2019年アフガニスタン大統領選挙

2019年アフガニスタン大統領選挙(2019ねんアフガニスタンだいとうりょうせんきょ)は、2019年に行われたアフガニスタン・イスラーム共和国の大統領を選出する選挙である。

2019年アフガニスタン大統領選挙
アフガニスタン
2014年 ←
2019年9月28日
→ 2024年

 
候補者 アシュラフ・ガニーアブドラ・アブドラ
政党 無所属アフガニスタン国民連合
副大統領候補者 アムルラ・サレ、
サルワール・ダーニシュ[1][2]
Enayatullah Babur Farahmand、
Asadullah Sadati[1][2]
得票数 923,592720,841
得票率 50.64%39.52%

地域別投票結果

選挙前大統領

アシュラフ・ガニー
無所属

選出大統領

アシュラフ・ガニー
無所属

2019年9月28日に第1回投票が行われた[3]。

選挙準備

2018年11月、アフガニスタンに関するジュネーブ閣僚級会合が行われ、「2018年の下院選挙の経験を踏まえ,2019年の大統領選挙を含む今後の選挙プロセスの準備を進める」ことを決めた[4]。同日、独立選挙委員会はアシュラフ・ガニー大統領とアブドラ・アブドラ行政長官の国家統一政府(NUG)の任期が2019年5月に終了するため、大統領選挙を2019年4月20日に行うと発表した[5]。しかし12月、独立選挙委員会は下院議員選挙の混乱やターリバーンとの和平交渉を考慮し、2019年7月20日に選挙を延期した[6]。2019年2月、独立選挙委員会が18人の立候補者を発表したが[7]、2018年の下院議員選挙の結果を未だに確定できない独立選挙委員会に対する不信が高まった[8]。同月、ガニー大統領が選挙法を改正して独立選挙委員会の全委員を解任し、大統領候補による投票によって新委員を選出した[9]。またこの頃、ガニー大統領やアメリカ合衆国のザルメイ・ハリルザド特別代表は選挙前にターリバーンとの間で和平協定を締結したいと考えていた[10][11]。3月、ガニー大統領が独立選挙委員会の委員を承認し[12]、委員長にハワ・アラム・ヌーリスタニ(Hawa Alam Nuristani)を選出した。ハワ委員長は元下院議員でテレビ番組の司会者などを務める女性である[13]。同月、独立選挙委員会は下院議員選挙で使用したドイツのダーマログ社製(Dermalog)の生体認証端末を大統領選挙でも使用することにした[14]。また独立選挙委員会は選挙の実施を9月28日に延期し、州議会選挙と郡議会選挙を同時に行うと発表した[15]。4月、独立選挙委員会は州議会選挙と郡議会選挙を含めた選挙費用として2億700万ドルを計上したが[16]、国連アフガニスタン支援ミッション代表の山本忠通などが大統領選挙の確実な実施のために地方選挙の同日実施に反対した[17]。5月、独立選挙委員会は州議会選挙と郡議会選挙の実施を翌年に延期し、大統領選挙のみを行うと発表した[18]。同月、ターリバーンとの和平を話し合う国民大会議(ロヤ・ジルガ)が開催され[19]、3200人が集まってターリバーンに停戦を呼び掛けたが、ターリバーンに拒否された[20]。6月8日に有権者登録が開始され[21]、7月28日に選挙運動が解禁された[22]。同日、ガニー大統領の副大統領候補であるアムルッラー・サレーの選挙事務所で爆弾が爆発し、アムルッラー候補が負傷した[23]。8月、ターリバーンは市民に対して選挙集会は攻撃対象になるため参加を控えるように呼び掛けた[24]。同月、ムハンマド・ハニーフ・アトマル候補が選挙戦から撤退し[25]、選挙日までに合計5人の候補が選挙戦から撤退した[26]。9月1日、ターリバーンとアメリカ合衆国の和平交渉が大詰めを迎えた[27]。しかし交渉のさ中、カブールで自爆テロがあり米兵が死亡した[28]。トランプ大統領は交渉中の攻撃を問題視し、9月7日に「和平交渉は死んだ」と表明し、キャンプ・デービッドで予定されていたターリバーンとの秘密会談を取りやめた[29]。一説によるとトランプ大統領はターリバーンと協定を結んでも、現場指揮官が従うかどうか分からないと考えていると言う[30]。9月17日、ガニー大統領が出席するパルヴァーン州の選挙集会をターリバーンが攻撃して多数の死傷者が出た[31]。

選挙実施

選挙資格のある約1200万人のうち、約960万人が有権者登録を行った[26]。2万6580か所の投票所が設けられ[32]、警備の治安軍は7万2000人に及んだ[26]。9月28日午前7時、ターリバーンの攻撃により市中が騒然とする中で34州で投票が始まった[26]。投票は15時までの予定だったが、17時まで延長された[33]。

投票数

独立選挙委員会によると約260万人が投票を行った[34]。2014年の大統領選挙(約660万人)[34]や2018年の下院議員選挙(約420万人)[35]と比べると投票数は非常に少なかった。

民間人の被害

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、有権者登録を開始した6月8日から選挙日前日の9月27日までの民間人の死傷者は死亡57人・負傷123人の合計180人だった。被害者の大半は7月28日のカブールや9月17日のパルヴァーン州の自爆テロであり、150人以上が死傷した[24]。

選挙日の28日の死傷者は死亡85人・負傷373人の合計458人に及び、うち民間人の死傷者は死亡28人・負傷249人の合計277人だった。ターリバーンは投票を妨害するために、投票所から遠く離れた市街地を無差別に攻撃し、多くの女性や子供を殺害した[24]。一方、イスラム国(ISIS-K)は攻撃を行わなかったようである[24]。多くの死傷者が出たものの、2018年の下院議員選挙の死傷者数(931人)[35]と比べると民間人の死傷者は約半分だった。

選挙結果

開票

10月、独立選挙委員会は第1回投票の結果発表が遅れると発表し[36]、その後11月14日に発表すると発表した[37]。独立選挙委員会によると全国から回収した生体認証端末から投票データをサーバーに移転しているが[38]、サーバーに対してクラッキングが行われた為に作業に遅延が出ていると言う[39]。また生体認証端末に記録された得票のうち13万票がシステムにより隔離された原因をダーマログ社が調査した所、投票所の係員の誤操作によるものと判明した[40]。11月、アブドラ行政長官の選挙チームは投票の中にはサーバーで隔離されている票(13万7630票)、選挙日以外に投票された票(10万2012票)、生体認証を使用せずに投票された票[41]、同じ写真を使いまわしたり、写真の中に写っている写真で本人確認をした票、紛失したはずの生体認証端末やメモリカードを使用して投票した票(約7万票[41])などの不正投票が含まれており、不正投票の数は30万票に達すると断じた[42]。同月14日、独立選挙委員会は予定されていた発表を延期した[43]。ハマ委員長によると、独立選挙委員会は2万6580か所中8494投票所(約32%)の票の数えなおしを行おうとしているが、候補者の大半(10人)が反対している。候補者たちは特に怪しい約8000か所の投票所の票を得票として加算しないように求め[41]、数えなおしの前に不正票を除去するように要求し、15州で票の数えなおしを拒否した[32]。しかし独立選挙委員会は票を数えなおし得票として扱う方針を変えなかった[44]。12月に入っても独立選挙委員会と候補者たちの折り合いはつかず、34州中7州の票の数えなおしが中断したままだった[45]。

結果の確定と混乱

2019年12月22日、独立選挙委員会は投票結果を発表した。ガニーの得票率は50.64%、アブドラの得票率は39.52%だった[46]。2020年2月18日、独立選挙委員会はアブドラの異議を認めず、暫定結果のとおり過半数を超えたガニーの再選が確定した[47]。しかしアブドラは納得せず、3月9日ガニーとアブドラがそれぞれ大統領就任を宣言した[48][49]。3月24日、アメリカ合衆国のマイク・ポンペオ国務長官がカブールを訪問し、ガニーとアブドラの仲裁に当たったが上手く行かなかった[50]。5月17日にガニーとアブドラは新政権樹立で合意し、権限を両者で分け合うこととしたほか、アブドラは新設される国家和解高等評議会の議長に就任し、ターリバーンとの和平交渉を主導することとなった[51]。

候補者

立候補者

18人が立候補したが[52][53]、選挙日までに5人の候補が選挙戦から撤退した[26]。

選挙戦から撤退した立候補者

脚注

  1. “Afghan election: Tense wait after day of attacks” (英語). BBC News. (2019年9月29日). https://www.bbc.com/news/world-asia-49794057 2020年4月23日閲覧。https://www.bbc.com/news/world-asia-49794057
  2. Akhgar, Tameem; Gannon, Kathy (2019年9月28日). “Top 5 Afghan presidential candidates in Saturday's election”. Associated Press. https://apnews.com/28bd4a495dca4e508c2eafc3ce62deb3 2020年4月23日閲覧。https://apnews.com/28bd4a495dca4e508c2eafc3ce62deb3
  3. “アフガニスタン大統領選、厳戒の中投票=現職ガニ氏優位か”. 時事通信社 (2019年9月29日). 2019年10月5日閲覧。
  4. “アフガニスタンに関するジュネーブ閣僚級会合”. 外務省 (2018年12月30日). 2019年11月16日閲覧。
  5. “IEC Announces Presidential Elections Timeline” (英語). TOLOnews (2018年11月28日). 2019年11月28日閲覧。
  6. “Afghanistan to delay presidential election to July: election body” (英語). Reuters. (2018年12月30日). https://www.reuters.com/article/us-afghanistan-election-idUSKCN1OT0FR 2019年11月16日閲覧。
  7. “IEC Announces Preliminary List Of Presidential Candidates” (英語). TOLOnews (2019年2月5日). 2019年11月16日閲覧。
  8. “Afghanistan probes election commissions after firings” (英語). ABC News (2019年2月13日). 2019年11月16日閲覧。
  9. “New Commissioners To Be Selected By Week’s End” (英語). TOLOnews (2019年2月23日). 2019年11月16日閲覧。
  10. “Govt, Taliban Talks to Start in a Few Months: Daudzai” (英語). TOLOnews (2019年2月20日). 2019年11月16日閲覧。
  11. “US Envoy Seeks Peace Deal Before July Vote” (英語). TOLOnews (2019年2月9日). 2019年11月16日閲覧。
  12. “Ghani Appoints New Election Commissioners” (英語). TOLOnews (2019年3月3日). 2019年11月16日閲覧。
  13. “New Heads Of Election Commissions Elected” (英語). TOLOnews (2019年3月5日). 2019年11月16日閲覧。
  14. “IEC To Use Same Biometric Devices In Presidential Elections” (英語). TOLOnews (2019年3月22日). 2019年11月16日閲覧。
  15. “IEC Announces New Election Date: September 28” (英語). TOLOnews (2019年3月20日). 2019年11月16日閲覧。
  16. “Presidential Elections Will Cost $207 Million: IEC” (英語). TOLOnews (2019年4月12日). 2019年11月16日閲覧。
  17. “Yamamoto Calls For Separate Holding Of Upcoming Elections” (英語). TOLOnews (2019年5月19日). 2019年11月16日閲覧。
  18. “IEC Will Only Hold Presidential Elections In September: Nuristani” (英語). TOLOnews (2019年5月29日). 2019年11月16日閲覧。
  19. “アフガン、和平進展見通せず=「国民大会議」も成果なし:時事ドットコム”. 時事ドットコム (2019年5月13日). 2019年11月16日閲覧。
  20. “Abdullah Does Not See ‘Anything New’ In Jirga Resolution” (英語). TOLOnews (2019年5月4日). 2019年11月18日閲覧。
  21. “Voter Registration Begins Countrywide: Nuristani” (英語). TOLOnews (2019年6月8日). 2019年11月16日閲覧。
  22. “Afghanistan Presidential Election Campaign Begins” (英語). TOLOnews (2019年7月28日). 2019年11月16日閲覧。
  23. “【アフガニスタン】 選挙事務所に攻撃、トルコが非難声明 | TRT 日本語”. www.trt.net.tr (2019年7月30日). 2019年11月16日閲覧。
  24. “Special Report on 2019 Elections Violence”. UNAMA. 2019年11月16日閲覧。
  25. “Why Atmar’s Election Campaign Suspended?” (英語). TOLOnews (2018年8月9日). 2019年11月16日閲覧。
  26. “Voting Begins In Afghanistan’s Presidential Election” (英語). TOLOnews (2019年9月28日). 2019年11月16日閲覧。
  27. INC, SANKEI DIGITAL (2019年9月1日). “アフガン和平協議、9回目も合意至らず 米とタリバンは「交渉進展」を強調”. 産経ニュース. 2019年11月16日閲覧。
  28. 「トランプ米大統領、タリバンとの和平交渉は「死んだ」」『Reuters』、2019年9月9日。2019年11月18日閲覧。
  29. “トランプ米大統領、タリバンとの和平交渉は「死んだ」” (英語). (2019年9月10日). https://www.bbc.com/japanese/49644095 2019年11月16日閲覧。
  30. “米大統領、タリバンとの「秘密会談」中止 米兵死亡の爆破受け” (英語). (2019年9月9日). https://www.bbc.com/japanese/49630856 2019年11月17日閲覧。
  31. “【アフガニスタン】 同時多発攻撃:ガニー・アフガン大統領出席の集会も標的に | TRT 日本語”. www.trt.net.tr (2019年9月17日). 2019年11月16日閲覧。
  32. “IEC Chief Calls for Patience on Vote Recount” (英語). TOLOnews (2019年11月12日). 2019年11月16日閲覧。
  33. “Voting Extended To 5pm: Commissioners” (英語). TOLOnews (2019年9月28日). 2019年11月16日閲覧。
  34. INC, SANKEI DIGITAL (2019年10月4日). “アフガン大統領選 投票者数は過去最低”. 産経ニュース. 2019年11月16日閲覧。
  35. “Special Report on 2018 Elections Violence”. UNAMA. 2019年11月16日閲覧。
  36. “Election Preliminary Result Could Face Delay: IEC” (英語). TOLOnews (2019年10月15日). 2019年11月16日閲覧。
  37. “IEC: Election Results to be Announced Nov. 14” (英語). TOLOnews (2019年10月27日). 2019年11月16日閲覧。
  38. “IEC Completes Assessment of Suspicious Biometric Devices” (英語). TOLOnews (2019年10月23日). 2019年11月16日閲覧。
  39. “Delay Paves Way for Election Fraud: Critics” (英語). TOLOnews (2019年10月28日). 2019年11月16日閲覧。
  40. Oct 30 (2019年10月30日). “Dermalog addresses discrepancy in Afghanistan biometric vote totals ahead of result announcement” (英語). Biometric Update. 2019年11月16日閲覧。
  41. “Abdullah Blasts IEC for ‘Ignoring’ Candidates’ Demands” (英語). TOLOnews (2019年11月18日). 2019年11月21日閲覧。
  42. “Abdullah’s Team Demands Removal of “Fraudulent” Votes” (英語). TOLOnews (2019年11月6日). 2019年11月16日閲覧。
  43. 日本放送協会 (2019年11月15日). “アフガン大統領選 暫定結果の発表さらに延期 有権者から懸念も”. NHKニュース. 2019年11月16日閲覧。
  44. “We Cannot Invalidate Differing Votes: IEC Chairwoman” (英語). TOLOnews (2019年11月21日). 2019年11月21日閲覧。
  45. “Sources: IEC Leaders Disagree on Election Results” (英語). TOLOnews (2019年12月11日). 2019年12月14日閲覧。
  46. “アフガン大統領選、現職のガニ氏が半数超の得票 暫定結果”. www.afpbb.com (2019年12月22日). 2019年12月22日閲覧。
  47. “アフガン大統領選、現職ガニ氏再選 対立候補は結果に異議”. AFPBB News. フランス通信社. (2020年2月19日). https://www.afpbb.com/articles/-/3268991 2020年3月10日閲覧。
  48. “アフガンのガニ大統領と対立候補が同時に就任宣誓、最中に爆発音”. www.afpbb.com. 2020年4月12日閲覧。
  49. “アフガン、「政権並立」続く 大統領選の混乱収束せず:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2020年4月12日閲覧。
  50. “米国務長官、アフガン電撃訪問で支援削減発表 帰路タリバンとも面会”. www.afpbb.com. 2020年4月12日閲覧。
  51. “大統領選で混乱のアフガン 大統領と対立候補が連携し新政権へ”. NHK NEWSWEB. NHK. (2020年5月18日). https://web.archive.org/web/20200517193512/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200518/k10012434151000.html 2020年5月23日閲覧。
  52. Ali Yawar Adili (2019年2月11日). “Afghanistan’s 2019 elections (2): Who is running to become the next president?”. Afghanistan Analysts Network. 2019年8月20日閲覧。
  53. Independent Election Commission of Afghanistan. “1398 Presidential Election Candidate List”. IEC AF. 2019年9月3日閲覧。

外部リンク

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