デニソワ人

デニソワ人(デニソワじん、Denisova hominin)は、前期・中期旧石器時代にアジア全域に分布していた旧人類絶滅、または亜種である。デニソワ人の遺骨は少なく、その結果、DNAの証拠から判明することがほとんどである。正式な種名は、化石資料がより完全なものになるまで確立されない。

デニソワ人
地質時代
更新世
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目(サル目Primates
亜目 : 真猿亜目 Haplorhini
上科 : ヒト上科 Hominoidea
: ヒト科 Hominidae
亜科 : ヒト亜科 Homininae
: ヒト族 Hominini
亜族 : ヒト亜族 Hominina
: ヒト属 Homo
和名
デニソワ人
英名
Denisova hominin
デニソワ人「X woman」が発見されたデニソワ洞窟

2008年にアルタイ山脈のシベリア・デニソワ洞窟[1]から出土した女性の指の骨から抽出したミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づいて、2010年にデニソワ人の個体が初めて特定された。核DNAからはネアンデルタール人との近親性が示されている。この洞窟には定期的にネアンデルタール人も住んでいたが、ネアンデルタール人とデニソワ人が同居したことがあるかどうかは不明である。デニソワ洞窟の標本は、その後、チベット高原にあるバイシヤ・カルスト洞窟の標本と同様に、追加で同定された。DNAの証拠から、彼らは黒い肌、目、髪を持ち、ネアンデルタール人のような体格と顔立ちをしていたことがわかった。しかし、彼らはより大きな大臼歯を持っており、中期更新世から後期更新世にかけての古人やアウストラロピテクスを思わせる。

デニソワ人は現代人と交配したとされ、その割合はメラネシア人、オーストラリアのアボリジニ、フィリピンのネグリトに最も多く(およそ5%)見られる。この分布は、ユーラシア、フィリピン、ニューギニア、オーストラリアにデニソワ人の集団がいたことを示唆しているが、これは未確認である。現代人への遺伝子移入はニューギニアで3万年前に起こった可能性があり、もしそれが正しければ、この集団は14,500年前まで存続していたことになるかもしれない。また、アルタイに住むネアンデルタール人との交雑の証拠もあり、デニソワ洞窟のデニソワ人ゲノムの約17%は彼らに由来するものである。デニソワ人の父とネアンデルタール人の母を持つ「デニー」というニックネームの一代雑種が発見された。さらに、デニスバン・ゲノムの4%は、100万年以上前に現代人と分岐した未知の古人種に由来するものである。

発見史

2008年にロシアの西シベリアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞窟で子供の骨の断片が発見され、放射性炭素年代測定により約4万1千年前のものと推定された。また、同じ場所で、大人の巨大な臼歯も発見されている[2]

2010年3月25日付のイギリスの科学雑誌『ネイチャー』において、マックス・プランク進化人類学研究所の研究チームは、発見された骨のミトコンドリアDNAの解析結果から、デニソワ人は100万年ほど前に現生人類から分岐した、未知の新系統の人類だったと発表した[3][4]。DNAのみに基づいて新種の人類が発見されたのは、科学史上初めての事である[5]

2019年4月11日付で学術誌『Cell』に発表された論文によると、デニソワ人には独立した3つのグループが存在し、このグループの内の1つは、ネアンデルタール人とデニソワ人との違いと同じぐらいに、他の2グループのデニソワ人と異なっていることが示唆されている[6]

名称

上述の通り、化石資料の不足から正式な種名については確立されていないが、一部の研究者からはホモ・デニソワ(H. denisova)[7] やホモ・アルタイエンシス(H. altaiensis)[8]などの学名が提案されている。

他の人類との遺伝的関係

2010年12月23日、マックス・プランク進化人類学研究所などの国際研究チームにより『ネイチャー』に論文が掲載された。見つかった骨の一部は5 - 7歳の少女の小指の骨であり[2]、細胞核のDNAの解析の結果、デニソワ人はネアンデルタール人と近縁なグループで、80万4千年前に現生人類であるホモ・サピエンスとの共通祖先からネアンデルタール人・デニソワ人の祖先が分岐し、64万年前にネアンデルタール人から分岐した人類であることが推定された[9]。デニソワ洞窟は、ネアンデルタール人化石発見地のうち最も近いイラク北部シャニダール遺跡から、約4000 kmの距離を隔てている。メラネシア人のゲノムの4-6%がデニソワ人固有のものと一致することから[10]、現在のメラネシア人にデニソワ人の遺伝情報の一部が伝えられている可能性が高いことが判明した[9]。この他、中国南部の住人の遺伝子構造の約1%が、デニソワ人由来という研究発表も、スウェーデンウプサラ大学の研究チームより出されている[11]。ネアンデルタール人と分岐した年数も、35万年ほど前との説も浮上している[2]ジョージ・ワシントン大学の古人類学者のブライアン・リッチモンドは、デニソワ洞窟で見つかった巨大臼歯からデニソワ人は体格はネアンデルタール人と同じか、それよりも大きいとみている[2]

ネアンデルタール人やデニソワ人はその後絶滅してしまったが、アフリカ土着のネグロイドを除く現在の現生人類遺伝子のうち数%はネアンデルタール人由来である。中東での現生人類祖先とネアンデルタール人との交雑を示す研究成果は2010年5月に発表されているが、2010年12月にアジア内陸部におけるデニソワ人とも現生人類祖先は交雑したとする研究結果が出たことから、この結果が正しければ、過去には異種の人類祖先同士の交雑・共存は通常のことだった可能性が出てきた[12]

なお、アジア内陸部でデニソワ人と交雑した現生人類祖先は、その後、長い期間をかけてメラネシアなどに南下していったと考えられる。また、中国方面に移住したグループは漢民族となり、高地に移住したグループはチベット人となったともされる[13]

発見された化石が少ないことから、現生人類との関連などは今後の研究により変更される可能性もある。デニソワ人の体格などの外形、生活様式、人口などはこれからの研究が待たれる点である。ただ、巨大臼歯からはがっしりした顎を持っていたことが推定されている[14]

2018年8月22日、古遺伝学者のビビアン・スロンは2012年にロシアで発見された10代の少女の化石が母がネアンデルタール人、父がデニソワ人であったと科学誌「ネイチャー」で発表した[15][16][17]

2019年9月、ヘブライ大学スタンフォード大学で研究をしているデビッド・ゴクマンにより、DNAのメチル化を調べて骨格に関する32の特徴を抽出し、デニソワ人の骨格を提案するという研究結果が発表された[18][19]。この研究によると、デニソワ人の外見は、狭い額やがっしりした顎などを持ち、ネアンデルタール人によく似た特徴を持っていた可能性がある。一方、頭頂骨の幅が広いなど、ネアンデルタール人とも異なる特徴も、見て取れるという[5]

出典

  1. 発掘はロシア科学アカデミーシベリア支部のアナトリー・デレビヤンコが率いた。
  2. Than, Ker (2010年12月24日). “デニソワ人、現生人類と交雑の可能性”. ナショナルジオグラフィック公式サイト. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3587/ 2015年11月21日閲覧。
  3. Krause, Johannes; Fu, Qiaomei; Good, Jeffrey M.; Viola, Bence; Shunkov, Michael V.; Derevianko, Anatoli P. & Pääbo, Svante (2010), “The complete mitochondrial DNA genome of an unknown hominin from southern Siberia”, ネイチャー 464 (7290): 894–897, doi:10.1038/nature08976, PMID 20336068
  4. “人類に未発見の新系統か、4万年前のシベリアに”. AFPBB News. (2010年3月25日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/092400549/ 2010年12月23日閲覧。
  5. Maya Wei-Haas (2019年9月24日). “これがデニソワ人だ DNAから骨格を再現、初”. ナショナルジオグラフィック. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5144/ 2019年9月24日閲覧。
  6. ナショナル・ジオグラフィック(2019年4月15日)「デニソワ人に別グループ、アジアでまた驚きの発見 現生人類と交配した「旧人」は多様だった、現代人のDNAで判明、インドネシア
  7. Douglas, M. M.; Douglas, J. M. (2016). Exploring Human Biology in the Laboratory. Morton Publishing Company. p. 324. ISBN 9781617313905. https://books.google.com/books?id=sHyFCwAAQBAJ&q=%22homo+denisova%22&pg=PA324
  8. Zubova, A.; Chikisheva, T.; Shunkov, M. V. (2017). “The Morphology of Permanent Molars from the Paleolithic Layers of Denisova Cave”. Archaeology, Ethnology & Anthropology of Eurasia 45: 121–134. doi:10.17746/1563-0110.2017.45.1.121-134. https://www.researchgate.net/publication/315970345.
  9. “「デニソワ人」、アジアにも分布か=5万〜3万年前―細胞核ゲノム解読・国際チーム”. 朝日新聞. 時事通信社. (2010年12月23日). オリジナルの2011年3月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110324222251/http://www.asahi.com/national/jiji/JJT201012230006.html 2011年2月14日閲覧。
  10. “現代人の祖先、別人類「デニソワ人」と交雑”. 読売新聞. (2010年12月23日). オリジナルの2010年12月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20101226175733/http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101223-OYT1T00205.htm 2015年11月21日閲覧。
  11. Owen, James (2011年10月31日). “アジアでもデニソワ人と交雑の可能性”. ナショナルジオグラフィック公式サイト. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5144/ 2015年11月21日閲覧。
  12. 人類3種が数万年も共存、デニソワ人研究で判明
  13. Ingham, Richard (2014年7月3日). “チベット人の高地適応能力、絶滅人類系統から獲得か 国際研究”. AFPBB News. https://www.afpbb.com/articles/-/3019567 2014年7月5日閲覧。
  14. ベーポ, スヴァンテ『ネアンデルタール人は私たちと交配した』野中香方子訳、文藝春秋、2015年6月。ISBN 978-4-16-390204-3。
  15. 少女の両親は、ネアンデルタール人とデニソワ人
  16. 「母はネアンデルタール人、父はデニソワ人」 ロシアで発見の化石 DNA鑑定で
  17. 母はネアンデルタール人、父はデニソワ人 DNA分析で初確認
  18. NIKKEI STYLE(2019年10月7日)「謎の古代人類 デニソワ人の骨格をDNAから復元
  19. Cell(2019年9月19日)"Reconstructing Denisovan Anatomy Using DNA Methylation Maps"

関連項目

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