習近平を批判する横断幕

2022年10月13日朝、中華人民共和国北京市習近平を批判する横断幕(しゅうきんぺいをひはんするおうだんまく)が掲げられた。厳重な言論統制が敷かれる同国で今回のような抗議行動が行われるのは、異例のことである[1][2]。なお、当時の北京市は、2022年10月16日から10月22日にかけて開催された中国共産党第二十回全国代表大会を3日後に控えていた。中国共産党習近平総書記最高指導者)の個人崇拝独裁人権侵害検閲の強化、生涯にわたるリーダーシップの追求を批判したもので、北京市海淀区四通橋に横断幕を吊るし、タイヤを燃やしてゼロコロナ政策に抗議する人物がデモを行った。

横断幕が掲げられた北京市海淀区の四通橋(写真は2003年のもの)
習近平

抗議者の身元は不明だが、1989年の「タンクマン」(無名の反逆者)にちなんで「ブリッジマン "Bridge Man"」と呼ばれている[3][注釈 1]

背景

中国共産党支配下の中国では2000年代に抗議活動が頻繁に行われ、清華大学社会学教授孫立平によれば、2010年には当局に対し180,000件の抗議活動がなされた[4]

概要

2022年10月13日、中国の首都である北京市海淀区の高架橋、四通橋の側面に、以下のような、習近平体制を批判する横断幕が2枚掲げられた[1][5]

PCR検査は要らない ; ご飯を食べたい。

ロックダウンは要らない ; 自由が欲しい。
嘘は要らない ; 尊厳が欲しい。
文革は要らない ; 改革が欲しい。
領袖(習近平指導部)は要らない ; 選挙が欲しい。
奴隷になりたくない ; 国民になりたい。


(不要核酸要吃饭 不要封控要自由 不要谎言要尊严
不要文革要改革 不要领袖要选票 不做奴才做公民)
左側の横断幕
罷課、罷工(勉学も仕事もやめちまえ)。罷免せよ、独裁国賊の習近平。
立ち上がれ、奴隷になることを拒む者たちよ! 独裁と権威主義に反対して、一人一票で主席を選び、中国を救おう!!!
(罢课罢工罢免独裁国贼习近平
起来不愿意做奴隶的人们! 反独裁反专制救中国 一人一票选主席!!!)
右側の横断幕

掲げられた2枚の横断幕には「独裁国賊習近平を罷免せよ[1]」「文革はいらない、改革が必要だ[1]」「領袖は要らない、投票が欲しい[5]」「封鎖は要らない、自由が欲しい[5]」などの文言が記されていた。抗議は1人の抗議者によって行われた。抗議者は、オレンジ色のベストと黄色のヘルメットを着用して、建設作業員に変装していた。抗議者は四通橋に横断幕を掲げ、持参したタイヤに火を放った。その後、彼は拡声器を通して繰り返し「学校と職場でストライキを行い、独裁者で国賊の習近平を排除せよ! 私たちは食べたい、自由が欲しい、投票したい!」と連呼した[6]

ごはんが欲しい。自由が欲しい。投票権が欲しい!
罷課。罷工。罷免せよ、独裁国賊の習近平!

(要吃饭,要自由,要选票!
罢课,罢工,罢免独裁国贼习近平!)
スピーカーから流れた抗議声明

日本の読売テレビも「飯を食わせろ! 自由をくれ! 投票させろ!」などと民主化を求める抗議の声も聞かれたことを伝えている[7]。また、米国のCNNも「拡声器から流れる抗議のスローガンの音声」が確認されたと報じている[2]

映像外部リンク
「習近平指導部は要らない」「辞めさせろ」北京市内にスローガン 党大会直前に衝撃広がる|TBS NEWS DIG

誰がこの横断幕を掲げたかは分かっておらず[8]、幕が掲げられた現場には警察消防当局が駆けつけて幕を撤去し[7]、厳戒態勢が敷かれた[7]

横断幕を捉えた写真動画がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に投稿されると、急速に広まった[9][10]。抗議者の身元は不明であるが、ある物理学者であると信じられており、そのTwitterアカウントには称賛のメッセージが殺到した[6]。しかし、写真や動画はただちに削除され、閲覧できなくなっている[11]。読売テレビによれば、中国の国営テレビは、この件について一切触れていないとのことである[7]

反応

彼の行動はBBCニュースによって「習近平体制下における中国人民の抗議の最も重要な行為の1つ」と紹介された[6]

彼の抗議に応え、アメリカ合衆国イギリスカナダオランダ韓国など多くの大学のキャンパスから、抗議者との連帯を示すポスターや習近平非難のスローガンを示した多数の写真がTwitterによって拡散した[12][13]。同様の抗議スローガンは、その後、中国の他の都市にも落書きとなって登場し[14]AirDropを介して拡がった[15]。彼の行動を祝福するアートもオンラインで共有されている[6]

抗議の写真やビデオは、中華人民共和国インターネット検閲システムによって検閲された[16][17]。抗議のビデオや画像を再投稿した一部の個人も逮捕されている[18][19]。中国当局は「四通橋」や「勇敢な男」など人民を抗議に導く可能性のある用語を検閲している[20]ブルームバーグニュースは、「勇気」「橋」さらには「北京」などのワードも検閲されたと報じている[20][21]

脚注

注釈

  1. タンクマン(無名の反逆者)とは、1989年6月4日に中国共産党が引き起こした六四天安門事件の直後、天安門広場に通ずる長安大街の路上で戦車(タンク)の行く手を遮った男性。

出典

  1. “「領袖もPCRもいらない」北京に横断幕 党大会直前、習体制を批判”. 朝日新聞デジタル. (2022年10月13日). https://www.asahi.com/articles/ASQBF6TC5QBFUHBI03R.html 2022年11月2日閲覧。
  2. “習主席に抗議の横断幕、共産党大会控えた北京で異例の抗議運動”. CNN. (2022年10月14日). https://www.cnn.co.jp/world/35194615.html 2022年11月2日閲覧。
  3. “習近平氏に1人で抗議した「ブリッジマン」、世界各地で行動を触発”. BBC. (2022年10月21日). https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63327430 2022年11月2日閲覧。
  4. “China's Spending on Internal Policing Outstrips Defense Budget”. Bloomberg. (2011年3月6日). https://www.bloomberg.com/news/articles/2011-03-06/china-s-spending-on-internal-police-force-in-2010-outstrips-defense-budget 2022年10月15日閲覧。
  5. “北京で習近平氏批判の横断幕 「独裁者の罷免を」要求”. 日本経済新聞. (2022年10月14日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB140J50U2A011C2000000/ 2022年11月2日閲覧。
  6. “China congress: How one man on a bridge marred Xi Jinping's big moment” (英語). BBC News. (2022年10月21日). https://www.bbc.com/news/world-asia-china-63339816 2022年10月24日閲覧。
  7. “北京で“習主席を批判”する横断幕”. 読売テレビ. (2022年10月13日). オリジナルの2022年10月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221014082957/https://www.ytv.co.jp/press/international/170657.html 2022年11月2日閲覧。
  8. “「独裁者罷免」要求の横断幕 党大会前、北京で習氏批判―中国”. 時事通信. (2022年10月13日). https://web.archive.org/web/20221013125307/https://www.jiji.com/jc/article?k=2022101301125&g=int 2022年11月2日閲覧。
  9. Davidson, Helen (2022年10月14日). “'We all saw it': anti-Xi Jinping protest electrifies Chinese internet”. The Guardian. https://www.theguardian.com/world/2022/oct/14/we-all-saw-it-anti-xi-jinping-protest-electrifies-chinese-internet 2022年10月15日閲覧。
  10. Pollard, Martin Quin; Baptista, Eduardo (2022年10月14日). “Rare political protest banners removed in Chinese capital” (英語). Reuters. https://www.reuters.com/world/china/rare-protest-banners-removed-chinese-capital-2022-10-13/ 2022年10月15日閲覧。
  11. “北京に習氏を直接批判の横断幕 ネットで映像拡散、当局は撤去”. ロイター. (2022年10月14日). https://jp.reuters.com/article/china-congress-protests-beijing-idJPKBN2R90CH 2022年11月2日閲覧。
  12. Beijing Protester's Battle Cry Sends Ripples Worldwide (英語). The Wall Street Journal (2022年10月22日). 2022年10月22日閲覧。
  13. Quinn, Jimmy (2022年10月14日). Beijing Bridge Demonstration Goes Global Ahead of Xi's Big Meeting”. National Review. 2022年10月16日閲覧。
  14. “Anti-Xi Slogans in Rare Beijing Protest Spread Within China”. Bloomberg News. (2022年10月18日). https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-10-18/anti-xi-slogans-in-rare-beijing-protest-spread-within-china 2022年10月18日閲覧。
  15. Cheung, Rachel (2022年10月19日). “Anti-Xi Jinping Posters Are Spreading in China via AirDrop”. Vice News. https://www.vice.com/en/article/wxn7nq/anti-xi-jinping-posters-are-spreading-in-china-via-airdrop 2022年10月19日閲覧。
  16. Kang, Dake (2022年10月13日). China quashes social media about protest banners in Beijing (英語). Associated Press. 2022年10月14日閲覧。
  17. Wakabayashi, Daisuke; Fu, Claire (2022年10月14日). “China's Internet Censors Race to Quell Beijing Protest Chatter” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2022/10/14/world/asia/china-internet-protest-xi-jinping.html 2022年10月14日閲覧。
  18. Shanghai police detain retired teacher who posted "Bridge Man" clips on Twitter (英語). Radio Free Asia (2022年10月17日). 2022年10月21日閲覧。
  19. Global Propaganda on Uyghurs, 20th Congress Censorship, Brazen Transnational Repression (英語). Freedom House (2022年10月). 2022年10月21日閲覧。
  20. Antelava, Natalia (2022年10月20日). China censors 'Beijing' on Weibo, torture in Izium, and Russia is jailing its elites (英語). Coda Media. 2022年10月22日閲覧。
  21. China Censors 'Beijing' After Rare Protest in City Against Xi”. Bloomberg News (2022年10月14日). 2022年10月22日閲覧。

関連項目

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