走出去

走出去(ゾウチュチィ、拼音: Zǒuchūqù、英語:Go Global)とは、中華人民共和国が積極的に支持している海外の投資戦略のことである。多くの国々が外国からの資本受け入れ(中国語引進来引进来、インジンライ、拼音: Yǐnjìnlái[1])に躍起になり、海外への投資に消極的であるのに対し、中国は外資導入と対外投資に積極的である。走出去戦略の略称として「走出去」と呼ぶ。

第8届走出去戦略論壇

理由

中国が走出去戦略を行う主因は以下の三つであった。

  1. 中国の世界最大の外貨準備高。これにより、人民元は切り上げ圧力にさらされており、国際世論は変動相場制の採用を要求している。巨額の外貨準備を有効に活用するために、中国は海外の優良資産を購入している。
  2. 中国が改革開放を実施、2001年には世界貿易機関に加盟したことにより、市場開放が進んだ。その結果、世界の優良企業が中国市場に参入すると中国政府は予想した。そこで、中国企業が海外から先進的な技術や経営ノウハウを学ぶことで中国企業が、競争に生き残れるようにするため。
  3. 中国が世界トップクラスの企業を持つべきだという、国家の威信。

歴史

走出去戦略は1999年、中国政府が海外投資を推進したことにより始まる[2]。中国政府と中国国際貿易促進委員会(zh / en, CCPIT)は、中国企業が中国市場及び海外市場で発展するための国際的戦略を支持する政策を打ち出した。政策の主要なポイントは以下の五つである。

  1. 中国の直接対外投資の増加
  2. 製品の多様化
  3. プロジェクトの質の改善
  4. 中国市場における融資チャネルの改善
  5. EU及び米国市場における、中国企業のブランドの向上

走出去戦略実施後、中国企業とりわけ国有企業の海外投資は増加した。1991年に30億元に過ぎなかった対外投資は、2003年に350億元[3]、2007年には920億元に達した[4]。中国政府の支持のもと、対外投資は増加し、中国は低廉かつ豊富な労働力により「世界の工場」となった。

国有企業改革の一環として、中国政府は国務院国有資産監督管理委員会zh / en, SASAC)を設立した。国務院国有資産監督管理委員会は中国の証券市場を改革し、中国の対外投資をサポートした。国務院国有資産監督管理委員会の役割は以下の五点である。

  1. 国有企業の監督と評価
  2. 国有企業の監督
  3. 経営上層部の採用
  4. 中国における競争法の改善
  5. 法律による地方の国有企業の調整

国務院国有資産監督管理委員会は北京財産権取引所北京产权交易所en, CBEX)[5]など四つの取引所を運営している。とりわけ、北京財産権取引所は、米、の三国共同により設立された。ミラノ財産権取引所zh / en / it, CMEX)[6]2007年ミラノに設立され、北京財産権取引所初の海外パートナーとなった。ミラノ財産権取引所は中国企業がイタリアをはじめヨーロッパ諸国に進出する際の橋渡しの役割を担っている。800人以上の弁護士を抱える中国最大の法律事務所である金杜(King & Wood)は日本とアメリカに支店を開設した。600人以上のスタッフを抱える国浩弁護士事務所(Grandall Legal Group)[7]は中国企業がヨーロッパに進出するのを支援するためにヨーロッパに弁護士事務所を構え、また、卡罗尼(Carone & Partners)が国浩弁護士事務所のパートナーとなった。

走出去戦略の事例

走出去戦略の事例として主なものに以下のものがある。

年月 投資主体 投資対象国 投資対象企業 結果
2004年8月上海電気集団日本の旗日本池貝2001年に民事再生法を申請した、元東証大証上場企業の工作機械メーカーである池貝は上海電気集団から第三者割当増資を受け、経営再建を図る。買収金額4.8億円、20億円を資金援助[8][9][10]
2005年5月聯想集団アメリカ合衆国の旗アメリカIBMパソコン部門IBMパソコン事業をすべて買収
推定買収金額17億5000万ドル[9]
2005年5月CNOOCアメリカ合衆国の旗アメリカユノカル185億ドルの買収提案、失敗。
2005年7月南京汽車イギリスの旗イギリスMGローバー経営破綻したMGローバーを推定5000万UKポンドで買収[9]
2005年10月CNOOCカザフスタンの旗カザフスタンペトロカザフスタンen41億8000万ドルで買収、日量15万バレル[9]
2007年5月中国投資有限責任公司(CIC)アメリカ合衆国の旗アメリカブラックストーン・グループ30億ドルの出資[9]
2007年12月中国投資有限責任公司アメリカ合衆国の旗アメリカモルガン・スタンレーサブプライム・ローンによる巨額の損失で苦しむモルガン・スタンレーに50億ドル出資[9]
2008年9月中聯重科イタリアの旗イタリアCifa買収し、世界最大のコンクリート機械メーカーに[11]
2009年2月中国鋁業オーストラリアの旗オーストラリアリオ・ティント195億ドルの出資の計画[12]も6月に契約破棄され、失敗[13]
2009年2月湖南華菱鋼鉄集団オーストラリアの旗オーストラリアフォーテスキュー・メタルズ・グループ鉄鉱石が目的
出資比率16.5%
投資額5億5800万AUD[14]
2009年4月中国五鉱集団zhオーストラリアの旗オーストラリアOzミネラルズen亜鉛など金属が目的
出資比率 NA
投資額13億8600万AUD[14]
2009年5月中国有色鉱業集団オーストラリアの旗オーストラリアライナスレアアースが目的
出資比率51.6%
投資額2億5200万AUD[14]
2009年6月蘇寧電器日本の旗日本ラオックスラオックスは蘇寧電器の傘下に入り、経営再建を図る。
2009年6月四川騰中重工機械アメリカ合衆国の旗アメリカGMハマーブランドハマーブランドの譲渡に暫定合意し、10月正規に合意後、交渉も[15]
中国商務部が2010年2月24日までに買収計画を却下、
四川騰中は新しい方法で買収を模索とのこと[16]
2009年6月有色金属華東地質勘査局オーストラリアの旗オーストラリアアラフラ・リソーシズレアアースが目的
出資比率25%
投資額2294万AUD[14]
2009年7月西北有色地質勘査局オーストラリアの旗オーストラリアメリディアン・リソーシズ亜鉛が目的
出資比率15%
投資額1050万AUD[14]
2009年8月兗州煤業zhオーストラリアの旗オーストラリアフェリックス・リソーシズ石炭が目的
出資比率100%
投資額35億AUD[14]
2009年9月広東核電集団オーストラリアの旗オーストラリアエナジー・メタルズウランが目的
出資比率70%
投資額8360万AUD[14]
2010年4月比亜迪汽車(BYD)日本の旗日本オギハラBYDがオギハラの群馬県館林市にある工場を買収。オギハラのハイレベルの金型技術獲得が目的[17]
2010年7月山東如意科技集団有限公司日本の旗日本レナウンレナウンは山東如意科技集団有限公司から第三者割当増資約40億円を受け、山東如意科技集団有限公司の傘下に入り、経営再建を図る[18][19]
2010年8月浙江吉利控股集団スウェーデンの旗スウェーデンボルボ・カーズフォード・モーターより買収。浙江吉利は8月2日、現金13億ドルを支払い、買収関連で証券2億ドルを発行[20]
2010年12月中国航空工業集団アメリカ合衆国の旗アメリカコンチネンタル・モーターステレダインより買収[21]

表外にも中国の三大国有石油企業(中国石油天然気集団公司(CNPC、子会社に中国石油天然気(ペトロチャイナ))、中国石油化工(Sinopec、子会社に中国石油化工集団公司(シノペック))、中国海洋石油総公司(CNOOC)は旧ソ連諸国(ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャンなど)、中東イラクイランサウジアラビアシリアなど)、アフリカ諸国(エジプトスーダンリビアアルジェリアナイジェリアアンゴラなど)、北中南米(メキシコカナダベネズエラエクアドルブラジルなど)に多くの利権獲得をしている[22]

中国企業による対外投資は、それまでは発展途上国などの資源分野に集中していたが、先進国の先端技術やブランドをもつ企業に広がってきた[23]。例えば、安邦保険集団がニューヨークの最高級ホテルであるウォルドルフ=アストリアを買収した例、TCL集団テレビRCAスマートフォンBlackBerryなどのブランドを取得した例、大連万達集団レジェンダリー・ピクチャーズAMCシアターズなどアメリカの映画業界を買収した例、中国化工集団がイタリアの高級タイヤの会社であるピレリスイスの農薬大手企業のシンジェンタを買収した例、紫光集団や華潤集団が米国のマイクロン・テクノロジーウェスタン・デジタルフェアチャイルドセミコンダクター[24]など半導体大手に対して出資を持ちかけた例[25]テンセントライアットゲームズなど欧米のゲーム大手を買収した例、アメリカ電機大手のゼネラル・エレクトリックの家電部門を海爾集団が買収した例、吉利汽車海航集団美的集団ドイツの自動車大手ダイムラードイツ銀行産業用ロボット大手クーカの筆頭株主になった例[26][27][28]などが挙げられる[23]

日本でも中国の政府系ファンド[29][30][31][32][33]とされるOD05オムニバスチャイナトリーティによってトヨタ自動車など200社前後もの日本企業の大量株取得が起きており、東芝は家電事業を美的集団や海信集団に買収され、日本の製造業で戦後最大の経営破綻をしたタカタも中国企業の米国子会社を通じて買収され[34]、事実上の国策企業だったジャパンディスプレイ中国台湾の企業連合による買収を受け入れ[35]IBMのPC事業を買収した聯想集団はNEC富士通ともPC事業で統合するなど技術力を持つ日本企業への投資も進んでる[36]。日本の技術力に興味を持つ胡錦濤指導部[37]や「産業の高度化」を国策に掲げる習近平指導部の意向も働いているとされる[23]

中国商務省によると、2015年の中国企業の対外直接投資額(金融を除く)は、1180億ドル(約14兆円)となり、前年比で15パーセント増加し、過去最高を記録した[23]。足元の国際経済の減速が続く中、それでも対外投資の拡大に動く背景には、技術力やブランド力を高めないと、成長維持がおぼつかないとの危機感があるとされる[23]。企業買収の専門サイトディーロジックによると、2015年の中国企業による外国企業の買収案件は約600件であり、金額は計1123億ドルで、2014年を5割以上も上回って過去最高であった[38]。中国経済の伸びが鈍るなかで、企業は国外でも利益をあげることの必要性を意識している[38]。元安傾向が続くなか、「さらなる下落の前に買おうとする心理も働いている」との分析もある[38]。また、中国企業の外国企業の買収の特徴として、現地市場での経験や販売ルートをより早く確実に手に入れようと、業界の常識を上回る買収金額を示すことがある[38]

諸外国の対応

アメリカと敵対的なイラン、スーダン、ベネズエラなど反米を掲げる諸国[22]にまで中国の対外投資は拡大していることもあり、権益をめぐっての対立が発生している。また、オーストラリアのように、中国の投資を歓迎する一方で資源権益取得に規制をかける動きも出てきている[14]2010年、日本も中国企業に対抗するために、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法改正により、日本企業が権益を取得する場合、その5割以下の範囲でJOGMECが出資できるようにしていこうとしている[39]

脚注

  1. 経済新語辞典”. 日本経済新聞. 2010年2月20日閲覧。
  2. 更好地実施“走出去”戦略”. 中華人民共和国中央人民政府 (2006年3月15日). 2010年2月20日閲覧。(中国語)
  3. UN report: China becoming major investor abroad”. 人民日報 (2004年1月7日). 2010年2月20日閲覧。(英語)
  4. China's direct investments abroad top $92b by 2007”. China Daily (2008年4月17日). 2010年2月20日閲覧。
  5. http://www.cbex.com.cn/
  6. http://www.cmex.it/
  7. http://www.cplex.it/
  8. 池貝、会社沿革”. 池貝. 2010年10月26日閲覧。
  9. 週刊ダイヤモンド 2008年5月3日/10日合併号
  10. 朱(2007)p.24
  11. 中聯重科、世界金融危機のさなか、最大のセメント機械製造メーカーに(中聯重科危機時成最大混凝土機械製造供応商)”. 中国工程機械 (2009年5月11日). 2010年2月20日閲覧。(中国語)
  12. 中国アルミ追加出資の波紋”. 日経ビジネスオンライン. 2009年11月28日閲覧。
  13. Update on Chinalco Transaction - Updated 5 June 2009”. Rio Tinto (2009年6月5日). 2009年11月28日閲覧。(英語)
  14. 「豪、資源権益取得に規制」日本経済新聞 (2009-09-30)
  15. 四川騰中重工のGM「ハマー」買収に遅れ 政府認可が難航”. 日本経済新聞 (2010年2月2日). 2010年2月20日閲覧。
  16. 中国政府、中国社によるGM「ハマー」買収計画を却下”. 日本経済新聞 (2010年2月25日). 2010年2月27日閲覧。
  17. 中国BYDが日本金型工場買収へ”. 京都新聞社 (2010年3月27日). 2010年10月26日閲覧。
  18. 資本業務提携、第三者割当による新株式発行及び基準日設定_並びに主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ”. レナウン (2010年5月24日). 2010年10月16日閲覧。
  19. 第三者割当による新株式発行の払込完了に関するお知らせ”. レナウン (2010年7月30日). 2010年10月16日閲覧。
  20. 中国の浙江吉利、ボルボ買収を完了-米フォードから”. Bloomberg (2010年8月2日). 2010年8月4日閲覧。
  21. AvWeb Staff (December 2010). "Teledyne-Continental Bought by Chinese Interests". AvWeb.
  22. 柴田(2007)pp.154-194 中国3大国有石油企業の利権には関してはp.158 表4-2 中国3大石油企業による海外進出事例が詳しい(出典の大元は資源エネルギー庁)。
  23. 日本経済新聞2016年2月4日朝刊第3面「中国、先進国企業に照準 知財・ブランド狙う」
  24. 中国企業による米国企業の「爆買い」続く”. WSJ (2016年3月15日). 2017年8月4日閲覧。
  25. 中国、野望頓挫か…海外企業「爆買い」失速、悲願の半導体量産が大金積んでも失敗”. ビジネスジャーナル (2016年4月20日). 2017年8月4日閲覧。
  26. “中国企業が大手投資銀の筆頭株主に 海航集団 米メディア報道 共産党幹部らの関与あるのか”. 産経ニュース. (2017年5月24日). https://www.sankei.com/article/20170524-5ZN7TSJ2E5OG3FLDNTY3WTOTYU/ 2018年8月23日閲覧。
  27. 中国・吉利、ダイムラー株1割取得 筆頭株主に (2018年2月24日). 2018年8月23日閲覧。
  28. 中国企業に買われたKUKA、その戦略とは”. 日経BP (2016年9月28日). 2017年8月4日閲覧。
  29. トヨタにドコモ、日立も 中国系ファンドに買われた日本企業238社の行方”. ビジネスジャーナル (2012年10月5日). 2018年8月23日閲覧。
  30. 最新データをスクープ入手 中国政府が「買っていた」日本株「売っていた」日本株 驚きの有名企業30社”. 週刊現代 (2013年7月9日). 2018年8月23日閲覧。
  31. 日本企業大株主、姿消す中国マネー 名義変更?投資額ピークの33分の1に (1/2ページ)”. フジサンケイ ビジネスアイ (2014年6月26日). 2018年8月23日閲覧。
  32. 中国系ファンドが投資する日本企業269社 社名 保有額 (PDF). 東洋経済新報社. 2018年8月23日閲覧。
  33. 中国政府系ファンド、トヨタなど日本企業174社で大株主に”. AFP (2012年6月28日). 2018年8月23日閲覧。
  34. タカタが民事再生法申請へ中国“爆買い”新興企業の高笑い”. 週刊ダイヤモンド (2017年7月1日). 2017年8月4日閲覧。
  35. JDI、金融支援800億円受け入れ発表 台中連合と合意”. 日本経済新聞 (2019年4月12日). 2019年4月12日閲覧。
  36. 中国企業が日本に投資する時代が到来?―中国メディア”. Record China (2017年7月24日). 2017年8月4日閲覧。
  37. 徹底調査!中国に買われた「日本の一流企業」86社”. 週刊現代 (2011年1月25日). 2018年8月23日閲覧。
  38. 朝日新聞2016年3月16日朝刊第3面「中国企業、世界で買収攻勢」
  39. JOGMEC法改正で資源獲得支援へ-立ちはだかる巨象「中国」”. Bloomberg (2010年1月28日). 2010年2月20日閲覧。

参考文献

  • 朱炎「アジア企業の対日投資戦略と日本の誘致策」『富士通総研経済研究所 研究レポート』第293号、富士通総研経済研究所、2007年6月。
  • 柴田明夫『エネルギー争奪戦争』PHP研究所、2007年。ISBN 978-4-569-69220-3。

関連項目

外部リンク

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