ヴァレリー・ゲルギエフ

ヴァレリー・アビサロヴィチ・ゲルギエフ(Вале́рий Абиса́лович Ге́ргиев, ロシア語ラテン翻字: Valery Abisalovich Gergiev, オセット語: Гергиты (Джерджиты) Абисалы фырт Валери, 1953年5月2日 - )は、ロシアの指揮者。オセット人。2015年から2022年までミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めた。ワレリー・ゲルギエフとも表記される。

ワレリー・ゲルギエフ
Valery Gergiev
ワレリー・ゲルギエフ
基本情報
生誕 (1953-05-02) 1953年5月2日(71歳)
ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦
ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の国旗 ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国、モスクワ
出身地 ロシアの旗 ロシア
学歴 レニングラード音楽院
ジャンル クラシック
職業 指揮者
担当楽器 指揮
活動期間 1977年 -
レーベル DECCA
公式サイト valery-gergiev.ru

来歴

1953年、モスクワでオセット人の両親の家庭に生まれる。ピアニストで世界的なコレペティートゥアであるラリッサ・ゲルギエワを姉に持つ。北オセチア共和国の首都オルジョニキゼ(現在のウラジカフカス)に移り、オルジョニキゼ音楽学校を卒業後、レニングラード音楽院(現サンクトペテルブルク音楽院)でイリヤ・ムーシンに師事し、指揮法を学ぶ。同院在学中にカラヤン指揮者コンクール2位、全ソ指揮者コンクール1位の栄誉に輝く。

1977年レニングラード音楽院を卒業し、テミルカーノフの助手としてキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)の指揮者となる。

1988年、35歳でキーロフ劇場芸術監督に就任する。ソビエト連邦の崩壊の混乱期に遭遇し、ゲルギエフの劇場経営は困難を極めたが、国際的な支援を得て、ロシアの古典オペラに新たな演出法を導入した。また、多くの新人歌手(アンナ・ネトレプコなど)を発掘することにも成功し、姉のラリッサとともに、マリインスキー劇場を世界的な地位へと引き上げた。1996年には総裁に就任し、劇場の総責任者としての重責を担っている。

1990年にはロンドン公演、1992年にはニューヨーク公演を実現し、国際的な指揮者としても活躍を続けている。

日本には、マリインスキー劇場及びマリインスキー劇場管弦楽団、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団等を率いてしばしば来演している。また日本のオーケストラでは東京交響楽団(1984年、2007年、2012年)、日本フィルハーモニー交響楽団(1987年、1988年、1996年)、大阪フィルハーモニー交響楽団(1987年)、京都市交響楽団(1988年)、名古屋フィルハーモニー交響楽団(1988年)、NHK交響楽団(1996年、2002年、2009年)、読売日本交響楽団(2003年)、東京都交響楽団(2004年)、PMFオーケストラ(2004年、2006年、2015年 - )を指揮している。

2007年よりロンドン交響楽団の首席指揮者に就任する。就任時より公演活動においてはプロコフィエフの楽曲に力を入れる一方、LSO LIVEレーベルではマーラーの交響曲第6番を皮切りに、マーラーの交響曲全集の録音を行った。2011年にはプロコフィエフ『ロメオとジュリエット』の録音でBBC Music Magazine AwardsのDisc of the year賞を獲得した。

2011年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるシェーンブルン宮殿でのサマー・コンサートを指揮した。2014年2月23日に開催されたソチオリンピック閉会式では、ロシア国歌の演奏で1000人の少年合唱団を指揮した(オーケストラの指揮はユーリ・バシュメット)。

2013年1月、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団からの招聘により、2015年に首席指揮者の契約が満了するロリン・マゼールの後を受けてゲルギエフが就任することが決まり[1]、2015年9月の開幕シーズンからそのポストに就いた[2](~2022年[注釈 1])。

2022年にはロシアによるウクライナ侵攻が行われ、ロシア大統領であるウラジーミル・プーチンと30年来の親交がある(人物節を参照)ことから、所属事務所・各国の交響楽団がゲルギエフを解雇している。(後述)

同年3月25日、ゲルギエフはプーチン大統領との会食に参加。その席でプーチン大統領は解任が続くゲルギエフ(現マリインスキー劇場の芸術監督)へモスクワのボリショイ劇場の芸術監督を兼ねる案を提案した[3]。2023年12月1日、ロシア政府はボリショイ劇場の総支配人にゲルギエフを充てる人事を発表した。マリインスキー劇場の芸術監督兼総支配人との兼務となる[4]。

人物

コンサートなどを通じて国際平和を訴えたり、発言を行う機会も多い。

2004年9月、幼少から青年時に過ごした北オセチアの小学校で起こったテロ事件直後の演奏会では、チャイコフスキーの『悲愴』を涙を流しながら指揮したという[5]。

同年11月にウィーン・フィルを率いて来日した際には、サントリーホールにて「北オセチアに捧げる心の支援」と題してチャリティー・コンサートを行なったが、公演直前に新潟県中越地震が発生したため、収益の半分はこの地震の被災地に寄付された。

2008年8月にジョージア(旧呼称グルジア)が自身の出身地である南オセチアに軍事侵攻した際には、英BBCのインタビューに対して、ジョージアのサアカシュヴィリ大統領を非難する一方で、ロシアのプーチン元大統領やメドヴェージェフ大統領を支持する発言を行い、南オセチアで起こっている事実について自ら世界の要人に向けてアピールを行っていると答えた[6]。

この軍事侵攻の直後、南オセチアの州都ツヒンヴァリをマリインスキー劇場管弦楽団を率いて訪れ、南オセチア紛争の犠牲者を追悼するコンサートを指揮した[7]。この時にもチャイコフスキーの『悲愴』を演奏している。

また、ゲオルク・ショルティが「音楽が持つ、平和の使節としての特別な力」を体現化するべく国連創設50周年を記念して設立したワールド・オーケストラ・フォア・ピースの指揮者に、ショルティの遺志を引き継いで1997年から就任している[8]。エサ=ペッカ・サロネンによる管弦楽曲「ヘリックス」は、ゲルギエフが友人であるサロネンに、同オーケストラのために作曲することを提案した委嘱作品である[9]。

エピソードなど

  • ゲルギエフは、その独特かつ細やかな指揮のため、指揮棒を持たないことも間々あるが、時に爪楊枝のような極小の指揮棒を持って指揮することもある。

2022年ロシアのウクライナ侵攻の影響

米紙ニューヨーク・タイムズによると、ゲルギエフはプーチン大統領の30年来の友人であり、過去、再三にわたり支持を表明。2012年のロシア大統領選のテレビ広告にも出演しプーチン大統領を肯定的に評価していた[10]。2022年ロシアのウクライナ侵攻に際してもゲルギエフはプーチン大統領を支持し、頑なにノーコメントを貫いた。その結果、ロシアの侵攻に反対する各国の交響楽団等から、ゲルギエフの解雇や解任が相次いだ。以下、その例を挙げる。

解雇・辞任

  • 2022年2月27日 所属事務所はゲルギエフを解雇[11][12]。所属事務所社長は「あらゆる芸術は政治的だが、あらゆる芸術家が政治家であるとは限らない」と踏まえつつ、「戦争を起こした独裁政権に、直接的にも間接的にも利することを知りながら、拒絶の意を示さない芸術家にプロ(のマネジメント)としてこれ以上奉仕することはできない」とした[13]。
  • スイスのヴェルビエ音楽祭の事務局はゲルギエフに祝祭管弦楽団の音楽監督の辞任を求め、受諾された[14]。
  • ドイツ・ミュンヘン市とオランダのロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団はそれぞれ、ゲルギエフに「ウクライナでのプーチン大統領の行動から公然と距離を置くように」などと反対の意を明確に表明するよう求めたが[15]、ゲルギエフは沈黙。これを受けて、3月1日、首席指揮者を務めていたミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団がゲルギエフを解雇[16][17]。ミュンヘンのライター市長はゲルギエフの解雇について、「オーケストラや聴衆、市民、市政へ(プーチン大統領に対する評価の)明確な意思表示がなければ、一緒に活動を続けることはできなかっただろう」とした[18]。同日、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団はゲルギエフとのコンサートと ゲルギエフ・フェスティバルを行わないことを発表[15][19]。
  • 同年10月13日、スウェーデン・アカデミーは2011年から外国人名誉会員であったゲルギエフを追放した[20]。「核戦争を脅かす政権を支持する人物と関わることはできない」ことを理由としている。10月10日の会議で全会一致で決定しており、ゲルギエフは機会を与えられたが話さないことを選んだという[21]。

出演中止・公演キャンセルなど

  • 同月17日、熊本県立劇場で予定されているマリインスキー歌劇場管弦楽団の公演が中止となる可能性があると報じられた。主催者側はロシアの音楽家であることを理由としておらず、「不安定な国際情勢の影響で来日が実現しない恐れがある」として、プロモーターと協議中であるとしている[23]。同年5月17日に熊本県立劇場は理事会を開き、公演中止を決定、発表した[24]。
  • 2022年4月17日深夜、NHK-BSPの番組『プレミアムシアター』で放送予定されていた、ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィルの演奏会(2021年10月8日、於ミュンヘン、イザール・フィルハーモニー)は差し替えになった。

評伝

ジョン・アードイン、亀山郁夫訳、音楽之友社、2006年

脚注

注釈

出典

  1. “Valery Gergiev becomes new principal conductor of the Munich Philharmonic Orchestra” (英語). ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団. 2013年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月7日閲覧。
  2. “Eröffnungskonzert mit Valery Gergiev” (ドイツ語). ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団. 2015年9月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月7日閲覧。
  3. “PUTIN ORDERS GERGIEV TO TAKE OVER THE BOLSHOI(2022年3月25日)”. SLIPPER DISC NEWS. 2022年3月25日閲覧。
  4. “ボリショイ劇場トップ更迭 反戦理由か、後任にゲルギエフ氏―ロシア政府”. 時事通信. (2023年12月1日). https://www.jiji.com/amp/article?k=2023120101076 2023年12月3日閲覧。
  5. 「月刊オーケストラ」読売日本交響楽団、2005年1月号
  6. 英BBC公式サイト - ワレリー・ゲルギエフインタビュー「私はすべての平和を願っている(ロシア語)
  7. ゲルギエフが追悼コンサート 南オセチアの州都で犠牲者悼む
  8. ワールドオーケストラフォアピース公式webサイト - オーケストラについて
  9. エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 — Fuji-tv ART NET
  10. “ウイーンフィル公演、指揮者が急きょ交代 プーチン氏の長年の友人”. 朝日新聞デジタル (2022年2月25日). 2022年2月25日閲覧。
  11. “https://twitter.com/felsnerartists/status/1497886216922050562”. Twitter. 2022年3月11日閲覧。
  12. 千原賢美. “沈黙貫くロシアのクラシック指揮者、プーチン支持表明のオペラ歌手、世界中で排除 2/4”. ビジネスジャーナル/Business Journal | ビジネスの本音に迫る(2022年3月10日). 2022年3月11日閲覧。
  13. “ゲルギエフ氏降板で考える、ロシア芸術と政治 「二つの仮面」の宿命:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル(2022年3月10日). 2022年3月11日閲覧。
  14. “ゲルギエフ氏パリ公演中止 スイスで音楽監督辞任も:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web(2022年3月1日). 2022年3月20日閲覧。
  15. “ロッテルダム発 〓 音楽界でウクライナへの連帯表明広がる、ロッテルダム・フィル、バーデン=バーデン音楽祭もゲルギエフにプーチン大統領との決別を要求 | 月刊音楽祭”. m-festival.biz (2022年2月25日). 2022年3月14日閲覧。
  16. “ミュンヘン・フィル首席指揮者のゲルギエフ氏解雇 プーチン氏と親交”. 朝日新聞社. 2022年3月2日閲覧。
  17. “ロシア人の世界的指揮者 ゲルギエフ氏解任 ドイツ ミュンヘン”. NHK. 2022年3月2日閲覧。
  18. “Termination of relationship with Valery Gergiev” (英語). www.rotterdamsphilharmonisch.nl. 2022年3月14日閲覧。
  19. “Las Filarmónicas de Munich y Rotterdam despiden a Gergiev por no condenar la invasión” (スペイン語). La Vanguardia (2022年3月1日). 2022年3月14日閲覧。
  20. Lopez, Louis-Valentin (2022年10月14日). “Valery Gergiev exclu de l'Académie royale de musique suédoise” (フランス語). France Musique. 2022年10月18日閲覧。
  21. “Valery Gergiev utesluts som ledamot i Kungl. Musikaliska Akademien - Kungliga Musikaliska Akademien” (スウェーデン語). www.musikaliskaakademien.se (2022年10月12日). 2022年10月18日閲覧。
  22. “ウイーンフィル公演、指揮者が急きょ交代 プーチン氏の長年の友人”. 朝日新聞デジタル (2022年2月25日). 2022年2月25日閲覧。
  23. “ロシア出身指揮者ゲルギエフ氏の公演、中止の可能性 熊本県立劇場(2022年3月17日)”. ORICON NEWS. 2022年3月20日閲覧。
  24. “ロシア出身、ゲルギエフ指揮の公演中止に 県劇|熊本日日新聞社”. 熊本日日新聞社 (2022年5月17日). 2022年6月19日閲覧。

外部リンク

先代
ダヴィッド・ハンジアン
アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
音楽監督
1982年 - 1988年
次代
ロリス・チェクナヴォリアン
先代
 
メトロポリタン歌劇場
首席客演指揮者
2007年 - 2010年
次代
ファビオ・ルイージ
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