ispace

ispace(アイスペース)は、日本航空宇宙企業(宇宙ベンチャー企業)である。

株式会社ispace
ispace, inc.
種類 株式会社
市場情報
東証グロース 9348
2023年4月12日上場
本社所在地 日本の旗 日本
105-0014
東京都港区2-7-17
住友芝公園ビル10F
設立 2010年9月10日
業種 サービス業
法人番号 3030003001527
事業内容 航空宇宙産業
代表者 代表取締役 袴田武史
資本金 1000万円
純利益 ▲16億1466万4000円(2020年03月31日時点)[1]
総資産 70億6487万8000円(2020年03月31日時点)[1]
主要株主 袴田武史(19.12%)
株式会社INCJ(9.75%)
インキュベイトファンド3号投資事業有限責任組合(9.55%)
小沼美和(7.82%)
株式会社日本政策投資銀行(5.57%)
IF Growth Opportunity FundⅠ, L.P.(3.40%)
中村貴裕(3.19%)
株式会社TBSホールディングス(2.79%)
IF SPV1号投資事業組合(1.87%)
株式会社SMBC信託銀行(1.87%)
吉田和哉(1.59%)
ICJ1号ファンド投資事業有限責任組合(1.59%)
株式会社日ノ樹(1.43%)
清水建設株式会社(1.39%)
株式会社電通グループ(1.39%)
コニカミノルタ株式会社(1.39%)
スズキ株式会社(1.39%)
スパークス・グループ株式会社(1.39%)
関係する人物 袴田武史(創業者)
吉田和哉(初代CTO・主要株主)
中田華寿子(取締役)
外部リンク ispace-inc.com/jpn/

概要

民間による月面探査を目指し、2010年9月にispaceの前身となる組織である合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン(2013年5月にispaceとして会社化)が設立された[2][3]2013年1月30日、活動拠点をオランダから日本に移転。この変更にはSteve Allenから日本で運営を主導していた袴田武史に主導権が移る事も含まれた[4][5]。同年7月15日、月面探査チームの公式名をHAKUTO(ハクト)に変更した[6]

月面無人探査レース「Google Lunar XPRIZE」にHAKUTOで挑戦し、XPRIZEの終了後には昆虫型ロボットによる地球近傍天体での資源探査も目指している。

歴史

ホワイトレーベルスペース・ジャパン

ispaceの前身、ホワイトレーベルスペース・ジャパンの誕生に至った契機として、2007年にピーター・ディアマンディスが月面での賞金レースGoogle Lunar X Prize (GLXP) を発表したことが挙げられる(なお同様の経緯で企業化したものには他に米国のAstrobotic社がある。)。2010年12月31日にGLXPの参加登録が締め切られた時点ではレースに日本を拠点とするチームは参加していなかったものの、東北大学教授の吉田和哉の宇宙ロボット研究室がオランダを拠点とするチーム「ホワイトレーベルスペース」に加わっていた。メディア業界で活動していたスティーブ・アレンが代表を務めるこのチームは[7]、開発拠点が欧州と日本に分かれており、欧州側が月着陸機、日本側が月面車 (ローバー) の開発を行うこととなっていた。後にispaceの代表取締役となる袴田武史は、2010年1月にホワイトレーベルスペースが日本で開催したイベントの運営に携わり、その際吉田和哉と出会った[8]。袴田は日本側での月面車の開発資金調達や広報活動を行うため、2010年に合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンを創設し、吉田和哉はCTOに就任した。日本ではホワイトレーベルスペース・ジャパンが資金の確保を目指していた一方、欧州では2012年ごろには資金不足により開発が行き詰まりつつあった。そしていよいよレースから撤退することを決め、2013年1月30日にチームの拠点は欧州から日本へ移すことが発表された。代表はスティーブ・アレンから袴田に交代したが、この段階ではまだチーム名はホワイトレーベルスペースのままだった[9]

ispace創立とHAKUTO

2013年5月、ホワイトレーベルスペース・ジャパンは組織変更を行い、株式会社ispaceが創立された。同年7月16日、ispaceが運営するGLXPのチーム名が白兎にちなむ「HAKUTO」に変更された。2015年1月26日、HAKUTOはGLXPの中間賞を受賞し、賞金50万ドルを取得した[8]。HAKUTOは月面車の開発に特化し、月面への到達に必要な着陸機は自前では開発せず、GLXPに参加する他のチームの着陸機に有償で乗せてもらうという作戦を取った。レース終盤にはインドのチームインダスの着陸機に相乗りすることになったものの、2018年1月、チームインダスは資金不足により地球からの打ち上げに使うロケットの調達を断念した。GLXPは2018年3月に終了し、HAKUTOは同月31日、挑戦を終了することを発表した。

月面輸送事業と国際化

2017年3月2日、ispaceはルクセンブルク政府との間で月の資源開発に関する覚書を締結し、同年には初の海外拠点となるispace Europe SAがルクセンブルクに設立された[10]

それまで月面車の開発に注力していたispaceだったが、袴田と当時のispace最高執行責任者中村貴裕はインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹から今後はGLXP終了後を見据えてispaceが自ら月着陸機を開発することを提案された[11]。それが契機となり、2017年12月13日、ispaceは独自の月着陸機「シリーズ1」を開発することを発表。2019年末頃のミッション1でまず月周回を行い、2020年末頃にミッション2で月着陸と月面車による月探査を行うとしていた。同時にispaceは当時国内のスタートアップ企業では最高額となる101.5億円のシリーズA資金調達を実施。またこの時同社のムーンバレー構想が公表された。2018年9月26日にispaceは最初の月探査プログラムを「HAKUTO-R」と命名することを発表。同時に米国のスペースX社と2回分の打ち上げ契約を締結したことも明らかになった。

2018年10月9日、ispaceは米国のチャールズ・スターク・ドレイパー研究所と共同でNASA商業月面輸送サービス (CLPS) の公募へ月着陸機「アルテミス7」の提案を行った[12]。アルテミス7はHAKUTO-Rで使われる月着陸機を米国で組み立てたものである[注 1]。ispaceとドレイパー研究所は2026年までの中長期のパートナー契約を結んでいる[13]。11月29日、NASAはCLPSへ参加する資格を有する企業9社のうち一つとしてドレイパー研究所を選定した。

2019年8月22日、ispaceはHAKUTO-Rのミッション内容の変更を発表した。月着陸は前倒しで2021年にミッション1で実施、ミッション2は2023年に着陸と月面車による月探査を実施することとした。2020年12月4日、NASAは月面で資源を採取し、それをNASAへ譲渡 (販売) する資格を有する企業としてispace(本社)、子会社ispace Europeを含む4社を選定した[14]。計画ではまずispaceがミッション1の着陸機で月のレゴリスを採取し、続いてミッション2でispace Europeが月面車でレゴリスの採取を行う[15][16][17]。また2021年5月27日にはカナダ宇宙庁 (CSA) から開発資金を得たカナダの企業3社[18]がそれぞれ月への輸送・データ供与をispaceに委託した[19]

2020年11月9日、米国コロラド州デンバーにカイル・アシエルノCEO率いるispace technologies, U.S. , inc.の拠点が設立された[20]。2021年8月24日、ispaceは従来よりも大型の月着陸機構想を発表(のちのAPEX 1.0)。この着陸機の設計・製造は米国国内で行われる[21]

2022年7月25日、NASAはCLPS初の月の裏側への貨物輸送ミッションをドレイパー研究所に発注した[22]。当初ispaceはこのミッションで使われる着陸機として「シリーズ2」を発表していたが、2023年9月28日に新たなデザインの着陸機「APEX 1.0」を公開した[23]

HAKUTO-Rプログラム

ispaceの最初の2回の月探査ミッションはHAKUTO-Rというプログラムを構成している。HAKUTO-Rでは地球から月面への輸送技術の実証などが行われる。「R」にはReboot (再起動) の意味が込められている[24]。最初に行われるHAKUTO-R ミッション1 (M1) は、アラブ首長国連邦の月面車ラシッドなどを載せ[25]、2022年12月に打ち上げられた[26]

M1は宇宙空間を4カ月半航行して2023年4月26日に月に到着、民間企業として世界初の月面着陸を目指したが、月面への軟着陸に失敗。ランダーとの通信が途絶えた[27]

2022年現在、HAKUTO-R ミッション2 (M2) の打ち上げは2024年に予定されている。このミッションではispace Europeが開発した月面車による月探査が行われる。また月の縦穴の探査も検討されている[24]

2023年、「HAKUTO-R」の打ち上げを2024年冬頃に行うと発表。ソフトウェアの改良などを行った次回の月着陸船の名称を「再起」や「復活」の意味を込めた「RESILIENCE」としたと発表した。[28]

2024年1月20日にJAXAのSLIMが、そして同年2月22日にインテュイティブ・マシーンズのNova-Cが月面着陸に成功したことで、日本初、そして民間企業による世界初の月面着陸成功の称号は譲ることとなった。HAKUTO-R ミッション1失敗の原因に、「世界初」の功を急ぐブラックな企業体質を指摘する見解もある[29]

月の裏側への着陸

ispaceの三番目のミッションは月の裏側へ着陸を行う。このミッションはドレイパー研究所が主導しており[22]、ispaceは月着陸機の設計を行う。月の裏側では地球と直接通信することができないため、着陸機と一緒に2機の通信衛星が打ち上げられ、これらは月周回軌道へ投入される[30]。2023年9月現在、このミッションは2026年の打ち上げが予定されている[23]

研究開発

数年以内に月へ送られる見込みの各ミッションの他に、ispaceは将来を見据えたさまざまな技術の研究開発を行っている。

昆虫型ロボット
不整地での歩行・跳躍のため多脚型の構造した昆虫型ロボット[31]。不定形な表面を把持するための鉤爪型グリッパ (ロボットハンド) を開発。JAXA宇宙探査イノベーションハブの第1回研究提案募集に採択され、東北大学と共同で2016年4月から2017年3月まで研究[32][33]
宇宙群ロボット
月や小惑星の表面で資源探査用に1000台ものロボットを協調制御する技術。JIG-SAW株式会社と共同研究[34][31]
Polar Ice Explorer (PIE)
月の極域でのその場資源利用 (ISRU) の実現性を探査するミッションのコンセプト。月面で表面温度の低い地域に着陸し、水素の分布や埋蔵量、土壌の性質などの調査を行うという前提のもと、ミッションの構成や搭載する観測装置、資金調達手法の検討を行った。ispace Europeが研究[35]
推薬液化エネルギーを低減する磁気冷凍機技術
将来の月面推薬精製プラント向けに、液体酸素と液体水素の精製に必要な推薬液化システムの検討。液化には従来の気体式冷凍機よりも高効率の磁気冷凍方式を採用。小型磁石システムの試作、月面に設置する磁気冷凍機の概念設計を行った[36]。JAXA宇宙探査イノベーションハブの第6回研究提案募集に採択され、物質・材料研究機構住友商事高砂熱学工業と共同で2021年2月から2022年2月まで研究[37]

脚注

注釈

  1. アルテミス7の組み立てはゼネラル・アトミックスが行う予定だった。なおNASAのアルテミス計画の名称はこれより後の2019年5月14日に発表されており、アルテミス7と同じ名前なのは偶然である。

出典

  1. 株式会社ispace 第10期決算公告
  2. WLS Japanese Office Open for Business, 9 September 2010
  3. Googleの民間月面探査プロジェクトに日本企業で唯一挑戦ミッション達成の先に見据えた“民間宇宙開発の産業化”(Start Biz Japan:株式会社ispace 2014年1月28日)
  4. White Label Space Moves Full Operations to Japan team White Label Space
  5. チーム体制変更のお知らせ team Hakuto, 2013.1.30
  6. Announcement: New Team Name is "HAKUTO" Google Lunar X PRIZE, July 15, 2013
  7. Steve Allen (英語). White Label Space (2009年7月14日). 2022年11月29日閲覧。
  8. 宇宙起業家の星(2)民間月探査、地上の難路 ispace、事業化目指し8年”. 日本経済新聞 (2018年9月27日). 2022年11月29日閲覧。
  9. 大塚実 (2013年5月31日). 民間月面開発への一番乗りを目指せ! Google Lunar X PRIZEへの挑戦”. 東京エレクトロン TELESCOPE Magazine. 2022年11月29日閲覧。
  10. ispace、ルクセンブルク政府と月の資源開発で連携 宇宙資源開発分野で外国政府と連携する日本初の事例”. ispace (2017年3月2日). 2022年11月29日閲覧。
  11. 宇宙開発、黄金期へ1 「世界初」企業が月に挑む”. 日本経済新聞 (2023年1月16日). 2023年10月2日閲覧。
  12. 大塚実 (2018年12月6日). ispaceのチームがNASA CLPSプログラムに採択、民間月面探査が本格化へ”. マイナビニュース. 2022年11月29日閲覧。
  13. ispace、ドレイパー研究所と中長期のパートナー契約を締結”. ispace (2018年10月11日). 2023年10月12日閲覧。
  14. NASA Selects Companies to Collect Lunar Resources for Artemis Demonstrations (英語). NASA (2020年12月4日). 2022年11月29日閲覧。
  15. ispace、月面で採取するレゴリスをNASAに販売 世界初の月資源の商取引プログラムに採択”. ispace (2020年12月4日). 2022年11月29日閲覧。
  16. NASAが月試料収集プロジェクトに日本のiSpaceなど4社を選抜、宇宙鉱業のパイオニア育成を目指す”. TechCrunch Japan (2020年12月4日). 2020年12月5日閲覧。
  17. 月着陸船と月面車を開発、民間プログラム『HAKUTO-R』の進捗は順調(レスポンス 2022年1月26日)
  18. Contributions awarded under LEAP (英語). カナダ政府. 2022年11月29日閲覧。
  19. ispace、カナダ宇宙庁月面探査加速プログラム選定企業のサービスプロバイダーに選定”. ispace (2017年5月27日). 2022年11月29日閲覧。
  20. ispace、米国・デンバーに新オフィスを開設 現地でランダー(月着陸船)開発の責任者を採用”. ispace (2020年11月9日). 2022年11月29日閲覧。
  21. ispace、ミッション3のランダーデザインを発表、2024年に打ち上げ予定”. ispace (2021年8月24日). 2022年11月29日閲覧。
  22. NASA Selects Draper to Fly Research to Far Side of Moon”. NASA (2022年7月22日). 2022年11月29日閲覧。
  23. ispace U.S. 、新たな米国本社及び月着陸船APEX1.0を公開し、 ミッション3のアップデートを発表”. ispace (2023年9月28日). 2023年10月1日閲覧。
  24. 「HAKUTO」再び、ispaceが“史上初”の民間月面探査プログラムとして再起動”. ITmedia (2018年9月27日). 2022年11月29日閲覧。
  25. ispace、ミッション1の打ち上げ予定日を発表”. ispace (2022年11月17日). 2023年2月8日閲覧。
  26. 日本初の民間月着陸船、打ち上げ成功”. アストロアーツ (2022年12月12日). 2023年2月8日閲覧。
  27. 民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1月面着陸について(第二報)”. 株式会社ispace. 2023年4月26日閲覧。
  28. 月着陸船を2024年冬に打ち上げへ 月面探査車のデザインも公表”. 2023年11月16日閲覧。
  29. 労働条件は「劣悪」で「疲弊的」な企業文化 宇宙ベンチャーのispaceが「月面着陸に失敗した理由」を英紙が指摘
  30. Draper wins NASA contract for farside lunar lander mission (英語). SpaceNews (2022年7月21日). 2022年11月29日閲覧。
  31. 「スター・ウォーズ」の世界を目指す宇宙ベンチャーがJAXAプロ参画”. 日刊工業新聞 (2016年3月5日). 2016年4月5日閲覧。
  32. 不整地を歩行・跳躍探査する昆虫型ロボットのプロトタイプ開発”. JAXA. 2022年12月5日閲覧。
  33. ispace、JAXA 宇宙探査イノベーションハブ、東北大学が共同で不整地を歩行・跳躍する「昆虫型ロボット」の研究開発を開始”. ispace (2016年3月2日). 2022年12月5日閲覧。
  34. 月や小惑星における水などの資源探査を目的とする自律制御ロボット『宇宙群ロボット』の共同研究開発を開始”. ispace (2016年3月2日). 2022年12月5日閲覧。
  35. ISPACE’S POLAR ICE EXPLORER: COMMERCIALLY EXPLORING THE POLES OF THE MOON (英語). SpaceNews (2018年4月18日). 2022年12月5日閲覧。
  36. 推薬液化エネルギーを低減する磁気冷凍技術の研究開発について”. JAXA. 2022年12月5日閲覧。
  37. 推薬液化エネルギーを低減する磁気冷凍技術の研究開発”. JAXA. 2022年12月5日閲覧。

関連項目

外部リンク

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