カレン民族軍

カレン民族軍(カレンみんぞくぐん、ビルマ語: ကရင်အမျိုးသားတပ်မတော်英語: Karen National Army、略称: KNA)は、ミャンマーカレン人系反政府武装勢力である。民主カレン仏教徒軍を再編した、ミャンマー軍の下部組織であるカレン州国境警備隊がさらに改組され、成立した。

カレン民族軍
ကရင်အမျိုးသားတပ်မတော်
ミャンマー内戦に参加
活動期間 2024年 -
指導者 ソー・チットゥー
本部 ミャンマーの旗 ミャンマー カレン州 シュエコッコ[1]
活動地域 ミャンマーの旗 ミャンマー カレン州
兵力 7,000+[2]
前身 カレン州国境警備隊(旧・民主カレン仏教徒軍
関連勢力
敵対勢力

国家勢力

非国家勢力

歴史

カレン州国境警備隊

タイ側から見たシュエコッコ(2022年8月26日)。カレン民族軍およびその前身であるカレン州国境警備隊の本拠地。

2008年に制定されたミャンマー連邦共和国憲法においては、ミャンマー軍が国内における唯一の武装組織であると定められた。2009年4月以降、ミャンマー政府は同憲法にもとづき、国内の武装勢力を国軍傘下の国境警備隊(Border Guard Forces、BGF)に改編することを要求した。組織としての独立性を喪失することになる同要求を、多くの組織は拒否したものの、一部の勢力は受け入れた。民主カレン仏教徒軍(DKBA)はそうした勢力のひとつであり、のちに民主カレン慈善軍(DKBA)となる国境開発旅団をのぞいては、2010年に軍に帰順した[5]

DKBAを主な前身とする、カレン州BGFは同州のシュエコッコに本拠地を置いた[6]。シュエコッコでは中国系資本により開発プロジェクトが実施されたが、これらのプロジェクトの多くが違法賭博・人身売買・恐喝・インターネット詐欺などに関与するものであることが知られている[7][8][9][10]。2020年6月、ミャンマー政府は同地域でおこなわれる亜太国際控股集団の開発プロジェクトについて違法性を捜査するための法廷を設置し、プロジェクトを中止させた[11][12][13]。この開発を通じ、ミャンマー政府とBGFの間で緊張が高まった[14]

2021年1月には、ミャンマー軍はシュエコッコに関する汚職疑惑でカレン州国境警備隊(旧DKBA)の指揮官であるチットゥーおよびモウッソン(Mout Thon)少佐、ティンウィン(Tin Win)少佐に辞任の圧力をかけた。モウッソンはこれに諾い、1月8日に彼以下4連隊・13大隊の士官13人・下士官77人が連名で辞表を提出した[15]。これに抗議を示して少なくとも7000人の兵士がカレン州BGFに辞表を提出したが、チットゥーは辞任を拒否した[16]。しかし、2021年クーデター後、ミャンマー政府はBGFとの協力関係を深めるようになり、シュエコッコの開発に対する政府からの圧力はゆるめられた[17]

カレン民族軍の成立

ミャワディでの戦闘をうけてタイ側に逃れた住民(2024年4月20日)

インターネット詐欺の根絶を目的とする中国およびタイからの圧力を背景として、2024年1月11日にはマウンマウンオン情報大臣およびミンウー(Mint Oo)カレン州知事が、チットゥーと会談をおこなった。また、チットゥーはミャンマーの最高指導者であるミンアウンフライン国家行政評議会議長との会談を拒絶した[18]。1月23日にはチットゥーがミャンマー軍副司令官であるソー・ウィンと会談し、軍の支援を受けないこと、BGFはカレン族の同胞とは戦闘せず、自立することを伝えたとメディアに明かした[19][20]。3月6日にはカレン州BGFはカレン民族軍(Karen National Army、KNA)に改組されることが発表された[21]

フロンティア・ミャンマー』誌のSaw Say Gay と George Ashen Fen は、BGFのこうした判断は、同様にインターネット詐欺を資金源としているコーカンBGFが、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)に本拠地を占領されたことで、軍事政権が自らを守れないほどに弱体化していることが明らかになったことを背景のひとつとしていると論じる。また、BGFの基盤であるカレン人の多くは自民族との対立を望んでおらず、こうした兵士および支配地域住民の圧力も、独立にあたっての大きな要因となった[18]

カレン民族同盟(KNU)は2024年4月21日、タイ・ミャンマー国境の都市であるミャワディを制圧したと発表した[22][23]。しかし、同24日には、国軍の反攻をうけて一時撤退が宣言された[24]アルジャジーラの Caleb Quinley および Khun Kali の取材によれば、KNAがミャンマー軍に対する支援を停止したことが、同作戦が成功した背景にある。しかし、KNUの軍事部門であるカレン民族解放軍(KNLA)はミャワディ市内に立ち入ることができず、軍とKNAの間で結ばれた何らかの協定をもとに、ふたたび軍がミャワディに戻ってきているという。研究者の Kim Jollife はこの背景について、チットゥーが両陣営からできる限りの好条件を獲得するために駆け引きをおこなっているという説、KNA内部で軍部とKNUのどちらにつくかについて、内部対立が起こっているという説のふたつを提示している[23]

出典

  1. “Kayin Border Guard Force celebrates ninth anniversary”. Frontier Myanmar. (2019年8月20日). オリジナルの2024年4月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240419161337/https://www.frontiermyanmar.net/en/kayin-border-guard-force-celebrates-ninth-anniversary/
  2. “All Karen Border Guard Force units to be rebranded as The Karen National Army”. Karen News. (2024年3月2日). オリジナルの2024年4月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240408033655/https://karennews.org/2024/03/all-karen-border-guard-force-units-to-be-rebranded-as-the-karen-national-army/
  3. “As Myanmar Junta Counteroffensive Looms, KNU Leaves Myawaddy in Hands of Allies”. The Irrawwaddy. (2024年4月19日). オリジナルの2024年4月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240422101638/https://www.irrawaddy.com/news/burma/as-myanmar-junta-counteroffensive-looms-knu-leaves-myawaddy-in-hands-of-allies.html
  4. “Into the lion's den: The failed attack on Shwe Kokko”. Frontier Myanmar. (2023年5月11日). オリジナルの2024年4月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240411083958/https://www.frontiermyanmar.net/en/into-the-lions-den-the-failed-attack-on-shwe-kokko/
  5. 佐々木, 研「ミャンマー・カイン州の武装勢力による現行和平プロセスへの反応」『東洋文化研究所紀要』第179巻、2021年3月26日、77-103頁。
  6. Nachemson, Andrew (2020年7月7日). The mystery man behind the Shwe Kokko project (英語). Frontier Myanmar. 2024年5月2日閲覧。
  7. Frontier (2022年6月23日). Scam City: How the coup brought Shwe Kokko back to life (英語). Frontier Myanmar. 2023年3月2日閲覧。
  8. With conflict escalating, Karen BGF gets back to business (英語). Frontier Myanmar (2021年5月13日). 2023年3月2日閲覧。
  9. Clapp, Priscilla (2022年11月9日). Myanmar’s Criminal Zones: A Growing Threat to Global Security (英語). United States Institute of Peace. 2023年3月2日閲覧。
  10. “Cambodia scams: Lured and trapped into slavery in South East Asia” (英語). BBC News. (2022年9月20日). https://www.bbc.com/news/world-asia-62792875 2023年3月2日閲覧。
  11. Lwin, Nan (2020年6月16日). Myanmar Govt to Probe Contentious Chinese Development on Thai Border (英語). The Irrawaddy. 2020年6月19日閲覧。
  12. Clapp, Priscilla (2022年11月9日). Myanmar’s Criminal Zones: A Growing Threat to Global Security (英語). United States Institute of Peace. 2023年3月2日閲覧。
  13. Kyaw Thu (2020年6月16日). Myanmar Govt to Probe Contentious Chinese Development on Thai Border (英語). The Irrawaddy. 2023年3月2日閲覧。
  14. Han, Naw Betty (2020年12月30日). Shwe Kokko locked down as locals fear clashes between Tatmadaw, BGF (英語). Frontier Myanmar. 2023年3月2日閲覧。
  15. “BGF ထိပ်သီးခေါင်း‌ဆောင်များ နုတ်ထွက်ခြင်းမပြုရန် တပ်မတော်တိုက်တွန်း” (ビルマ語). Myanmar NOW. (2021年1月15日). https://www.myanmar-now.org/mm/news/5479
  16. “ယူနီဖောင်းချွတ်ရန် အစီအစဉ် မရှိသေးဟု ဗိုလ်မှူးကြီးစောချစ်သူပြော” (ビルマ語). Mizzima. (2021年1月12日). https://www.mizzimaburmese.com/article/77374
  17. Frontier (2022年6月23日). Scam City: How the coup brought Shwe Kokko back to life (英語). Frontier Myanmar. 2024年5月2日閲覧。
  18. Frontier (2024年1月29日). What’s at stake as the Kayin BGF seeks independence? (英語). Frontier Myanmar. 2024年5月2日閲覧。
  19. “ဒုတိယ ဗိုလ်ချုပ်မှူးကြီးစိုးဝင်း ကရင်ပြည်နယ်ကို နေ့ချင်းပြန်သွားရောက်” (ビルマ語). BBC News မြန်မာ. (2024年1月23日). https://www.bbc.com/burmese/articles/cy953kl3q95o
  20. “ကရင်နယ်ခြားစောင့်တပ် သီးခြားရပ်တည်ရေး ဒုတပ်ချုပ်နဲ့ ဗိုလ်မှူးကြီးစောချစ်သူဆွေးနွေး” (ビルマ語). Radio Free Asia. https://www.rfa.org/burmese/news/bgf-saw-chit-thu-01242024024421.html
  21. “Karen BGF to rename itself 'Karen National Army'” (英語). Myanmar Now. (6 days March 2024). https://myanmar-now.org/en/news/karen-bgf-to-rename-itself-karen-national-army/
  22. ミャンマー武装勢力、タイ国境の要衝掌握へ 避難民が国境に殺到か:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年4月12日). 2024年5月2日閲覧。
  23. Quinley, Caleb (2024年5月1日). A sanctioned strongman and the ‘fall’ of Myanmar’s Myawaddy (英語). Al Jazeera. 2024年5月2日閲覧。
  24. ロイター編集「ミャンマー反政府勢力、タイ国境の町から撤退 国軍が反攻」『Reuters』、2024年4月24日。2024年5月2日閲覧。
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