虹蛇

虹蛇(にじへび[1]: Rainbow Serpent: Rainbow Snake: Rainbow Monster[2])は、天候現象のに関連し、創造を降らせる力があるとされる、神話伝説上の巨大なである。虹の蛇(にじのへび)とも[2]

オーストラリア・アボリジニのアート『虹蛇』

解説

虹蛇の神話・伝説は、世界各地、主に北アメリカオーストラリア西アフリカで知られている。オーストラリアでは後述のように様々な呼び名を持ち広く知られている[3](参照: #オーストラリア)。真水に関連づけられ、池や湖などに住むとされている[2]

北アメリカ

カリブ諸島ハイチで知られる虹の蛇アイダ(Ayida、アイダ・ウェド (Aida Wedo) とも[4])は、アフリカから伝わってきたものである[2][注 1]。北アメリカのショショーニ族は、大蛇が天空に背中を擦りつけている姿が虹であると考えていた。大蛇はそのようにして夏には雨を、冬には雪を地上に降らせるとされていた[8]

オーストラリア

オーストラリア北部に伝わる伝説では、虹の蛇がその体内に隠匿しているあまたの動植物を手に入れるため、人間のシャーマンたちがこの蛇を殺し、地上に動植物を解放したという[2]。また、アボリジニたちは虹の蛇を、西北部からノーザンテリトリーにかけてはエインガナ(Eingana) [9]ガレル(Galeru)[注 2]、ウングル(Ungur)、ウォヌングル(Wonungur)、ウォロンビ(Worombi)、Wonambi、ウォルンクァ(Wollunqua)[注 3]ユルルングル(Yurlunggur)、Julunggul (en) 、ランガル(Langal)、ムイト(Muit)、クイーンズランド州においてはイェロ(Yero)、タイパン(Taipan)[注 4]、南東部においてはミンディ(Mindi)、カーリア(Karia)というようにさまざまな名前で呼んでいた[14]。アボリジニに伝わる「夢の時」の伝説では、虹の蛇が地を這った跡が水路や谷や川であり、雨季には空で輝くその姿を見ることができるという。しかし乾季には泥の中で眠っており、もし眠りを邪魔することがあれば、虹の蛇は怒って洪水を起こし村も人々も飲み込んでしまうという[2]ノーザンテリトリーカカドゥ国立公園の洞窟で、角を備えた虹蛇を表現した壁画が見つかっていることから、虹蛇への信仰はかなり早い時期から始まっていたと考えられている[8]

このほか、フィジー諸島では虹の蛇デンゲイの伝説が知られている[2]

著名なのは創世の虹蛇であるウングル、エインガナ、南部の洪水伝承を持つユルルングルの三柱の神。

アフリカ

アフリカでは創造母神マウウ(マウ; Mawu)が最初に創造したものである[2]。世界創造を手伝った後は大地を支えるために海の底でとぐろをまいていて、ときどきとぐろを解いて自分の体で空にアーチをかける。この虹のヘビは、人間や他の動物の創造に何らかの関わりを持ち、雨を降らせるという重要な役目を担ってきた。もし、雨が長く降らず干ばつが続くようなら、それは虹のヘビが眠ったまま目を覚ましていないことを意味する。そのため、ヘビを起こすために特別に騒々しい儀式(雨乞い)を行う必要がある。ただし、不用意にこのヘビを怒らせると、虹のヘビは怒りにまかせて巨大な体を空や大地に叩きつけ、あらゆる種類の災害を引き起こす。世界創造における虹のヘビの役割は、入り江や川、湖や泉を作ることだった。川が曲がりくねっているのは虹のヘビが川を作るのにその身をよじらせながら進んだためだとされている。また、泉や湖が丸いのは、虹のヘビが体を休めるためにとぐろをまいて休憩していたからである。現在では虹のヘビは、乾季の間は泉の奥に潜んでいて、雨季になると泉から姿を現して雨を降らせる役目を果たすと信じられている。空に掛かる虹のアーチは次の雨季に備えて虹のヘビがそれまで暮らしていた泉や川から、新しい棲み家へと移動していることを現している。

その他の地域

漢字の「」が虫偏であるのも、中国の伝説において虹がの一種と見なされていたからである。また主虹である「」を雄とし、副虹たる雌を「」(ゲイ)と呼んだ[15]

脚注

注釈

  1. 西アフリカのフォン人の神話にはアイド・ウエド(Aido-Hwedo、Ayidohwedo)という、創造神マウ(・リサ)(Mawu(-Lisa))と共に世界の創造に関わった大蛇が見られる[5][6][7]
  2. キンバリー地区に伝わる[10]
  3. ノーザンテリトリーに暮らすワラマンガ(Warramunga)の伝承に登場し、ワルンクァイン(Wallunquain)とも呼ばれる[11]
  4. クイーンズランド州北部に暮らすウィク・ムンカン(Wik-Mun(g)kan)の言語で虹の蛇も表す thaypan[12](あるいは tay-pan)は英語に借用され、タイパン属Oxyuranus)のヘビ、特に O. scutellatus を指す語とされた[13]

出典

  1. 樹皮画(虹蛇)ジュヒガ(ニジヘビ)”. InfoLib 標本資料目録データベース. 国立民族学博物館 (2011年7月6日). 2016年12月27日閲覧。
  2. ローズ,松村訳 2004, p. 306.
  3. Kickett, Everett (1994年). The Trails of the Rainbow Serpents”. Daniel Habedank. 2013年5月3日閲覧。
  4. ローズ,松村訳 2004, p. 2.
  5. Herskovits 1967.
  6. Lynch 2004, p. 5.
  7. 田中 2016.
  8. 杉山 2013, p. 288.
  9. 小沢俊夫 訳『世界の民話 36 オーストラリア』小学館〈世界の民話〉、1986年4月、46−49頁。ISBN 4-324-00065-4。
  10. ローズ,松村訳 2004, p. 121.
  11. ローズ,松村訳 2004, p. 65.
  12. Kilham et al. 2011.
  13. 小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 1994, p. 2759.
  14. Poignant 1967, p. 124.
  15. 小和田ら, 2000, p. 987.

参考文献

日本語:

  • 小和田顯遠藤哲夫伊東倫厚宇野茂彦大島晃 編『旺文社 漢字典〔大活字版〕』2000年。ISBN 4-01-072118-9
  • 小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 編『小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版』1994年。ISBN 4-09-510101-6
  • 田中正隆「ダン(ダ、アイドフエド)」 篠田知和基丸山顯徳 編『世界神話伝説大事典』勉誠出版、2016年、699-700頁。ISBN 978-4-585-20036-9
  • 杉山久仁彦『〈図説〉虹の文化史』河出書房新社、2013年12月。ISBN 978-4-309-25293-3。
  • ローズ, キャロル「虹の蛇」『世界の怪物・神獣事典』松村一男監訳、原書房〈シリーズ・ファンタジー百科〉、2004年12月、p. 306頁。ISBN 978-4-562-03850-3。

英語:

関連書籍

  • ページ, マイケル『想像と幻想の不思議な世界 - エンサイクロペディア ファンタジア』教育社訳、教育社、1989年11月、p. 207頁。ISBN 978-4-315-51008-9。
  • Anneliese Löffler (1981). Märchen aus Australien. Traumzeitmythen und -geschichten der australischen Aborigines.. Die Märchen der Weltliteratur. Duesseldorf Diederichs. ISBN 3424007056
  • 小沢俊夫 訳『世界の民話 36 オーストラリア』ぎょうせい〈世界の民話〉、1986年4月10日。ISBN 4-324-00065-4。

関連項目

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