穂久邇文庫本源氏物語
概要
鎌倉時代末期の書写と見られる写本である。54帖の揃い本であるが、蓬生と関屋、常夏と篝火、横笛と鈴虫がそれぞれ合冊になっているため51冊からなる[1]。本写本が穂久邇文庫にはいる以前の伝来は一切不明である[2]。本写本は1959年(昭和34年)12月18日付で重要文化財に指定されている。
保存状況
全帖に亘って多少の手ずれや虫食いはあるものの、本文の判読に支障のあるようなほどの欠損はなく保存状況は非常に良い[3]。花散里、椎本、宿木に若干の錯簡があり、宿木には約1丁分の脱落がある[4]。
詳細な書誌
伝承筆者
古筆鑑定では冷泉為相、二条為明、二条為定、後光厳天皇の4人を書写者としているが、実際の筆跡を見る限りもうすこし多くの筆に分かれると見られる[6]。古筆鑑定では各書写者はそれぞれ以下の巻を分担しているとされる[7]。
本文の性格
本写本の「桐壺」巻巻末にある「元応二年十月」付けの奥書において「本云」として「嘉元二年九月廿九日以定家卿本校合了」として定家卿本(青表紙本)と校合したとの記載がある。また和歌は定家本特有の上句と下句とで改行した2行書きになっている。しかしながら本写本の「桐壺」の本文そのものは横山本や肖柏本・三条西家本と一致した本文を有する一方で別本諸本とも共通異文を有するという状況にあり、「概ね定家本系統である。」とはいえるにしても必ずしも常に定家本(青表紙本)に非常に近いとは限らないものである。阿部秋生は「『校合了』と記載されてはいるものの、青表紙本・河内本・別本という本文の系統意識は、はなはだ希薄なように思われる」と指摘している。巻別に本文系統を調べると「青表紙本の本文を持つ巻」と「別本の本文を持つ巻」とに分かれる。前述のように桐壺巻巻末にある勘物の内容は河内方の注釈書「紫明抄」に近いものであるが、本文自体は「河内本に属する」といえるような巻は無い[10]。
校本への採用
本写本は『校異源氏物語』や『源氏物語大成校異編』には採用されておらず、『源氏物語大成研究編』の「大島本源氏物語の伝来とその学術的価値」において「一覧を請うこと再三に及んだが許可を得ることが出来なかった池田自身は未見である新発見の写本」として簡単に触れられているだけであるものの、それ以後に作成された以下のような校本には校異が採られている。
影印本
- 日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 3 源氏物語 1』貴重本刊行会、1979年(昭和54年)10月。 ISBN 4-89009-036-3
- 日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 4 源氏物語 2』貴重本刊行会、1979年(昭和54年)11月。 ISBN
- 日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 5 源氏物語 3』貴重本刊行会、1979年(昭和54年)12月。 ISBN 4-89009-038-X
- 日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 6 源氏物語 4』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)1月。 ISBN 4-89009-039-8
- 日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月。 ISBN 4-89009-040-1
参考文献
脚注
- 阿部秋生「解説 冊数」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、p. 563。
- 阿部秋生「解説 伝来」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、p. 565。
- 阿部秋生「解説 保存状態」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、p. 564。
- 阿部秋生「解説 錯簡・脱文」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、pp. 579-580。
- 阿部秋生「解説 奥書」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、p. 564。
- 阿部秋生「解説 本文の筆者」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、p. 564。
- 阿部秋生「解説 書誌一覧表」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、pp. 566-571。
- 阿部秋生「解説 巻末勘物」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、pp. 574-575。
- 阿部秋生「解説 付属文書」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、pp. 580-592。
- 阿部秋生「解説 本文の系統」日本古典文学会編『日本古典文学影印叢刊 7 源氏物語 5』貴重本刊行会、1980年(昭和55年)2月、pp. 593-629。
- 「続編刊行にあたって」『源氏物語別本集成 続 第1巻』おうふう、2005年(平成17年)5月、p. 6。 ISBN 4-2730-3401-8

