の70%が何らかの形で宝石産業に関わっている。
テクニック
宝石彫刻師は、選定、切断、トリミング、粗研磨等のプロセスを通じて、金属加工や宝石加工の技術を磨く必要がある。伝統的にこれらのスキルは、各工房での何年もの徒弟期間をもって習得するものだが、とりわけ古代に使われた技術は、工房の秘匿性の独自技術として工房を引き継ぐ者によって脈々と受け継がれ、門外不出の技術である。
代表的な宝石彫刻師
ローマ・ギリシャ時代
- ディスコリデス
- ソロン
中世・ルネサンス時代
- アレッサンドロ・チェザーティ
- アレッサンドロ・マスナゴ
- ジョヴァンニ・ヤコポ・カラッリオ (Jacopo_Caraglio)
- ジョヴァンニ・ベルナルディ
- ヤーコポ・ニッツォラ・トレッツォ
- ヨハン・ロレンツ・ナッター
- トーマス・サイモン
- ルイ・シリエ
- オッタヴィオ・ミゼローニ
フランス第二共和政時代
- A・クレピコフ
- メイエ・シモン
- ニコラ・モレッリ
- ベネデット・ピストルッチ
- ロマン・ヴァンサン・ジェフロワ
- ジュゼッペ・チェルバラ
- ジュゼッペ・ジロメッティ
- ジョヴァンニ・ベルトラミ
- ジョヴァンニ・ピクラー
- ナサニエル・マーチャント
アールデコ・アールヌーヴォー時代
- オーギュスト・ジアルデ
- ドアウグスト・ヴィルド
- ルイジ・イスラ―
- C・ボルディニクス
欧州
代表的な作品
宝石彫刻組合
山梨県水晶美術彫刻協同組合 [18]
関連項目
出典
- American Chemical Society, Ancient technology for metal coatings 2,000 years ago can't be matched even today, ScienceDaily, ScienceDaily, July 24, 2013,
- Gabriel Maria Ingo, Giuseppe Guida, Emma Angelini, Gabriella Di Carlo, Alessio Mezzi, Giuseppina Padeletti, Ancient Mercury-Based Plating Methods: Combined Use of Surface Analytical Techniques for the Study of Manufacturing Process and Degradation Phenomena, Accounts of Chemical Research, 2013; 130705111206005 DOI: 10.1021/ar300232e
- G.I.A:こうしてファンタジーカットが登場
- G.I.A:カメオ、ジュエリー愛好家のための時を超えたミニチュア彫刻
- ドイツの石彫家 ゲルハルド・シュミット Gerhard Schmidt, Gemmenschneider
- 独創性に溢れた宝石彫刻を世界に送り出すポストラー工房
- カメオ彫刻家 巨匠 Erwin Pauly
- ポストラー工房
- 世界に名を知られるムーンシュタイナーの宝石研磨の技術
- 世界で有名な親子ムーンシュタイナー
- ムーンシュタイナー(Munsteiner )
- G.I.Aでデビューした素晴らしい宝石彫刻
- 職人の流儀 河野道一
- 職人の流儀 清水幸雄
- 職人の流儀 深澤陽一
- 職人の流儀 小松一仁
- 職人の流儀 大寄智彦
- 山梨県水晶美術彫刻協同組合
- 山梨県ジュエリーマスター認定制度
- 山梨県立宝石美術専門学校