アルコール先生原始時代の巻

『アルコール先生原始時代の巻』(アルコールせんせいげんしじだいのまき、His Prehistoric Past) は、1914年公開の短編サイレント映画。キーストン社による製作で、主演・監督はチャールズ・チャップリン。1971年に映画研究家ウノ・アスプランドが制定したチャップリンのフィルモグラフィーの整理システムに基づけば、チャップリンの映画出演35作目にあたる[2][注 2]。また、チャップリンのキーストン時代最後の映画でもある。

アルコール先生原始時代の巻
His Prehistoric Past
監督 チャールズ・チャップリン
脚本 チャールズ・チャップリン
製作 マック・セネット
出演者 チャールズ・チャップリン
マック・スウェイン
ジーン・マーシュ
フリッツ・シェイド
セシル・アーノルド
アル・セント・ジョン
撮影 フランク・D・ウィリアムズ
配給 キーストン・フィルム・カンパニー
公開 1914年12月7日
上映時間 33分[注 1]
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 サイレント映画
英語字幕

作品は夢オチの形態をとるが、チャップリンがフレッド・カーノー劇団時代に出演した芝居の一つである『恐れ知らずのジミー』が、この形態をとっている[3]。後年の『担へ銃』(1918年)の構成もこの夢オチの形態であり、『独裁者』(1940年)の結末の、当初の構想も夢オチであった[4]。時代設定の石器時代は、のちに捏造が発覚したピルトダウン人の頭蓋骨発見などによる古代人ブームが背景にあると考えられている[3]。

あらすじ

チャーリーは公園のベンチで居眠りするうちに、石器時代で生きる夢を見た。石器時代でチャーリーは「弱あご」と呼ばれ、ローブラウ王(マック・スウェイン)の治める国にいた。「弱あご」チャーリーはローブラウ王のお気に入りの妻(ジーン・マーシュ)に手を出してしまい、それが原因となって王に追われる身となる。洞窟に逃げ込むが、王は大きな岩で「弱あご」チャーリーを殴る。ここで目が覚めたチャーリーは、自分が警官に乱暴に起こされたことを知った[3][5][6]。

背景・キーストン社退社

チャップリンは1914年2月に『成功争ひ』でデビューして以来、出演のたびに何かしらの変化を徐々に遂げていき、キーストン社に利益をもたらす少しばかりの「お偉方」にもなってはいた[7]。このことはセネットをはじめとするキーストン社の人間ばかりか、チャップリン自身もおそらく想像していなかったし[7]、『メーベルの身替り運転』のころには意見の対立から解雇の可能性もあった[8][9][10]。1914年6月には故郷イギリスでもチャップリン映画が上映されるようになり、『ヴェニスの子供自動車競走』をはじめとする諸作品のイギリスでの評判も上々であった[11]。

第一次世界大戦勃発(1914年7月28日)のころ、チャップリンはセネットと次のシーズンのギャラについての交渉を開始し、チャップリンは「週1000ドル」を要求するが、セネットは「僕だってそんなに貰ってないぜ」と言って拒否をした[12][13]。ここでチャップリンは、自分が成功している現実を楯に新しい契約の締結を迫る[13]。困ったセネットは側近と協議し、「1年目:週500ドル、2年目:週750ドル、3年目:週1500ドル」の3年契約をチャップリンに提示したが、チャップリンは「1年目:週1500ドル、2年目:週750ドル。3年目:週500ドル」なら契約を締結すると言ったため、セネットは「そんなばかな話があるもんか」といって契約の話はそれっきりとなり、契約満了をもってのチャップリンのキーストン社退社が確定した[13][14]。チャップリンは、週1250ドルのギャラと1万ドルのボーナスを提示してきたエッサネイ社に移籍することとなった[15]。

『アルコール先生原始時代の巻』は、そのような契約満了が迫る時期に製作され、チャップリンは編集の際に断続的に契約問題を思い出していたため編集に難儀したが、なんとか完成させることができたと自伝で回想する[16]。編集を終えて2日後、チャップリンは新しい契約先のシカゴのエッサネイ社に向かったが[17]、セネットをはじめとするキーストン社の人間に別れを言うことはできなかった[18]。チャップリンがキーストン社で出演および製作した映画は合計36本。そのうち『彼女の友人である追いはぎ』はフィルムが現存しておらずチャップリンが出演していない可能性もあり[19]、『泥棒を捕まえる人』は2010年に96年ぶりに表に出てきた。

キャスト

  • チャールズ・チャップリン - 夢の中で「弱あご」と名付けられた男
  • マック・スウェイン - ローブラウ王
  • ジーン・マーシュ - ローブラウ王お気に入りの妻
  • フリッツ・シェイド - クレオ
  • セシル・アーノルド - 洞窟の娘
  • アル・セント・ジョン - 洞窟の男

ほか

脚注

注釈

  1. 英語版Wikipedia版では「10 minutes」となっているが、ここでは2,000フィート (610 m)というフィルム長から、同じ長さの『チャップリンとパン屋』を参考に時間を推測した[1]。
  2. 1914年製作、2010年発見の『泥棒を捕まえる人』を除く。

出典

  1. ロビンソン 1993b, pp. 438–439.
  2. 大野 2007, p. 252.
  3. ロビンソン 1993a, p. 168.
  4. チェチリア・チャンチェレーリ『『独裁者』の裏側を見る:チャップリン・アーカイブを味わう』日本チャップリン協会、2007年、48-59頁。
  5. His Prehistoric Past - IMDb(英語)
  6. “35. His Prehistoric Past (1914)” (英語). BFI Homepage - Chaplin Home. 英国映画協会. 2022年10月13日閲覧。
  7. ロビンソン 1993a, p. 171.
  8. チャップリン 1966, p. 168.
  9. ロビンソン 1993a, p. 161.
  10. 大野 2005, p. 25.
  11. ロビンソン 1993a, pp. 171–172.
  12. チャップリン 1966, p. 177.
  13. ロビンソン 1993a, p. 172.
  14. チャップリン 1966, p. 178.
  15. チャップリン 1966, p. 179.
  16. チャップリン 1966, p. 180.
  17. ロビンソン 1993a, pp. 175–176.
  18. チャップリン 1966, p. 181.
  19. 大野 2007, p. 253.

参考文献

  • チャールズ・チャップリン『チャップリン自伝』中野好夫 訳、新潮社、1966年11月。ISBN 978-4-1050-5001-6。
  • デイヴィッド・ロビンソン『チャップリン』 上、宮本高晴、高田恵子 訳、文藝春秋、1993年4月。ISBN 978-4-1634-7430-4。
  • デイヴィッド・ロビンソン『チャップリン』 下、宮本高晴、高田恵子 訳、文藝春秋、1993年4月。ISBN 978-4-1634-7440-3。
  • 大野裕之『チャップリン再入門』日本放送出版協会〈生活人新書〉、2005年4月。ISBN 978-4-1408-8141-5。
  • 大野裕之『チャップリン・未公開NGフィルムの全貌』日本放送出版協会、2007年3月。ISBN 978-4-1408-1183-2。

外部リンク

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